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イギリスの都市計画③:都市計画申請

前にイギリスの都市計画制度について書きました。


今回はイギリスでどうやって都市計画許可を申請するのかを具体的に説明します。自分の家にサンルームを作りたいとか、おうちカフェをオープンしたい時に必要となる制度です。

都市計画許可申請 Planning Application

まず、建てたいサンルームが小さいものなら許可が要らないかもしれません。増築の場合、小さい規模のものなら通常の場合、許可を申請しなくてもいいという決まりがあります。たとえば、一戸建て(Detached House) の場合、既存の外壁から4メートル未満、そうでない場合(テラスやセミ・デタッチト)なら3メートル未満まで、高さが4メートル未満までと条件が決まっています。

けれども、庭が狭いとか、家が保存地区内にあるとか、リスティッドビルディングと呼ばれる保存対象建築物であるとか、例外もあるのです。なので、よく分からない場合は地方自治体の都市計画課内の Development Control (ディヴィロプメント・コントロール)という係に問い合わせてみることが推奨されています。

もし許可が必要な場合は、「都市計画申請 Planning Application (プラニング・アプリケーション)」を都市計画課に提出します。

許可申請の手続き

都市計画許可申請は、書類を取り寄せて記入することもできますが、最近はだいたいオンラインで申請ができるようになっています。所定の用紙に記入するほか、許可を希望する内容を示す図面なども申請料と共に提出する必要があります。

ちなみにこの申請は「Building Regulations (ビルディング・レギュレーションズ)」と呼ばれる建築規制とは別なので、こちらも並行して申請する必要があります。

また、大規模な申請の場合は、ほかにもさまざまな書類、図面、情報を提出しなければなりません。たとえばデザインやアクセスについてのレポート、環境アセスメントなど自治体の都市計画課が必要とする情報をすべて用意します。「どうして?」と思うようなものまで用意しないといけないことも多々あります。たとえば、コウモリが建物に巣を作っていないかどうかの調査とか。

サンルームくらいなら、自分で図面が描ける人はすべての書類を自分で用意することができるかもしれません。でも、通常は経験のある建築家やビルダー、都市計画コンサルタントなどに委託することが多いです。許可がおりるかどうか疑わしい場合などは、特に専門家に任せたほうが安全かもしれません。

都市計画許可の決定

すべての書類が都市計画課に提出されたあと、Planning Officer (プラニング・オフィサー)が申請を吟味します。

これには、下記のような様々な観点が考慮されます。

・その地区の'Development Plan'と呼ばれるマスタープランにあっているか
・開発用途
・建物のデザイン
・交通量や既存インフラへの影響
・まわりの建物や住民・通行人などへの影響
・周辺の自然環境への影響

コンサルテーション(意見聴取)

都市計画申請を決定するにあたって、近隣住民ほか一般市民に広く意見聴取がなされ、すべての意見が考慮されます。このためには申請が出された場所の外の壁や電柱にその情報が張られたり、地方新聞に広告が載ったりするほか、隣近所に手紙が送られます。それを見て詳しい情報を知りたい人は都市計画課に行ったりオンラインで詳細を見ることができるのです。

最近、うちにもこの意見聴取の手紙が来ました。近所で、ずっと空き家だった大きなお屋敷とその隣の家2件を取り壊して老人ホームを建てるという開発についてでした。

その手紙には「詳細を知りたい人はオンラインで見ることもできるし、市役所の都市計画課に行っても見られる」と書いてあります。また「この都市計画申請を担当するオフィサーと話をすることもできる」とあります。そして、「個人的に意見がある場合は3週間以内に提出してください、また請願書を提出したい場合はその運動をはじめてください」ということです。最後に「プラニング・チャリティー団体で無料でアドバイスを受けることもできます」と、その団体を紹介しています。

こういう手紙を個人的に受け取らなくても、どんな都市計画申請にも意見を提出する権利は誰にでもあります。なので、開発に反対な人は個人で手紙を書いたりします。また、反対意見を集めて請願書を出したりするコミュニティーが出てくることもあります。

開発に反対だったら

もし、こういう手紙が来たら、または近所で張り紙を見たりローカルペーパーで見つけたりした計画があり、それに反対だとしたら、どうしたらいいのでしょうか。

イギリス人なら、開発が起きるのをただあきらめるのではなく、市役所の都市計画課に手紙を出します。すべての意見が受け入れられるわけではありませんが、きちんとした理由がある反対意見なら考慮されます。その開発に賛成なら、もちろん、賛成意見を提出してもいいわけです。

逆に、自分自身がサンルームを建てたいと思い、都市計画許可申請をしたとき、隣人に反対されることもあり得るわけです。プライバシーの侵害とか、日照が遮られるとかの理由で。

なので、自分が申請する場合は都市計画申請を出す前に隣近所の人に話しておいた方がいいようです。「サンルームを建てようと思っているのだけど、どう思いますか」と。何もことわらず申請を出すと、近所付き合いのトラブルのもとになりがち。ご近所さんは味方につけておいた方がいいのです。

最終的な決定は市議会で

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さて、すべての意見を聴取し、都市計画申請の内容を吟味したのち、自治体のプラニング・オフィサーはその計画が妥当であるかどうかを検討します。プラニング・オフィサーは都市計画家で、その分野を専門に勉強し国家資格を持った人たちです。でも、実はこの人達には最終的な権限はありません。

都市計画家は「Recommendation (リコメンデーション)」とよばれるアドバイスを市議会の都市計画委員会にします。それを参考にして、最終的には市議会委員が申請の是非を決定します。どうしてかというと、都市計画許可の判断は選挙で選ばれた地域の代表である議員がすることによって、民主的になされるべきだと考えられているからです。とはいえ、議員は都市計画の専門家ではないので、都市計画家が検討すべき情報と共に助言をするわけです。

都市計画申請を決定する委員会は通常月1回くらいの割合で行われます。透明性を重視するため、公開されていて誰でも傍聴することができます。通常は夕方から夜に行われるので、仕事をしている人でも行きやすいようになっています。

小規模な申請はリストに簡単な説明と都市計画家のリコメンデーションが書いてあるだけで、特にそれに意義がない場合はそのまま決定されます。大規模な計画、反対意見が多いもの、市議会議員が特に必要と思うものは委員会で討論されたのちに議員の多数決によって決定されます。ほとんどの決定は都市計画家のリコメンデーション通りになりますが、そうでない場合もあります。

都市計画申請結果

都市計画申請の決定には3種類あります。

・許可
・条件付き許可
・不許可

都市計画申請が許可される場合でも、条件がつくことが多いです。たとえば、デザイン上の制限とか建築物の使用条件(営業時間など)です。

アピール

都市計画申請が不許可となった場合、都市計画申請者はアピール(不服申立て)することができます。その場合、全国のアピール案件を扱うPlanning Inspectorate というエージェンシーのインスペクター(審議官)によって決定がなされます。

この場合も最終決定者は大臣ですが、ほとんどが都市計画専門家であるインスペクターの決定通りに決められます。アピールでも不許可となった場合、申請者は高等法院 High Court に訴えることができます。

ちなみに、アピールする権利があるのは申請者だけで、計画に反対する人はアピールはできません。

まとめ

「そうだ、サンルームを作ろう。」と思っても、イギリスではそうすぐにはことが進みません。このような都市計画申請のプロセスを踏む必要があるからです。

サンルーム程度の申請でも都市計画書類提出から最低6−8週間はみておかなければなりません。書類審査からコンサルテーション、都市計画委員会での審議などさまざまなプロセスを踏む必要があるからです。

大規模な申請の場合は必要となる情報も多く、事前に自治体の都市計画課と開発の詳細を話し合いながらプロセスをふんでいくため、許可がおりるまで数年かかることも珍しくありません。

このため、無駄な時間や費用を節約するために、開発計画の早めの段階で近所や自治体の都市計画課に相談してみることがすすめられています。


いつも読んでもらってありがとうございます。