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『一目惚れ』〜魂の恩返し〜

雷が落ちた

いや、違う。

『恋に堕ちた』のだ。


【一目惚れ】

衝撃的な出逢いを

あなたはしたことがあるだろうか?

妻には語れぬ、過去の私を

今宵は赤裸々に

語ってみようか。


セコい告白

あなたの恋愛パターンは?

私は例えるなら【蛇】

慎重に相手の心に変化を生んでいき、

『両想いになってる!』

と思ったら行動する慎重派ハンター…

と言えば聞こえはいいが、はた目には、勇気のない、臆病な、セコい告白ばかりしていたように思う。

とにかく【勝てない勝負】には出なかった。


必須スペック

『勝てる勝負に出た!』

留学することにした私の、当時のスペックは相当なものだ。

・貧乏家庭(お小遣い500円!)

・通信制高校5年生

・中学生レベルの英語力

「ビザ審査に必要な英語書類や、エッセイどうすんの?」

すべて【Web翻訳】大先生が片付けてくれた♪

領事館の面接はカタコト英語。

とにかく猪突猛進、決めたらぶち当たるだけ。

それだけで留学できてしまった。

今からすれば多少の【運】と、そのチャンスを逃さぬ【決断力】の他には、なにも持ち合わせてはいなかったように思う。

この2つのスペックが、あの激しい恋にも必須だったのかも知れない…


語学学校

ビザが降り、留学は認められた。

結局、正式書類とお金があれば、少なくとも当時はなんとかなった。

とはいえ語力に問題あり過ぎ。

まずは州立大附属の語学学校へ通い、"How are you?"からスタート。

必死で本場の英語に食らいついた。

3ヶ月ごとのクォーター制で、1学期はあっという間に過ぎ去ろうとしていた。

夏休みが始まる直前、【彼女】は現れた。


雷鳴

美人ではなかった。

それなのに

瞬間

目が離せなくなった。

『ドックン』

落雷が、胸の中に確かに響いた。

私の中の【ナニか】が扉を開け始めていた。


盲目

その女性は日本人で、語学学校へ1日体験しに来た旅行者だった。

『どこに行ったんだ?!』

授業後、立ち去った彼女をそれこそ【必死】に探し歩いていた。

まるでストーカーのよう。

今、出会ったばかりだと言うのに、すでに生まれた【執着】が、体を突き動かしていた。

彼女の影を追い求めること以外、なにも視界に入っていなかった。

30分ほど探しただろうか?

生徒会室を通り過ぎる時、話し声がした。

見つけた!彼女だ!

すぐさま部屋へ入る。

『会議はじまってない。今、話せる!

彼女の隣に座り、改めて自己紹介。

話している間、私の指先からつま先まで、チリチリチリッと電気が走り抜けていた。

初めての感覚。

「グレン、会議始まるから…」

生徒会長に促され、後ろ髪を引かれる想いでその場を去るしかなかった。

1日だけの体験入学。

もう2度と会えないだろう…

帰宅後、おしゃべり好きのパトロンと今日の出逢いについて漏らしていた。

「一目惚れなんて、することないと思ってた。でも彼女とはもう会えない。儚(はかな)い恋だったよ…

その夜はいつまでたっても眠気が訪れなかった。

再会

初めての夏休みは日本で過ごした。

一目惚れからの別れ、【失恋】を引きづっての帰国だった。

1日だけの出逢い。

もう2度会えない【彼女】を、毎晩思い出しては苦しんでいた。

しかし、物語は密かに動き続けていた。

夏休みが明け、再びアメリカへ渡った私に

【奇跡】が訪れた。

目を疑った。

【彼女】が学校に入学していたのだ!

消えかかっていた私の炎は、一気に燃え盛った!

彼女を射止める。

そのためには何だってやる。

失ったはずの【恋】が、再び始まった。


あのとき彼女は、留学を視野に体験入学をしていたのだ。

この語学学校が気に入り、夏の間に入学、秋学期には私より上位クラスに進んでいた。

なぜこの学校を選んだのか。

学校以外にも理由があった。

【生徒会長】だ。

当時の生徒会長は日本人留学生で、

『佐藤グレン』

なんと私と名前がまるっきり一緒だった。

私は私と同じ名前の人を、日本で見たことがない。それなのにアメリカで?まさか。

しかもその生徒会長は彼女の元カレで、私が失恋帰国している夏のあいだに【元サヤ】に戻っていた。

無名のイチ生徒『佐藤グレン』の前に、

学校で1番の人気者『佐藤グレン』が立ちはだかったのだ。

大きな壁を目の前にして、私の血は燃えたぎっていた。


略奪

合わなくなったサヤに、刀は元通りには納まれない。

タイミングが良かったのかもしれない。

元サヤに戻ってはいたものの、彼女と生徒会長はギクシャクしている様子だった。

私は相変わらずの猪突猛進スタイル。

「グレンって、彼女のこと好きなんでしょ?」

クラスメイトから言われてしまうくらい、私の恋は溢れ出していた。

料理好きの私は、美味しい料理が作れたら、小さなお弁当にして、人目もは気にせず手渡し。

放課後に彼女を見つければ、横に座り時間の許す限り話した。

ある日は話しすぎて夜が更けて、

「夜道は危ないから」

と寮までエスコート。

2人で歩く道中で、想いがはちきれ、彼女を壁に押しつけ抱きしめる。

「ちょ、ちょ、グレン、いきなりどうしたの??」

驚く彼女を尻目に

「少しの間、こうさせて欲しい」

猪突猛進。

想いの高鳴りそのままに行動していた。

私は恋をしていた。


爆弾

彼女へ、私の想いは届き始めていた

校舎で会えば2人で話すのが当たり前。

生徒会長の視線を感じる余裕…余地なんてない。

「今夜、うちでパーティをするから来ない?」

彼女の誘いに"No"はなかった。

しかしその晩はクラスでも、親睦パーティが予定されていた。

先にそちらへ顔を出したのだが、集まったメンツが悪かった。

モンゴル人に韓国人。

モンゴルと言えば『ウォッカ』。度数50%越えは当たり前。

韓国で流行りの酒は『ソジュ』。度数34%が最低ラインの強酒。

酒の強いメンツのパーティだった。

私は?タコ八郎。酒には弱い。

駆けつけ一気はウォッカ。

ジョッキになみなみと、度数67%のアルコールが注がれた。

『飲むしかない』

若気の至り、勢い、猪突猛進。

酒をあおってしまった。

腹に熱すぎる爆弾を抱えて、次のパーティ、丘向こうの彼女の元へと、自転車を走らせた。


両想い

気持ち以外にも、その日は届けたい【モノ】があった。

それは美味しいサーモンの『お刺し身』だった。

ロスアンゼルスで美味しい刺身に会えることは奇跡に近かった。

その晩、パトロンが私のために持ち帰ったサーモンは、日本人がナマで食べても『美味しい!』と思える、鮮度ピカイチの品だった。

『彼女に味わってもらいたい!』

ただ、彼女の喜ぶ顔が見たくて、保冷剤入りのバックを抱えて持ってきていた。

彼女の部屋に着けた。

「遅〜い。終わっちゃったわよ…って、グレン、ヒドい顔?!ちょっと大丈夫?!

「こ、これを、食べてもらいたくって…」

足に力がもう入らない。

ちょっ、顔が青い!トイレ来て!

はしたない…

ウォッカもソジュも、その前に食べた美味しいサーモンも、見事に体外へ出てしまった。

しかも好きな女性のその前で。

元ナースだった彼女によれば、

急性アルコール中毒。死んじゃう人だっているんだから。ったくもぉ、刺し身とどけたいって、ほんとグレンって単純w」

「でも好きんなっちゃった

そう言って、彼女は私にキスをした。

動けない私は、ベッドの上でなされるがまま。

彼女の部屋で、始めての2人の夜が始まっていた。


片想い

あの日を境に、2人の関係は明確になり、より彼女を知っていくと、自分との違いに驚きっぱなしだった。

正直あまりにも違い過ぎる彼女の、どこに惹かれたのか説明できない。

彼女は太陽みたいな人だった。

明るく

人付き合いが旺盛で

アクティブで

クラブダンサーで

アウトドア派で

おしゃべり好き。

一緒にデートしたり旅行に行ったりする度に感じていた。

【対極の存在】

普段なら自分から関わろうとはしないタイプの人間だった。

違いを埋めれなければ、歪みは少しづつ広がっていくものなのだろう。

彼女の心が少しづつ離れていくのを感じていた。

それとともに『純真だ』と思っていた恋心はしだいに【執着】の顔を覗かせ始めた。

ある晩、彼女は冷めたのだろう。

セックスの途中で突然、部屋を出ていった。

そして戻ってこない。

10分…20分経っても戻ってこない。

裸の私は放置プレイ状態だった。

さすがに頭に来てリビングに出ると、パソコン片手に何食わぬ顔でネットサーフィンをしている。

喧嘩になった。

放置プレイされていたのは体だけではない。

私一人の感情だけが、その場に置き去りにされていた。

2人の溝は、埋めきれないものになりつつあった…


別れ

執着は嫉妬へと繋がっていた。

太陽のような彼女がその感情を喜ぶはずもなく、2人の関係は疎遠になっていった。

もう私の呼びかけに、太陽は振り向かない。

太陽を失った恋は、ただただ暗く、我が身さえ掴めず迷い続けていた。

考え直す間を取ろうと、アメリカ横断の旅に出た。

2週間ほどの予定で出たのだが、半分ほどの旅路の途中、彼女からの連絡が途絶えた。

代わりに一言

『終わりにしましょう』

テキストメッセージがロスアンゼルスから遠く離れたユタ州の、山奥の村まで届いていた。

苦しさにもだえながら、心の中に1つの疑問が生まれていた。


魂の恩返し

なぜこんなにも【執着】してしまうのか

彼女に対してだけである。

わけが分からない。

なんでこんなに求めてしまうのか。

『普通の恋とは【ナニか】が違う』

そう、終始感じていた。

いったい【ナニ】が違うのか?

好きになるはずのない女性。

普段なら決して魅力的に思わない。

避けて通るタイプ。

恋には発展しない彼女。

【一目惚れ】してしまったワケが知りたかった。

旅を切り上げ帰宅した家で、彼女との別れ、そしてこの【執着】への疑問をパトロンにぶつけてみた。

パトロンは見えない者が【見える・聞こえる・話せる】、いわゆる霊能者だ。

パトロンは、ほほえみながら口を開いた。

「グレン、以前にあなたの前世の話をしたでしょう?多くの女性を泣かして生きてきたって。」

「彼女はね、あなたが過去世でひどい仕打ちをして泣かした。それでもなお、あなたを助けようと命をとして尽くしてくれた人だったの。

「あなたも『なぜこんなに尽くしてしまうのか?』『なぜこんなに執着してしまうのか?』と聞いたわよね。」

「あなたが尽くされ、執着されたから。そしてその時、助けられたから。」

「その【恩返しのために】今生で出会った魂だったのよ。」


答えは死の先に

私の心は、【タマシイ】は、その時、その言葉で『そうだったのか?!』と身の震えるほど、納得したんです。

あなたにとっては到底納得できるものではないかも知れない。

でもその答えは『死んでみないと分からない』

答え合わせを今、することは不可能です。

そして、答え合わせをしたい訳でもありません。

ただ唯一言えることは、【私は私の一目惚れに納得した】ということだけ。

そして【彼女】も、私との恋愛に納得していました。


「愛してくれてありがとう」

3年後。

留学生活が思わぬ終わりを迎え、帰国した私は、うつ状態で実家に引きこもっていました。

2010年の1月5日。

【彼女】からの突然の連絡。

「今、日本に一時帰国してて、大阪にいるんだけど会える?」

消えたはずのあの炎が、かすかに燃えたのを感じました。

【誰とも会えない】状態だった私は、その炎のお陰か、何ヶ月ぶりかの他人と合うことにしたのです。

「ピンポン」

乾いたベルの音が鳴り扉を開けると、そこには【太陽】が立っていました。

数年ぶりの2人。

私の変貌ぶりに、驚いたことだったでしょう。

それでも、さまざまなことを話しました。


最後に彼女は、再会を望んだ理由を話し始めました。

「グレン、あなたはあの時、私のことを精いっぱい、あなたなりの伝え方で【愛してくれていた】のよね。私、それに最近気づけたの。あの時のあなたの愛情のお陰で、今がある気がしているの。」

私を愛してくれてありがとう

はるばる海の向こうから、たったそれだけを伝えたくて来てくれたのだった。

また助けられてしまった。

救われてしまった。

これでは恩返しにならないじゃないか。

彼女が残した『ありがとう』。

その日を境に、うつから解放され、家から出ることができるようになった。

輝きを失った月に、太陽がまた、光を当ててくれたのだ。

恩返しの輪廻

人の命は繰り返す。

私は今、それを信じている。

繰り返すのには理由がある。

目的がある。

それは恩返しの【恩返し】だ。

互いに満足を与え合うように、魂は創られている。

その満足が頂点に達した時、繰り返しは終わるのかもしれない。

その日までは繰り返し。

出逢いと別れを繰り返し、恩を返し合う。

それが我々の本来の、在り方なのかもしれません。

あなたは誰に返しますか?

あなたのそのお金は、あなたが働き、培った、あなたの時間という名の『命』です。もしあなたの『命』を寄付したいと言われたら、私は覚悟して扱わなければならない。『決して無駄にはできない』