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調子に乗りすぎて失敗した話

今は随分おじさんになりましたが、大学時代、飲食店でアルバイトをしていました。
最初は接客中心でしたが、オープンキッチンのお店で調理も手伝うようになりました。割と料理が好きだったので、その係替えは嬉しく、開店する前の下準備から積極的に先輩に色々教えてもらいました。
最初はネギを切ったり、しそを切ったり下準備が主でしたが、段々要領もよくなって、料理の焼き担当になったり、海鮮の料理を任されたりと割と店の味付けに関わるような事も担当するようになりました。

大体、(小さいお店の中の事ですが)それくらいのポジションになると、開店ギリギリに来て、後輩の下準備に文句の一つも言って、エラそうにする人が多かったんですが、僕はあまりそういうタイプではなく、割と下準備が好きでした。

特に好きだったのが、ねぎの小口切り。

ただひたすらに、輪ゴムでまとめられた青く細いネギの束をなるべく薄く小口切りにして、辛みをとるために水にさらします。それを業務用のボール一杯やります。

最初は包丁の使い方がうまくなくて、まず細く切れない。そして、ネギを切るというよりは繊維を潰してしまい、色が変わって使い物にならなかったです。
開店までの短い時間の中で、より細く、より早く、より綺麗に切れるように練習しました。
料理の最後に上に乗せるネギなので、ぶっちゃけあまり料理の味に関係ないですが、どんどんハマっていきました。ただネギを切るというのは、単純な作業ですが、しっかり集中しないとできません。
ですが、ちょっとずつ慣れていき、だんだん細くなり、綺麗に切れるようになりました。
この作業は自分の調子を測るのに一番いい作業でした。
二日酔いだと全然細く切れないし、遅いけど、
シャキっとしている日は、スピードも早いし、ねぎの細さも均一で水にさらすと、ねぎの角が立っていて、ねぎもシャキっとしています。そういう時は、よそ見をしながら切っても、クオリティーが変わりません。

下仕事にも慣れた頃、いつものようにオープンキッチンに入り、ねぎの仕込みをしようと準備を始めました。
ネギを洗い、まな板の上に根っこの方を左側、先を右側にセットし、根っこの部分を切り落とし、(左利きなので、)左に包丁をもち、右手は束になったネギをそっと動かないようにまな板に押しつけ、勢いよく切り始めました。

調子良くいつもより細く綺麗に切れたので、スピードを上げてみました。自分の中でギアを上げても全く乱れません。

ザクザクザクザク切れていく。

「今日は調子がいいなー」なんて思いながら、もう一段スピードを上げてみます。
ネギの白い部分から先っぽの青い部分までどんどん切っていきます。

ザクザクザクザク切れていく。

あれこれ考えている間に1束終わり、また1束まな板に乗せて切っていきます。
束が変わると、切るリズムが変わることも多くて、前の束と同じ質・ペースで切れないことも多かったから、気を取り直して、切っていきます。

ザクザクザクザク切れていく。

同じ質・ペースで切れていってたので、
「今日はイケるな。もう少しスピードを上げてみよう」と思った時に、
キッチンから声をかけられました。
とっさに「えっ!?」と振り向くと同時に右手の一足指に激痛が走りました。
手元をみると、もうその時には包丁が赤く染まり刃が爪の真ん中まで突き刺さっていました。
痛いという感情よりも、なぜか「調子に乗った」という感情が前面に出てきました。声をかけてきた先輩に「ごめんごめん。切っている時に声かけてごめん」と平謝りされましたが、「まだ自分にコントロールできるネギ切りスピードじゃなかったんだな。ゆっくりやっていればこんな事にならなかった」と反省ばかり出てきました。僕からすれば自動車を運転で、スピードの出し過ぎで事故ったようなものでした。

その日の営業中、落ち込んでいる僕を見て、周りのみんなはきっと「指を切ったから落ち込んでいるだろう」と思っていたと思いますが、僕は「スピードをコントロールできなかった」事に落ち込んでいました。


そして、そんなことがあったことも忘れ、月日が流れ、
もう会社では若手と言われなくなりました。


イギリスでロックダウンの中、レストランが開いていないので、自炊することが増えた、というか、ほとんどが自炊。この生活が3ヶ月目を迎えた。料理をすることはおじさんになっても好きで、料理をすることが多いです。
昨日は中華が食べたいと思って、冷蔵庫を見ると卵とトマトがあったので、トマトと卵の炒め物(正式名称は西紅柿炒鶏蛋)を作ろうと準備を始めました。トマトの横にネギがあったので、レシピには入っていないですが、ネギも入れてみようと思って冷蔵庫から出しました。

1束も使わないので数本だけネギを取り出して、綺麗に洗い、白い根っこの部分は左、先っぽは右にまな板の上に置き、左手で包丁を持って、根っこの食べられない部分を切り落としました。

小口切りをしていくと、昔の記憶が蘇り、
「もしかしたらもう少し早くできるんじゃないのか?」と思い始め、徐々にスピードアップ。

スピードアップしても、ザクザク切れていく。

「昔よりは遅いけど、まだイケるな。やっぱり体が覚えているな」と思いながら、もう一段スピードアップ。

スピードアップしても、ザクザク切れていく。

「もうちょっと頑張ってみよう」と思ったところで、

ざっくり人差し指を同じように切ってしまった。

思わず、「調子に乗ったーー」と叫んでいたようで、
「指を切って一言目に『調子乗った』って感想だった人は初めてみた」って妻に笑われてしまった。

20年の時を超えて同じ過ちを繰り返す事になるとは思いもよりませんでした。
今も右手の人差し指にはバンドエイドを巻き、人差し指を使わずにタイプしています。


調子に乗らず、コツコツ頑張ります。


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