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#現代詩

湖畔

湖畔

 わたしの犬が死んだ日に
湖畔にうちすてられた
小舟のひとつに住むことにした
 
湖の上を行き交う無数の舟たち
青く香る
深い霧の向こうで
手を振っているひとがいる
 
  ( あなたは誰だったか
  ( わたしの母か
  ( それとも父だったのか
  ( 年老いた親族
  ( それともきょうだい
  ( 生まれてこない子どもだったか
 
湖畔の砂地から遠ざかると森がある
そこに咲く白い花を摘んで

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「冬から春へ」

「冬から春へ」

未分化の白い腕が木蓮の枝をいっぱいに抱えて。

 

 

原初の闇を匂い立たせる雪原に、そこはわたしたちの、(あなたたちの) 墓だと誰が。 誰が知っている。

 

見つめ合う瞳は小鹿の瞳、猟師に撃たれて血と命を流し続ける生物の瞳。腐り落ちた肉と血のあとに残った、いのちの 鉱石の

キュクロプスが森を歩く夜の、まばたきを忘れた瞳。

 

 

( 沈んでいく 青という遺跡

( 落ちていく 烏

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