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『イキシテル』古傷と虚像に押しつぶされる、優しい物語【フリーゲーム】

夢の中では痛みは感じない?ほんとうに?

『イキシテル』は自覚しているのに覚めることが出来ない夢の中で、現実に戻るすべを探すアドベンチャーゲーム。以前Noteに書いた『グリッチ・キャスケット』の製作者である路地の浦さんの1作目です。

目覚められないのは、望んでいるから?

主人公の辻本怜太はあるとき、学校の教室らしき場所で目が覚める。誰もいない教室を探索すると、怜太に問いかけるような、または責めているかのような書置きが見つかる。

あらかた調べ終わって校舎を出ようとすると外への扉は開かず、仕方なく校舎に戻ると、不穏な影に襲われる。

なすすべもなくやられそうになったところをノアという人物に助けられます。ここが自分の特別な覚めない夢の中だと教えられ、目覚めるための手掛かりを一緒に探すことに。

もう一度外に出ようとした時のノアのセリフ。味方のようでいて、ときおり怜太に辛辣な言葉をかける。

ゲームの主に、メインが謎解き時々戦闘で構成されている。謎解きは周りにヒントがあったり最終手段として作者ホームページにヒントと答えが反転して載っているので活用しましょう。戦闘も非常に簡単で、基本はシンボルエンカウント。基本殴ってれば勝てるので演出としてRPGの戦闘の形式を取っている感じですね。戦闘前にしっかり回復しておけば負けることは無いと思います(2敗)。

傷ついたのは誰?傷つけたのは誰?

ゲームを進めていくと、過去の映像がフラッシュバックするようになる。

なぜ夢の中に閉じ込められているのか、夢の中の影のような住人は自分に何をさせたがっているのか、赤い影の住人はなぜ夢の中に居た方が幸せと諭してくるのか。フラッシュバックする光景は一体誰のものなのか。

ノアと別れ、学校を出てたどり着いたのはひっそり佇む洋館。今度はイリスという黒マスクを付けた少年とともに探索することになる…。








痛みを抱えながら、生きていく(ストーリーネタバレ有注意)

辻本怜太が見ているこの夢は、虐められている友達を助けるために暴力を振るったことで狂った人生から、逃げるために見ている明晰夢だった。

随所で見れるテキストが自分を「慰める言葉」と「叱責する言葉」で出来ていたのは、人生をやりなおしたい気持ち(あるいは他人にかけられた励まし)と己を傷つけて罪を贖おうとする思いが両方あったからだろう。だからこそノアという「自分を救ってくれるヒーロー」、イリスという「自分を殺してくれるエネミー」が虚像として現れた。怜太は何度も「覚めたい」「覚めたくない」を繰り返していたのかもしれない。

発端となった事件で三人は何かしらのかたちで傷ついて、傷つけた。その変えようの無い事実を見せられる度に、見えない傷が痛み出す。心の傷というのは見えないだけに、夢の中でも痛み出す厄介なものだ。こんなに痛いなら、何もかも忘れてしまった方が楽なのに。

だがこの物語は、過去の行いを受け止め、忘れないことが一番良いエンディングへ到達するフラグとなる。

それはきっと、痛みが生きるのに必要だからだ。痛みを感じなければ、そもそも虐めを助けようとも思わなかっただろう。傷つけてしまったことに、こんなに後悔することもなかっただろう。

aエンディングのエピローグでは八重樫つかさと再会して、これからの不安を吐露する。「ゆっくり、進めばいい」。痛みに耐えていた時間は、世間にとっては無駄な時間に映るかもしれない。けれど、どんな時間がかかっても痛みを負った自分を認め、愛することができるようなったことはなにより素晴らしいことだと思う。本作は仄暗い雰囲気ながらも、痛みを肯定する優しい物語であり、非常に好きな作品です。

本編クリア後はこちらも。プレイ時間はおよそ30分ほど。虐めていた側の佐伯愛人も同様に、過去に苛まれ生きていた…。

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