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デザイン経営のストーリー戦略による分析と知的財産権の出願態様等への影響③

今回で本論文は最後になります。フィードバックを頂ければ幸いです。

目次
七、デザイン経営導入事例
八、まとめ
九、おわりに
【参考文献】

七、デザイン経営導入事例2(ナスタ)
1、ナスタ(旧キョーワナスタ)について
 1930年8月4日創業。住宅設備事業(郵便受け、宅配ボックス、消化器ボックス、ランドリー製品等の企画・製造・販売など)、トータルサイン事業(サインシステムの設計、制作、施工など)、デジタル事業(通信を利用した住宅設備の開発、製造、販売など)を手掛ける建築金物メーカーである。


2、ナスタにおけるデザイン経営のストーリー戦略による分析
(1)目標:Willing to pay(WTP)
 90年代と比べて住宅着工戸数は減少しておりナスタのような建物金物メーカーにとっては、低価格競争に巻き込まれていると言える。その中で、従来の製品に新たな価値を見出し、市場規模の獲得に乗り出そうとしていることに鑑みれば、「低コスト」よりも「WTP」を目標にしたと考えられる。

(住宅着工戸数参考URL:
file:///C:/Users/Owner/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/D6H6XO8A/model20120730_8-9.pdf)

(2)コンセプト:楽しいSENTAKU LIFE
 田子がプロジェクトに参加するとき、すでにナスタでは「ランドリー商材」がテーマとして特定されていた。そして、ランドリーつまり洗濯をするという行為の根底にあるのは、「事務的な家事労働」の一つという消極的イメージである一方で、海外で一つの統一されたブランディングにより多少高価であっても、人気のある洗濯グッズが展開され始めたという事実及び洗濯事情は地域や民族性によってだいぶ異なるという田子の考えから、人々は洗濯の時間を無味乾燥としたものではない、豊かな時間にしたいというウォンツを見出し、前記コンセプトにまとめられた。

(3)構成要素:本プロジェクトにて、前記ルールに基づいて行われたこととして、以下のことが挙げられる。
①キービジュアルとプロトタイプ
②インフォグラフィクス
③国際見本市での発表
④社内報の発行
⑤ショールーム

(4)クリティカルコア:既存のランドリー商材を機能ではなく生活の中で捉えたこと
 洗濯ばさみや物干し竿というのは日常的に使用されるものであり、消耗品でもある。そのため、必要最低限に機能が備わっていればよく、「低コスト」で提供できる企業が市場での主要プレイヤーになると考えられる。
 現に、ナスタがコンセプトにあった洗濯ばさみの開発製造(注:ナスタ自身は洗濯ばさみを開発したことがなかった)してもらおうと洗濯ばさみのトップシェアメーカーに赴いたところ、「現状の(デザインの)洗濯ばさみが売れているから、新しいモノを作る理由がない。」(田子p.310)と言われたエピソードがある。
 このようなエピソードから、既存の価値観に対して、消費者の潜在的欲求(ウォンツ)を見出し、コンセプトを創出し、新たなランドリー商材の開発に取り組んだこと自体が、業界として「一見して非合理な」クリティカルコアだと言える。

(5)論理的繋がりについて
①社内の利害関係
 鳴海製陶の事例と同じく、言語化されたコンセプトを視覚化し、共通認識をもつのは重要である。「既存のランドリー商材を機能ではなく生活の中で捉えたこと」は携わる社員自身も見方を変えれば消費者であるため、キョーワナスタでのプロジェクトにおいては、キービジュアルとプロトタイプ(「WASH」「DRY」「LIFE」のカテゴリー毎に必要なアイテムの全てに用意)を作成やインフォグラフィクスを用いてイメージの共有を図っている。
 また、今回はプロジェクトが既に立ち上がっていたため、プロジェクトに携わっていない社内の人間との感情的軋轢を持たせないよう、機会の公平を図るため、社内報で社員一人一人にフォーカスすることや年功序列ではない人事評価制度にも取り組んでいる。

②消費者との関係
 繰り返しになるが、ナスタにおけるクリティカルコアが「既存のランドリー商材を機能ではなく生活の中で捉えたこと」にあるため、今までの製品における文脈や慣習は用いることはできず、新たな言語化や視覚化が必要である。
 本事例では、国際見本市で消費者のフィードバックを得るのと同時に、クリティカルコアである「既存のランドリー商材を機能ではなく生活の中で捉える」ことを体験できるようショールームが一新された。

 なお、このような一連の活動から、室内干しを前提に、一人でも取り付けができるよう開発された「AirHoop」やそれによって作られた天井空間を利用する「AirToach」などの「Airシリーズ」が開発された。シリーズとして開発されていることから、キョーワナスタにおける該商品群のブランド化の意図が窺える。

③まとめ
 ナスタにおいても、「楽しいSENTAKU LIFE」というコンセプトを実現するため、「既存のランドリー商材を機能ではなく生活の中で捉える」ということが新たな言語化(コミュニケーション)の必要性を生み、それが鳴海製陶の事例と同様に「キービジュアルとプロトタイプ」や「インフォグラフィックス」だけではなく、「国際見本市での発表」や「ショールーム」等とも論理的に結びついていることから、「既存のランドリー商材を機能ではなく生活の中で捉える」がナスタのデザイン経営におけるストーリー戦略のクリティカルコアだといえる。
 特に今回の事例では、Strategic Positioning(オリジナルのランドリー商材を作ること)だけではなく、Organizational Capability(プロジェクトに参加していない社員の不満を解消するための制度の創出)まで行われていることもクリティカルコアを強めていると考えられる。他の企業が市場シェアのために、ナスタに倣って組織体制や人事評価まで変えることは、社内の利害の調整などに伴う時間的コスト等から考えても難しいからである。

3、デザイン経営における知的財産活動の影響
(1)調査設計について
 以下の要件の下、デザイン経営における知的財産活動の影響について考察する。
①特許・実用新案及び意匠並びに商標の出願件数、権利範囲の変化について考察する
②プロジェクト期間である2011年から本書刊行の2014年までを中心に前後4年間程度を調査期間とする(プロジェクト継続中のため)。
③調査にはjplat-patを用い、「出願人/権利者」を現社名であるナスタにし、「出願日」に各年度間を入力し調査した。

(2)特許の場合
 前記調査設計の条件に加え、「発明の名称」が洗濯ばさみや物干し竿などのものの出願動向を注視していく。その他の「発明の名称」であっても「発明の詳細な説明」の記載や「図面」から関連性のある発明かを判断していく。
①出願動向
発明の名称/調査出願期間(出願総数)

 2007年~2010年(4件)/ 2011年~2014年(4件)/ 2015年~2019年(10件)
室内用物干し竿: 1件/ 0件/ 1件
洗濯ばさみ: 0件/ 0件/ 0件

その他
2007年~2010年:

開錠番号変更可能ダイヤル錠(1件)
配達物受箱リフォーム用枠扉ユニット(1件)
防滴郵便受箱(1件)

2011~2014年

 換気口装置(1件)
吊掛装置(1件)
投入防止プレート付き郵便受箱(1件)
郵便受箱(1件)

2015年~2018年

宅配物保管システム(1件)
宅配ボックス(2件)
収納什器(1件)
パネル(1件)
吊持装置(1件)
収容ボックスの施錠装置(1件)
ポスト(1件)

②事実整理
 まず、全期間において「洗濯ばさみ」を発明の名称とする出願はなく、詳細な説明の記載や図面からも洗濯ばさみと技術的に関連性のある出願は窺い知れなかった。
 一方で物干し竿は12年間で2件出願されている。出願経過を見てみると特願2007-059418は新規性違反の拒絶査定となっており、特願2016-216198は査定なし(手続き補正却下のみ)となっている。次に「発明の詳細な説明」から技術的に関連性のある発明か判断すると、技術分野において「室内の天井等に取り付けられ」「吊り下げ」など共通した表現を持つ吊掛装置(特願2012-126925、登録5930851)と「室内用物干し装置」との記載が見受けられる吊持装置(特願2017-033162)があり、背景技術など綜合して勘案すると、田子がプロジェクトに携わるようになる前の期間を除くと、1件から3件に増えたと考えられる。
 これらの変化はデザイン経営が行われたことによる影響といえるだろうか。

③考察
 前記出願動向からナスタは「収納」関連の特許出願をしており、「郵便ポスト」や「宅配用のボックス」に関する特許出願が多いことから、主に「天井への取り付け」や「取り付けの簡易性」について権利取得しようとした上記3件の出願はデザイン経営について行われたものだと言えるが、元々手がけていなかった商品を開発したことから、そのような権利取得は当然であるとも言える。

(2)意匠への影響
①出願動向
物品名(出願数)/調査出願期間(出願総数)

2007年~2010年(32件)/ 2011年~2014年(32件)/ 2015年~2019年(35件)
1)昇降式物干し器: 2件/ 0件/ 0件
2)吊下式物干し竿支持具: 2件/ 0件/ 0件
3)物干ざお支持具: 3件/ 1件/ 0件
4)吊下式掛け具: 0件/ 1件/ 0件
5)天井吊下げ用照明器具: 0件/ 1件/ 0件
6)物品吊下げ具用支持盤: 0件/ 0件/ 1件
7)物干し器 :0件/ 0件/ 2件
8)物干し器用操作棒: 0件/ 0件/ 2件
9)物干し用吊下げ具: 0件/ 0件/ 1件

②事実整理
 プロジェクト期間中に出願された意匠に係る物品名を見てみると、大きく三つのカテゴリー(1~3、4~6、7~9)で出願件数が推移していることがわかる。これはデザイン経営が行われたことによる影響だろうか。

③考察
 ナスタにおいても、「楽しいSENTAKU LIFE」というコンセプトを実現するため、「既存のランドリー商材を機能ではなく生活の中で捉える」という新たな言語化・可視化が行われていること、及びメインの消費者である「女性」の社会進出などの理由により、開発当初から室内用物干竿を考えていたことから、屋外での洗濯物の自然乾燥や取り込みとは異なった商材が必要なことに鑑みると、室内用物干竿を最初に出願し、徐々に周辺商材についても出願していくことは充分理解することができる。
 したがって、ナスタ全体の出願数に占める割合は低いが、デザイン経営に端を発した出願と言える。

(3)商標への影響
①出願動向と指定商品等の推移
指定商品等の区分/出願調査期間(総数)

2007年~2010年(4件)/ 2011年~2014年(15件)/ 2015年~2019年(12件)
区分3: 0件/ 2件/ 0件
区分6: 0件/ 0件/ 10件
区分9 :0件/ 0件/ 6件
区分11: 3件/ 3件/ 5件
区分18: 0件/ 2件/ 0件
区分19: 2件/ 3件/ 6件
区分20: 0件/ 13件/ 10件
区分21: 1件/ 6件/ 6件
区分24 :0件/ 2件/ 0件
区分35: 0件/ 2件/ 6件
区分39: 0件/ 0件/ 6件

②事実整理
 まずは、三つの期間を前期・中期・後期と分けてみてみると、プロジェクト参加前の「前期」とプロジェクト参加後の「中期」及び「後期」で出願総数が増加傾向にある。
 次に前期から中期にかけて指定された区分の種類数を比較すると、前期が3つ(区分11、19、21)だったのに対し、中期では8つ(区分3,11,18、19、20、21、24、35)、後期でも8つ(区分6、9、11、19、20、21、35、39)となっている。
 これらの変化はデザイン経営が行われたことによる影響だろうか。

③考察
 前期における区分に係る指定商品等を見てみると

区分11:
家庭用電気冷蔵庫、家庭用電気冷凍庫、電気式クーラーボックス/換気扇用フィルター及びその他の暖冷房装置、家庭用換気扇用フィルター及びその他の家庭用電熱用品類、空気清浄機用フィルター

区分19:
プラスチック製換気口用のフィルター、その他のプラスチック製建築専用材料及びその付属品

区分21:
物干し竿掛けおよびその他の洗濯用具ならびに清掃用具

と「ランドリー商材」をメインとした出願ではないことがわかる。
 次に前期から中期にかけて増えた区をみてみると、特に区分20と21の増加が著しい。
 各々の区分にかかる指定商品を見ると

区分20:
被服用ハンガー、スタンド式洋服かけ又はコートを吊すためのハンガー、ランドリーラック、その他家具

区分21:
洗濯ばさみ、洗濯ばさみ付物干し用ハンガー、物干しざお、バケツ、スタンド式物干しハンガー、洗濯ネット、その他清掃用具及び洗濯用具、アイロン台、霧吹き、こて台、へら台、洋服ブラシ

というように「ランドリー商材」周りについて指定されていることがわかる。前期において指定された区分21に係る指定商品についても、その指定幅が広くなっていることからブランド展開の意図が窺える。
 さらに、ランドリープロジェクト名「nasta」(登録5461193、「NASTA」につき登録5749062、ロゴにつき登録5466030)の区分に係る指定商品等の内訳を見ると、将来も踏まえ「ランドリー」周りについてもブランド展開できるようにしたのではないかと考えられる。

区分3:
アロマオイル、その他香料類、せっけん類、歯磨き、化粧品
区分18:
かばん用ネームタグ、買い物バッグ、その他かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ
区分20:
被服用ハンガー、スタンド式洋服かけ又はコートを吊すためのハンガー、ランドリーラック、その他家具

区分21:
洗濯ばさみ、洗濯ばさみ付物干し用ハンガー、物干しざお、バケツ、スタンド式物干しハンガー、洗濯ネット、その他清掃用具及び洗濯用具、アイロン台、霧吹き、こて台、へら台、洋服ブラシ

区分24:
タオル、その他の布製身の回り品

区分35:
アロマオイルその他の香料類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、かばん用ネームタグ・買い物バッグ・その他のかばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、被服用ハンガー・スタンド式洋服かけ又はコートを吊すためのハンガー・ランドリーラック・その他家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、洗濯ばさみ・洗濯ばさみ付物干し用ハンガー・物干しざお・バケツ・スタンド式物干しハンガー・洗濯ネット・その他洗濯用具・台所用品及び清掃用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、アイロン台及び霧吹きの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、携帯用化粧道具入れ・布製身の回り品・その他身の回り品(ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,腕止めを除く。)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,衣類乾燥機・送風機・空気循環器・その他電気機械器具類(電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品を除く。)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,洋服ブラシの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

 そして、上記にて「Airシリーズ」という商品群を開発していることに触れたが、室内用物干竿のプロジェクト名でもある「Air series」(登録564107)をはじめ、「Air」を含む商標は7件(登録5541341、5694105、5694106、5694107、5620243、5682916、5719188)につき出願・権利取得している。
 このように中期における出願総数の内半数を占めていることから、デザイン経営に端を発した出願が多かったといえる。

 では、中期の出願戦略は後期にかけても受け継がれているか見てみる。変化が著しい区分は6、9、39となっており各区分に係る代表的な指定商品等は以下のとおりである。

区分6:
金属製郵便受け、郵便受け付金属製門扉、郵便受け付金属製支柱、郵便受け付金属製玄関用扉、郵便受け付金属製窓、郵便受け付壁板、宅配ボックス付金属製門扉、宅配ボックス付金属製支柱、宅配ボックス付金属製玄関用扉、宅配ボックス付金属製窓、宅配ボックス付壁板

区分9:
測定機械器具、電気通信機械器具、無線通信機械器具、遠隔測定制御機械器具、電気通信機械器具の部品及び附属品、電子応用機械器具及びその部品、電子計算機用プログラム,アプリケーションソフトウエア、アプリケーションプログラム、電子計算機及びその周辺機器、盗難警報機、インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル、インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル、電子出版物

区分39:
郵便受けの貸与、宅配ボックスの貸与、宅配物自動管理ロッカーの貸与、物品の輸送及び保管の手配、貨物の輸送の媒介、配達物の一時預かり、商品の保管及び輸送からなる物流管理、物品の保管及び輸送に関する助言、輸送、洗濯物の回収及び配達、小包及び物品の回収及び配達、食品の配達、物品の配送

ナスタにおける特許の分析(七.3.(1))において「収納」関連の技術につき出願・権利取得している旨触れたが、後期においては上記指定商品における「郵便」「宅配」の文言から別事業に関する出願が多いことがわかる。


4、小括
 ナスタで行われたデザイン経営と知的財産活動の関係では、デザイン経営による知財活動はあると言えるが、その範囲は限定的であり、特に特許との関係では「デザイン」を見出しがたい。

八、まとめ
1,デザイン経営におけるクリティカルコアの存在について

 以上2件の事例分析により、デザイン経営を導入した企業ではクリティカルコアの存在が確認される。「一、はじめに」にて記載したとおり、デザイン経営がブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法で、その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことにあることから、各業界での慣習や常識から「一見して不合理」なStrategic Positioningを取っているように見えるからだ。
 しかし、ここで注意したいのは、クリティカルコアは「奇をてらう」ことではない。見てきたとおり、商品サービスだけではなくOrganizational Capability(組織能力)も含めた企業を取り巻く構成要素同士がコンセプト及びクリティカルコアと論理的に結びついてなければ、それは他企業から模倣されたり、事業がうまくいかなかったりする原因となる。


2,デザイン経営における知的財産権の出願態様への影響等
 一方で、デザイン経営における知的財産活動については、確かに影響はあるもののそれは限定的なものと解さざるをえない。デザイン経営の定義でも「ブランドの構築」がその目標として掲げられていることもあり、それと結びつきやすい「意匠」や「商標」に傾いてしまうと考えられる。時系列的に捉えれば、ウォンツの発見→コンセプト・クリティカルコアの創出→製品開発(ブランド、意匠的デザイン)となる。
 ただ、富士フイルムのように今まで培ってきた技術を応用して他の事業に進出するという場合(参考URL:https://wedge.ismedia.jp/articles/-/303)ならデザイン経営が活かされるかもしれないと考える。それは、デザイン経営において一番大事な「消費者のウォンツ」を見出した後、つまりコンセプト後の上記定義における「これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策」=クリティカルコアの創出の際には、企業理念という抽象的な存在意義に立ち戻る必要があるからだ。

3,今後の研究課題
 今回は事例対象が二つということもあり、デザイン経営が導入されている企業全てに当てはまるとは限らないので、より多くの事例を踏まえ研究する必要がある。
 また、私見ではデザイン経営の定義から、調査対象はスタートアップよりある程度長きに亘り事業を行っている企業向きではないかと思う。


九、おわりに
 本論文はあくまで筆者の個人的見解であり、知的財産実務としては亜流の経験しかないため、知的財産活動の分析ではツールの使い方や論証で至らぬ点が多いかもしれない。これからも研鑽を積み、新たなテーマに取り組んでいきたい。
 また、SNSを通じ実務者からの反応は論文執筆の上で、とても励みにしていた。末筆になるが、厚く御礼申し上げる。

 
【参考文献等】
田子學・田子裕子・橋口寛『デザインマネジメント』(日経BPマーケティング、2014)
楠木建『ストーリーとしての競争戦略-優れた競争の条件-』(東洋経済新報社、2010)
酒井美里『特許調査入門-サーチャーが教えるIPDLガイド-』(社団法人発明協会、2012)
野崎篤志『特許情報分析とパテントマップ入門』(一般社団法人発明推進協会、2012)
眞島宏明『商標の実務』(レクシスネクシスジャパン、2009)
藤本昇 監修『これで分かる 意匠(デザイン)の戦略実務』(一般社団法人発明推進協会、2019)
デイビット・アーカー『ストーリーで伝えるブランド――シグネチャーストーリーが人々を惹きつける』(ダイアモンド社、2019)

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