ニーズを探るべきか?価値を探るべきか?その間にある深い溝
おいしい料理をつくるには、良い素材が必要ですよね。
それと同様に、面白いサービスをつくるためには、面白い素材、面白い発見が必要です。
そう、リサーチでの洞察で導きだす「ニーズ」や「価値」の質が、サービスのコンセプトづくりにおいて、重要なポイントなっています。
今回は、そのサービスのコンセプトづくりにおいて、重要なポイントでありながら、あまり比較して語られていない「ニーズ」と「価値」の違いについて、考えていきたいと思います。
ちょっとマニアックな記事になってしまいますが、これ、とても大切なことなので、これからサービスデザインを取組む人にぜひ読んで欲しいと思っています。
しばらく前のことです。
サービスデザインを学ぶ人達と一緒に、リサーチ結果を分析していました。新しいサービスのコンセプトを作り出そうと、とある体験に対しての「人」の行動や思考、考え方を紐解きながら、価値観を探っていました。「上位下位関係分析」という方法で本質的なニーズ(本人も気づかないような潜在的ニーズ)を探っていました。
初めてそのメソッドに向き合っている人たちに、考える場を提供しようと思い、私は、分析方法を細かく伝え、ゴールイメージを示し、その場から距離をとりました。そして、分析が終わり、戻ってきた時、愕然としたのです。
これ、コンセプトに使える結果じゃない…
その瞬間までは、人の本質的なニーズまで深ぼることができれば、それに値する新しいコンセプトは創れる!っと思っていましたが、その考え方は脆くも崩壊していきました。
おそらくそれまでの私は、デザイナーの野生的な勘で、無意識にコンセプトがつくれる結果を、導いていたんだと思います。どんなものがコンセプトとなりうるのか?新しいサービスに向いている調査結果になるのか?まさに「面白い結果とは何か」を知っていたから、どんな調査をしても新しいサービスを考えてしまったのかもしれません。
そして、この体験をとおして、「本質的ニーズ」を出すだけでは、コンセプトを発想するためのきっかけを得ることはできないんだ…。と、学んだのです。
本来「ニーズ」とは、人が欲している事を示しています。1人の「人」に注目し、その人の考え方を紐解きながら、考え方のパターンとして価値観を探ったり、どう有りたいのか?どうなりたいのか?といった、欲求を紐解きます。「本質的ニーズ」であっても同様です。潜在的な部分に着目しますが、その人の考え方に注目することに変わりはありません。
一方、「体験価値」は、ニーズとは異なり、コンテクストを含んだ「体験」が対象。価値のある体験はどんなものなのか?どのような状況でどのような体験をしてどのように思うことに価値があるのかを探るものです。
「本質的ニーズ」と「体験価値」。どちらも、これまで見えていなかったものを発見し、人の価値観を浮き彫りにし、新しいものをつくるためのヒントになる考え方です。しかし、導き出す結果は全く違うものです。追うべき対象をを間違えたら大変です。
「ニーズ」と「価値」は別ものです。
「本質的ニーズ」と「体験価値」も違います。
そして、「本質的ニーズ」から「体験価値」を考えるには、経験知と豊かな発想力が必要です。
「本質的ニーズ」と「体験価値」は、どちらもコンセプトの発想に使えるけれど、サービス創造の目的によって、その有効性が異なります。
以上が、私がこの体験をとおして学んだことです。
さて、それでは、本題です。
これらのニーズと価値を、どういう時にどのように追うべきか?それぞれの目的別に、適切な方法について整理してみました。
1.既存ターゲットに対して新サービスの形を考える時は「本質的ニーズ」を探れ!
カスタマーが明確な場合、ターゲットをある程度フォーカスできる場合、今あるサービスを改善していきたい場合。人のニーズを深掘り、深層心理、潜在的で見えていない部分に注目することで、本来あるべき商品像をつかむことができます。その場合には、「ニーズ」を捉え直し「本質的ニーズ」を探ることが有効です。
調査方法としては、「デプスインタビュー」+「上位下位関係分析法」や、「サービスサファリ」+「インサイト分析」などが該当します。「その人たち」が考える深層心理から潜在的な欲求を探り、特定の文脈上での、人の「欲求」を明確にすることができます。
一方で、調査対象者にとって、その体験に価値が無い場合、無関心な場合は、その思想が浮き彫りになってしまうため、逆効果となってしまう可能性もあります。また時に、調査対象者が子供だったり、考え方が固まっていない未成熟者の場合は、考える基準すら持たないことがあり、有効な結果を導け出せないことがあります。
2.新たな市場を開拓するような新サービスの姿を考える時は「体験価値」を探れ!
特定のテーマはあるが、顧客が見えない、むしろ新しく市場を創らなくてはいけない状況下では、人そのものに注目せず、人が行う体験の意味に注目することで、新しいサービスを創出するヒントを見つけることができます。「体験価値」を探る方法です。
調査方法としては、複数人への「インタビュー」+「KA法」や、「サービスサファリ」+「KJ法」や、「カスタマージャニーマップ」による体験分析などが該当します。体験の文脈や、インタラクションの連続性に注目しながら、その文脈上にある人の思考とその時の背景を分析することで、「この○○という分野においては、・・・・という体験を・・・・のようにできることに価値がある」といった、価値ある「体験」を明確にすることができます。
一方で、カスタマーの特性やサービスの姿が大きく飛躍した解釈になるケースも多く、既存のサービス改善などでは、適応しにくい場合もあります。また、市場開拓のために顧客開発が必要なるケースも多い点にも配慮が必要です。
目的を把握しアプローチを考えることの意味
ここまで細かく解説してきましたが、実は、どんなメソッドを使えば良いのか、効果的なアプローチは何なのか、という点は、私は、それほど重要だとは思っていません。なぜなら、面白いコンセプトを作り、実行することができればそれで良いからです。大切なのは、結果にこだわり、最適な判断を瞬時にとることができる体づくりです。
サービスデザインの現場は、一様ではありません。ステークホルダーが違えば、目的も環境も異なります。その場その時で、最適な歩き方が違うのは当たり前です。その中で、縦横無尽に考えをめぐらし、目的に近づくためには、特定のメソッドや方法論に頼ってしまっては、むしろ危険。
目的に近づくための考え方を知り、考えるためのコツを知り、それを活用する体力が必要となります。メソッドに翻弄されないためにも、メソッドの本質的な効果を理解していくことが、今後、もっと必要になってくると考えています。
(三澤)
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