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Maker Mediaが事業停止――Makerはビジネスとして成立するのか

世界最大規模のDIYイベント「Maker Faire」を主催し、DIYマガジン「Make:」を刊行しているアメリカのMaker Mediaが事業を停止し、従業員22人をレイオフ(解雇)するとUS版のTechCrunch日本版はこちら)とcnetが報じました。
報道を見るやいなや僕のSNSのタイムラインは、この話題でもちきりとなりました。その中にはMaker Faire Tokyoの開催を危惧する声もありましたが、
2日後には日本でMaker Faireを運営するオライリー・ジャパンから公式に「開催に影響はない」というアナウンスがありました。

CrunchbaseによればMaker Mediaは2013年に設立、2013年と2015年にそれぞれ500万ドル(合計1000万ドル)を複数のベンチャーキャピタルから調達しています※1。
世界中でMaker Faireが開催され、本国アメリカで開催されるMaker Faire BayAreaとNYは大企業をスポンサーにつけ、毎年活況な様子をSNSやウェブを介して見ていました。
その一方で2016年にも8人をレイオフしたそうで、Maker Mediaのビジネスは順風満帆とは言い難い側面もあったようです。
先述した記事の中で、CEOのDale氏はこれまでの取組がビジネスには向いていなかったこと、今後は非営利組織としての再出発や、成功実績のある教育分野へのフォーカスを検討している旨を話しています。

個人的には前職でfabcrossというオンラインメディアを立ち上げたときからMaker Faireにはメディアとして、またスポンサーとしてお世話になったし、独立してからもさまざまなMakerとエコシステムに関わる仕事をしているので、持続していく形でMaker Faireが続いていくことを望んで止みません。

Makerのためのビジネスは成立するのか


2017年にTechshopが破産し、その2年後にMaker Mediaが破産したことだけを切り取れば「メイカーズムーブメントは終わった。Makerはビジネスにならない」という意見もあるかもしれません。しかし、果たして今の時点でそう断言して良いものでしょうか。

ホビー・教育分野で開発されたオープンソースハードウェアのRaspberry Piは産業用途で普及し、出荷台数も2017年の時点で累計1000万台、月産50〜60万台という規模にまで成長し、大きな成功を収めています。
一時期ブームになった3Dプリンターは個人向け市場こそ大きな伸びはない一方で、金属3Dプリンターや最終製品用の3Dプリント市場は今後大きな市場になる可能性を秘めています。アディダスやナイキなど3Dプリントでスニーカーを製造することも珍しいことではなくなりつつあります。その原点を辿ればオープンソースの3DプリンターをハックしたりDIYしたMakerたちの貢献も少なからずあったでしょう。

YouTubeチャネルのフォロワー数は100万人、Make:の購読者数は12万5000件、世界中にイベントのネットワークを持つなど、Maker Mediaがカバーするコンシューマー向けのテクノロジー・DIY分野の領域で、ここまで巨大なコミュニティと資産をを持つ企業は他に類を見ません。
個人的な意見になりますが、Maker Mediaの破産は彼らが創出した市場がビジネスとして成立しなかったということではなく、うまく活かしきれなかったようにも思います。言い換えれば、この失敗を糧として新たな成功を目指す余地は十分にあると思います。

2015年にfabcrossでDale氏にインタビューした際にMakerとビジネスについて、こんな事を話しています。

——Makerの中からお金持ちが生まれると思いますか?
Dale:私には分かりません。でも昔を考えれば、ガレージから始めたスティーブ・ジョブズが世界的企業を作ったように、成功する人も現れるかもしれません。新しい科学技術は、社会を、個人を変えていくでしょう。ビジネスも同じです。でもものづくりの本質は「楽しい」ということ。「楽しい」というのは重要です。また、ひとりでできることには限界があります。Maker Faireに来ればいろんな人に会えて、作品を見ながら話もできます。


Maker Mediaが所有するライセンスが今後どのように運用されるのか、はたまた他社に移るのかはアナウンスがありませんが、クラウドファンディングが立ち上がったり、Oculusの共同創業者パーマー・ラッキー氏が友人たちとMaker Mediaを助けたいとツイートするなど、継続に向けたアクションも始まっているようです。

メイカームーブメントという言葉ができるはるか昔から、作ることの楽しさは存在していたし、この先消えるものでもありません。「楽しい」というアイデンティティを損なわず、持続可能性のあるモデルのもとMaker FaireとMaker Mediaが生んだ文化が途絶えないでほしいと思います。

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2015年のMaker Faire Tokyoで取材した時のDale Dougherty氏(fabcrossより)

※1…参考までに、近い市場にいたTechshopの調達額は470万ドル。3Dプリンターメーカーmakerbotがstratasysに買収される前の調達額は1000万ドル


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