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猫の集会 2022.2.22

※この記事は2021年に投稿した記事をリライトしたものです。



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仕事帰り、夜道を歩いて自宅に向かっていると、突然、閉まっている信用金庫の前に猫がわらわらと集まってきた。おそらく10匹以上いたのではないか。
ミケ、キジ、ブチ、ハチワレ、デブな猫もいればまだコドモらしき猫もいる。猫たちはなんだかとても集中している様子で、耳をぴんと立て、目を見開いて一点を見ている。

猫好きな私は思わず近寄って、じっと見入った。
猫たちは逃げようともせず、皆が皆じっと同じ一点を見ている。その中の1匹にちょっかいをかけると、その猫は明らかにイラっとした様子で、邪魔するニャ!と言わんばかりに猫パンチをくらわせてきた。
ごめんごめん。
ちょっかいを諦めた私は、少し離れたところで猫たちの様子を見ていた。

不思議な光景だった。
いつもなら近寄るとすぐに逃げてしまう外猫が、私のことなど見えていないかのように、違う何かを見ていた。
しばらくするとどこへともなく消えていったが、彼らはいったい何をしていたのだろう。


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実家にいた頃、我が家には2匹の猫がいた。
猫と暮らしたことがある方にはわかっていただけると思うが、猫は話しかけてくる。

動物を飼ったことのない夫にこの話をすると、
「んなアホなー!猫の言うことがわかるわけないやんけー」
などと言ってくるが、人間と猫のコミュニケーションというのは確実に存在する。

早朝、部屋から出たいときはドスンと乗っかってきて、私が目を覚ますとドアの前にぴたりと座ってこちらを見ている。ドア開けて。にゃー。

お腹がすいたら足元にまとわりつき、飯ちょーだい。にゃーにゃーにゃー。
ご飯あげたら、ヤダ。もっとうまいやつがいいにゃ。

こたつで本を読んでいたら、勝手に膝の上に乗ってくる。鼻筋を人差し指でスリスリしてやると、ウザい、ウザいけど、しょーがないから触らしてやるよ。にゃ。

猫はいちばん気持ちの良い場所を知っている。
干してフカフカになった布団をセッティング。さあ寝ようと思うと猫はたいてい先に寝ている。ふっかふかの布団の上で、それはそれは気持ちよさそうに。

お気に入りの場所はあったかい風呂蓋の上。
目を細めて長いしっぽをぶんぶん、ぶんぶん振り回し、やがてしっぽの先がお湯につかる。お湯をしっぽでばしゃっ、ばしゃっとやる猫を眺めながら、私は猫とのお風呂タイムを過ごす。

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実家にいた2匹の猫のうち、先輩猫のナナさんは病を発し、私が一人暮らしを始めた直後に亡くなった。

彼女は外にお出かけするタイプの猫で、昼間外に出かけていき、夕方駐車場の車の下などに潜んでいて、人間が家に入ろうとドアを開ける瞬間を狙ってスルッと中に入ってくる。
たいていその日のうちに帰ってくるが、一回だけ外泊したことがあった。そんなことは初めてだったし、翌日大雨が降ってきたのでとても心配した。

3日目の朝、ナナさんはひょっこり帰ってきた。どこにいたのか濡れた様子もなく、何事もなかったかのようにご飯を食べていたが、ナナさんの雰囲気がその日を境にちょっと変わったのを思い出す。
おそらく猫には人間の知らない猫の世界があって、ナナさんはあの日彼女なりの冒険をして、ひとつ大人になったのだろう。

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もう1匹のハチさんはとても長生きだった。

年月が過ぎ、私が結婚し、弟が結婚しても、実家に帰るといつもハチさんが出迎えてくれた。次の年も、またその次の年も。
「ねぇ、ハチさんっていくつなんだっけ?」
弟に問えば、彼は首をかしげながら言う。
「それなんだよ。もう20歳くらいだと思うんだよな。」
ハチさんは年を取って、もう目も耳も悪くなっているようだ。

さらに、数年後の新年に家族が集まったときには彼女はヨロヨロで、トイレに行くのも大変なようすだった。
それでも、みんなが集まっているこたつのそばでウトウトしたり、なでられたり、姉が写真を撮ってやったりで、元気に過ごしていたので安心していたが、数日後、ハチさんが亡くなったと母から知らせがあった。

温かいマットの上で寝ていたハチさんは、のどが渇いたのだろうか、マットから抜け出して、水が置いてあるほうに体を向けて力尽きていたそうな。
家族みんなが集まった日に、最後のお別れをしてから旅立ったのだろう。



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信用金庫の前の猫の集会を私が見たのは、ハチさんが亡くなったすぐ後のことだった。
ナナさんのことも、ハチさんのことも、時々懐かしく思い出す。
私は彼女たちがどこかで、あの不思議な猫の集会に参加してくれてたらよいなと思う。


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