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水の星にて11

怖い夢を見た。

マコは暗闇の中を裸足で走って逃げていた。逃げても逃げても誰かの影が自分を追いかけてくる。

お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ニナ、ユキト、助けて!

声が枯れるまでマコは叫び続けた。

もう限界だ。走れない。

立ち止まってしまったマコは涙声になる。

(ユキト、助けて!)

誰かがマコの耳元で静かに囁く。誰?

「ねえ、マコ。君は現実から目を背けるのかい?」

聞きたくない。ユキト、助けて。

恐怖のせいでマコの小さくて華奢な身体が震える。誰でもいいから私を助けて…。

「君はずっと知らないふりをしてた。違うかい?」

嫌だ。それ以上言わないで…。

マコの頬に涙が流れる。誰かの手がマコの頬に触れる。その手が涙で濡れる。

「ユキト…助けて」

夢はその場面で終わった。マコが目を覚ますと隣にユキトがいた。マコはユキトの姿を見て安心する。

「ユキト!」

マコはユキトの胸に飛び込む。

「マコ、大丈夫?」

ユキトはマコを抱き締める。

怖い夢のせいでマコは怯えていた。

「すごく怖かったの。ユキトがいなくて…」

マコの頬に流れる涙をユキトが指先で拭う。

「無理して言わなくていいよ。僕はずっとマコのそばにいるから」

ユキトはマコの髪を優しく撫でる。

「もうあんな夢見たくない…」

マコはユキトの腕の中で泣いた。ユキト、大好き。

「マコ、泣きたい時は泣いていいよ。泣き止むまで僕がマコのそばにいるよ」

「ユキト…」

マコはいつの間にか眠りに落ちた。ユキトの腕の中で寝ているマコを見てニナは驚く。

(ユキト、どうして⁉)

マコはユキトの腕の中で静かな寝息を立てていた。ユキトが寝ているマコの髪を撫でながら言う。

「マコって可愛いな…」

マコを抱き締めるユキトを見てニナは胸が張り裂けそうになった。

自分はユキトが好きだったのに。ニナの頬が涙で濡れる。

泣くニナをマコの兄であるケンイチが宥める。

「君は気づいたんだね。俺も今更だけど…」

やれやれ、と言うケンイチを見てニナは尋ねる。

「ケンイチさんは知ってたんですか?マコとユキトが付き合ってるのを…」

「最初は知らなかったよ。マコの奴もあんま喋んないしさ…一人で抱え込んで苦しんでるあいつを見て俺は何もしてやれなかった…」

ケンイチは自嘲的に笑う。

ケンイチは落ち込むなよ、とニナの頭を撫でる。

「ニナちゃんは純粋にマコの幸せを願ってる。俺だって同じだよ」

そうだよね。私はマコの親友だもん。親友の幸せを願わなきゃ。

マコを抱き締めるユキトを見てニナは決心する。

「私は二人の幸せがずっと続いてほしいの」

ニナの決心は揺るがない。

ニナの言葉にケンイチが笑う。

「君って立ち直り早いね」

「だって私はマコの親友だもん!」

ケンイチはニナの肩に手を置く。

「明日は俺と出掛けないか?」

「行きます!ケンイチさんは私の師匠ですから!」

師匠?俺はいつから偉くなったんだ?

ケンイチは考えを巡らせる。

マコとユキトがずっと幸せでいられるように、とニナは心の中で祈った。






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