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映像作品②彗星怪獣ハレー

前回のヤゴンの話に続き、今回は僕が作った2本目の映像作品にして、初めて作った手描きアニメーション「彗星怪獣ハレー(2019)」のお話をします。本作は、2021年・全国自主怪獣映画選手権の熱海大会にて上映して頂いた作品になります。

「彗星怪獣ハレーver1.1」本編(12分)

 こちらは、オリジナル版を再編集した「ver1.1」になります。オリジナルは現在諸事情により公開しておりませんので、こちらをご覧頂ければとおまいます。

 ご覧頂いた方は、ストーリーが途中で終わっていることに違和感を感じられると思います。実は、本作は当初予定していた部分の半分までの内容を描いたものになっています。続きは、小説版にて書き下ろしたので、続きが気になる方はそちらをお読みください。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14183721

 そして、ご興味がありましたら以下より制作にまつわる経緯をお読みください、

制作経緯① 制作のきっかけ

 前回の記事で、僕が生まれて初めて作った実写特撮「水棲怪獣ヤゴン」は自分としては失敗だったという話をしました。そして、その雪辱を晴らすべく制作に至ったのが本作「彗星怪獣ハレーです。」

   実は、ハレーの案は、ヤゴン完成時点から頭の中には浮かんでいました。というのも、その時点で既に「今回はダメだ。次で挽回せねば」という意識があったからです。

制作経緯②目標設定

   本作を制作する上での目標としては、前回ヤゴンで苦い思いをした芸術祭でのリベンジ。また、これまたヤゴンで一次選考落ちした自怪選への再挑戦を定めました。企画始動時から目標はハッキリとしていたので、初動は我ながら早かったと思います。

制作経緯③タイトルの決定

 「水棲怪獣」と「彗星怪獣」。どちらも発音は同じですよね? 実は、本作のタイトル、ひいてはアイデアは「誤植」から生まれたものです。

 ヤゴン制作中、パソコンで資料などを作る時に「水棲怪獣」と打ちたいのに「彗星怪獣」と変換される事が何回かありました。そのとき「あ、彗星怪獣っていいな。次はコレで行こう」と思ったのです。ちょうどその時期「君の名は」が話題になっていたというのも理由の一つですが。

 そして、怪獣の名前を考える中で、やはり自分が生まれるよりもはるか前に世界的な大ニュースとなった「ハレー彗星の接近」が頭に浮かびました。ハレー彗星は大昔から幾度となく歴史上の記述に登場しており、昔の人が「災いの兆候」として捉えていたこともあり、怪獣の名前にピッタリだと思いました。

 こうして、本作のタイトルが「彗星怪獣ハレー」と決定したのです。

制作経緯④アニメーションでやろうと決めた理由

 実は「作ろう!」と思って3ヶ月ぐらいは、実写でやるかアニメでやるか迷っていました。さらには、途中「やっぱりこの話をやめて別のシナリオを書こうか」と思っていた時期もありました。

 紆余曲折あり「やはりこの話で、アニメーションでやろう!」となった訳ですが、その理由としては「アニメで怪獣を描いている学生作品は意外と少ないから」というのと、なにより「やった事がないから」というものでした。

 かくして、30分尺の手描きアニメ制作が始まったのです。…しかし、アニメ未経験ゆえに、まだ知りませんでした。手描きアニメがものすごく大変だという事を…… 30分という尺がいかに無謀であるかを……その話は「作品は不完全」の項目でお話します。

原案は違うストーリーだった

 実は、ハレーの原案は完成品とはストーリーが全く異なるものでした。まず本作は「変わらぬ日常を送っていた少年少女達が、彗星の落下によって、周囲の環境をガラッと変えられてしまう」というコンセプトで考え始めました。

 個人的な見方ですが「この日常の破壊」という要素は、怪獣映画の重要な要素であり、怪獣という存在自体が「日常の破壊者」であると考えています。

 この部分自体は、完成版の脚本にも取り入れていますが、原案では主人公は3人でした。それぞれ、引きこもりの女子高生・高校球児・花火屋の息子 という設定で、互いに幼馴染という設定でした。この3人が、彗星の落下、怪獣の登場によってそれまでの日常を壊され、日常を取り戻すために協力して怪獣に立ち向かう。というのが元々の案でした。

 ですが、単純に考えて主人公を3人にして、かつそれぞれの人間ドラマを描こうとすると、恐ろしく長い尺になってしまうな…と早い段階で気付きました。そのため、主人公は「引きこもりの少女」の1人に絞り、現在の形にまとめたのです。

主人公の設定と話の構成

 原案で考えていた主人公の設定をさらに詰め、家族構成や過去の設定なども考えました。なお、「引きこもりの天才ゲーマー」という設定にしたのは、「怪獣」という人知を超えた存在に女子高生が挑むという、一見無理難題に見える構図を実現しやすいと考えたからです。

 この時参考にしたのは、細田守監督の「サマーウォーズ」と、その元になった「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」、さらにその元になったと思われる「ウォーゲーム(1983」です。

 また、主人公が怪獣との戦いを通して「自分の過去」とも戦い、引きこもり(=閉じた世界に篭っていた)だった主人公がラストで部屋を飛び出し、開けた世界に飛び出す。という劇的な演出もしやすいと考えました。(映像ではそこまで描けていないのが、今考えても悔いが残るところではありますが… )

怪獣デザイン

本作に登場する、怪獣ハレーのデザイン変遷についてご紹介します。

 まず、怪獣のコンセプトとして「スペースデブリを吸収することで巨大化、異常進化した宇宙生物」というものがあったので、「無機物と有機物の中間」のような「感情を感じない」デザインにしようと思っていました。

 また、「怪獣」と聞いて一般的にイメージされるシルエットがなるべく離そうと考えており、どちらかというとエヴァンゲリオンの使徒に近いイメージでデザインを進めました。

 以下は、ヤゴン発表直後に描いた、最初期のデザインです。

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この時は要素だけ詰め込んで描いたので、全体的にゴチャッとしています。そこから、シルエット全体と合わせて、いくつかのパターンを考えていきました。

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 この段階では、かなり複雑な構造も考えていましたが、アニメーションで動かす以上、複数枚絵を描かねばならないので、多少は描きやすい形にする必要がありました。そうした事を考慮した決定稿が以下になります。

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 最終的にこの形に落ち着きました。シルエットのイメージはアニメ「ぼくらの」に登場するロボット、ジ・アースや「ゴジラ2000ミレニアム」のオルガ、また「ガメラ50周年記念映像」にチラッとだけ登場していた正体不明の怪獣などをヒントにしました。

 また、腕と脚のつき方は、振り子のように「前後に揺れるだけ」で歩行することを考えた形ですが、これは少しでも描く枚数を減らすためです。

 デザインが確定したので、作画の資料にするために、粘土で立体に起こす作業も行いました。

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制作体制

 ストーリー、デザインが確定したので、いよいよアニメーションの制作に入りました。しかしながら、この時点で「1人で30分尺のアニメーションを作る」事がいかにヤバい事かというのが分かってきました。

 さらに、この時僕は大学4年生であり、卒業制作と就職活動と並行して本作の制作を行わなければならない状態でした。正直「本作さえ完成させられれば卒業単位を落としてもいい」ぐらいの覚悟はありましたし、それゆえに卒業制作は2割程度、本作に8割程度の力の入れ方をしていました。

 しかしながら、やはり1人というのは無謀に近いので、サークルの後輩やその知り合いにお願いし、報酬を出して手伝ってもらう事にしました。なお、手伝ってくれた後輩の中には、現在アニメ関係の仕事に就いている人も数人、大手企業でデザイン職に就いている人間もいます。そのため、僕よりも遥かにスキルのある後輩たちです。

 そんな強者揃いの後輩達に手伝ってもらい、どうにか5人体制でのアニメーション制作が始まりました。ですが、各々抱えている課題や外部の仕事もあり、完全に本作の制作に集中するというのも難しかったので、分担の割合は人によって違いました。

後輩にお願いした部分

 後輩にお願いしたのは、主に自分では難しいエフェクト表現を用いる部分が多かったです。特に、彗星が落下するシーン、怪獣が街をビームで爆破するシーンは本作の見せ場の一つであり、それぞれ別の後輩が手掛けてくれました。

【彗星落下シーン】

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本作の冒頭であるこのシーンは、人の目を引く必要がある訳ですが、依頼した後輩は非常に丁寧に仕上げてくれました。落下のタイミングなど詳細なやりとりも行い、実直な作業の進め方も勉強になりました。

【ビーム破壊シーン】

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また、ビーム破壊シーンを作画した後輩には手描きによる一枚絵を用いるシーン、背景の一部の作画もお願いしました。

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彼は現在大手のアニメ会社に就職しており、その会社の規定らしく、クレジット表記する事が出来ないのですが、無理難題を聞いてくれて、作品のクオリティに大きく貢献してくれました。

 また、他の後輩には手数の多いシーンや、描き込みが大変な、兵器が登場するシーンの線画や仕上げをお願いしていました。

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自分が担当した部分

 一方で僕は、全体的に線画や仕上げなどを行なっていました。

 また、背景の処理も行なっていました。と言っても、本作の背景はほとんど手描きではなく、写真をイラスト風に加工する事で処理していました。

 しかし、画像加工だから楽かというとそうでもなく、まず元となる写真を撮るために、同じ場所な足しげく通い詰めたり、怪獣を合成するために空を手作業で消したりと、それなりに面倒な作業は多かったです。

【元の風景】

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【加工後】

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また、個人的に怪獣映画における兵器描写には幼少期から魅力を感じていたので、自衛隊車両の作画は集中して行いました。

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 そして、目玉となる怪獣の作画はほぼ全て自分で行いました。

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作品は不完全

    と、ここまで作業を見てきて、順調に進んでいたようにも見えたかと思います。

    が、結論から言ってしまうと、本作は当初予定していたストーリーの半分までしか映像化できませんでした…… さらに、現在公開されている形は第一目標としていた芸術祭での公開以降に2度再編集した後の形になります。芸術祭では、さらに短い映像しか公開できませんでした……

    こうなってしまった理由としてはやはり「30分尺の手描きアニメ」というのが、アニメ初心者が挑むには余りにも壮大な作業だったということ。そして、やはり卒業制作や就職活動と並行して進める中、思うように進められない事が多かった事が挙げられます。

 結果として、芸術祭での公開という締め切りに無理やり間に合わせる形で制作を終わらせるしかありませんでした。手伝ってくれた後輩達も、芸祭までという約束だったので、以降の再編集も自分1人で行える範囲に留まりました。

 そして、こうした事を事前に想定できなかった、自分自身の計画性の甘さが1番な要因だと考えています。

コロナ襲来、自怪選延期

 芸祭で不完全な作品を公開してしまい、前回のヤゴン以上にやるせない気持ちになっていた僕ですが、第二目標としていた全国自主怪獣映画選手権まではまだ時間の猶予がありました。一先ず、少しでも作品のクオリティを上げるため再編集の作業に入りました。

 (この間僕は、ほとんど力を入れていない卒業制作を提出して、なんとか卒業単位を貰い、3社目に受けた企業へ就職も果たしました。そして東京の実家を出て、1人栃木で社会人としての生活を始めました)

 日々慣れない仕事を行いながらも、帰宅後はとにかく自怪選を目指して再編集に没頭していました。ところが……

   ちょうどこの時、新型コロナウイルスの感染が、徐々に徐々に広がり始めていました。最初は想定すらしていませんでしたが、その影響が自怪選まで及び、なんとその年の自怪選は中止という事になってしまいました…… 

小説版の制作

 何とか現状出来うる修正を加えた再編集版を完成させたものの、肝心の大会そのものが中止になってしまいました。

 僕は行き場のない感情で胸が一杯でしたが、そこで「せめて、アニメーションという形でなくてもストーリーを完結させるべきだ」と考えました。

 そして、ストーリーのイメージを伝えやすく、また短期間で制作できるものは何か。と考えた時、自分の中では「小説」という形が一番しっくり来たので、さっそく執筆を始めました。

 小説版を作るにあたっては、当初の脚本を見直し、説明が足りない部分、また説明的すぎる部分を調整するなど、多少のテコ入れはしました。そして、新たに挿絵も描き下ろしました。

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 結果として、どうにか「彗星怪獣ハレーのストーリー」を完結させる事はできました。そこで初めて、やっと自分の中で「やりきった」という気持ちになり、肩の荷が下りた気がしました。

1年後、念願の自怪選上映

 それから1年後、嬉しいニュースが飛び込んできました。前回コロナで中止となった全国自主怪獣映画選手権が、熱海怪獣映画祭の2日目の日程で開催されるというのです。

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 それに伴って、作品の募集も始まりました。僕は、再びハレーと向き合う事になりました。エントリーにあたって、再度の編集を行う事にしたのです。

 前回の再編集は本編への加筆やタイミング調整を行いましたが、2度目の再編集はキャストの大幅な変更がメインでした。というのは、オリジナル版では声の出演者を集めるのに苦戦しており、僕自身が1人6役ぐらいを演じていたからです。明らかに無理のあるものでした。

 改めて声を入れ直すにあたっては、シネマプランナーズというサイトでキャストを募集し、集まった方々に声を当てていただきました。結果として、音声の面でも作品のクオリティを上げる事ができました。

 こうして、出来る限りのクオリティの底上げを行った上で、自怪選へのエントリーを行いました。

 そして……ついに、選考を通過し、ついに念願だった自怪選での上映を果たしました。

 僕は出演者の1人でもある友人と一緒に、有給を取って熱海の会場まで出向きました。当日上映された他の作品は秀作ぞろいで、観た瞬間に「あぁ、これはハレーの入賞はないな」と確信しました。しかしながら僕は「上映できれば十分」と考えていたので、第二目標を達成する事ができました。

10倍面白い次回作を作ります。

 自怪選では、上映後に制作者によるコメントの時間があるのですが、そこで僕は宣言しました。

「次は10倍面白い作品を作る」と。

 僕は、この宣言をするために会場に参加したようなものでした。今回の作品も、前回のヤゴン同様、あるいはそれ以上に納得のいかない物でした。前回のヤゴンの時もそうでしたが「次の映像作品を作って挽回するしかない」という状況になっていました。だからこそ、その状況から逃げられないように、大勢の前で誓う必要があったのです。

 僕はこの誓いを反故にしないよう、現在新しい怪獣映画の制作に取り組んでいます。必ず、今回はストーリーを完結させ、ハレーを上回る仕上がりにしようと思います。

まとめ:2度とアニメは作らない

 ここまでお読み頂きありがとうございます。初めて作ったアニメーション「彗星怪獣ハレー」のお話は以上です。

 なお、僕は本作の制作を通じて「手描きアニメーションだけは2度と作らない」と固く心に誓いました。なので、今後映像作品を作るときは、必ず実写でやっていこうと思います。

 次回は、今作っている新作のお話… ではなく、ハレーから現在の制作を開始する間に考えた、いくつかの没案のお話をしようと思います。では、また。



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