見出し画像

さあ、襷を繋ごう!(男子編 その1)


『強くなるために』



さあ、次は男子。

ただ、今年の我が中学の男子駅伝チームを語るには2年前のチームの話から始めなくてはならない。


せがれが入部したのを機に、押し掛けで手伝いをさせてもらうようになった初年度で、3年生6名とせがれ達1年生3名の計9名のチームだった。

県駅伝出場を目標に掲げ、走ることを心から楽しめる仲の良いまとまりのあるチームだったが、力及ばずその願いが叶うことはなかった。

引退を突きつけられ、最後のミーティングで号泣する3年生達を見て
「へぇ、泣くほど悔しいんだ…」
と、1年生達はどこか他人事のようだった。

しかし「お前達の代は県駅伝に行ってくれ」という先輩の言葉に、何かしらの感情や思いは芽生えていたと思う。

そしてこの日から私自身の目標も
「2年後、3年生になったこの子達を県駅伝の舞台に立たせること」になった。



そして1年が経った。


2年生になった彼らは1、2年生だけのチームで地区駅伝に挑んだ。

結果は惨敗。
県駅伝出場ラインから3分遅れた21位でのゴールだった。

2年生でありながら主力として走った3人は、実力差を思い知ると共に、漠然とではあるが今までの取り組み方ではいけないと気付いたようだった。

そして直後のミーティングで「来年は県駅伝に出る」と全員が力強く宣言していた。


「6区間でボーダーラインから3分の遅れということは1人当たり30秒の遅れである。」

そう伝えると自発的に

「来年までに1人30秒縮める」

と目標を設定し、それがチームの合い言葉になった。

練習をサボろうとする者や集中しない者がいたら「それで30秒縮められるの?」とチーム内から声が上がるようになった。



そして冬を越え、春になった。


ひと際小さく弱々しかった彼らも、少し頼りないが3年生になった。

相変わらずじゃれ合いふざけ合い、バカなことばかり言っては笑いあっている。

それでも練習になれば集中し、しっかりと取り組む。これが彼らの良さだ。

一段一段練習を積み重ね、少しずつ少しずつ強くなってきた。

実力はまだまだだが、春のトラックシーズンでは県駅伝を狙える一定のレベルでは走れるようになっていた。




そして7月。


そんな3年生3名+2年生1名+1年生1名の長距離ブロック5名と、ハードル幅跳び勢の3年生、元野球部SS勢の3年生、計2名を加えた7名で県駅伝を狙う今年のチームが立ち上がった。

上を見て気づいた人もいると思うが、中学の駅伝は基本6区間であり、7名というと層の薄さは否めない。

なので育成方針として

「故障者を出さずに練習を積み重ねる」

を最大目標とした。

具体的には、ストレッチやケアの重要性とその方法を伝え、それを練習時間に組み込むようにした。今までは部活後に各自でとか、帰って家でとか、曖昧な取り組みであったが、それを部活時間内に行う事で全員が必ず行うようにした。

ストレッチの効果には賛否あるが、自分の体と向き合いその状態を知ることに意味があると思っている。

それと練習後、輪になってストレッチをするわけだが、その日の練習について話したり、雑談で大笑いしたり、そんなリラックスをしてコミュニケーションを取る場としての副次的な効果も得られた。


平行して、バランスの良い食事と補食の意義、そしてその必要性を伝え、その質やタイミングについてしっかり意識を持たせた。
成長期の彼らは今、これから一生を生きていく上での体を作る最も大切な時期であること。それプラス練習で壊れた細胞や失われたエネルギーをしっかり回復する必要があり、そのためにも食事や補食は大切であると伝え続けた。


そして睡眠をしっかりとること。練習後の疲労が回復して初めて強くなる。その最たる睡眠の時間をしっかり確保すること。具体的には「起きる時間から逆算してその8時間前には必ず寝ること!ゲーム、スマホで夜更かしし過ぎないこと!」を言い続けた。

食事→練習→ケア→食事→睡眠
この成長サイクルを高い質で滞りなく回すことで故障を防ぎ、効率的に強くなろうと口酸っぱく言い続けた。


そして最後に、絶対無理をしないこと。
「無理にポイント練習をして体を痛め1週間走れなくなるくらいなら、その1本を回避して1週間走れる方が良い」と伝えた。

しかしこれが一番難しかったところで、「無理をしないで良い=サボれる」と考える子が出てきたこと。

実際2年生のFは、ポイント練習の日になるとあそこが痛い、ここが痛いと言ってきた。そして夏休みに入ると遅刻が増え、練習に来ない日もあった。

本当にどこか痛かったのかもしれないし、体調が悪かったのかもしれない。ただ痛い場所は毎回変わり、頭が痛い日も有ればお腹が痛い日もあり、その原因がどこにあるのか分からずにいた。

なのでFには「まずは成長のサイクルをしっかり回すこと」、「痛いところ、具合が悪いところがあったら病院に行くこと」、そして「自分の立てた目標を達成するためには何が必要なのか」「自分がどうなりたいのか」「そのために今自分は何をすべきなのか」を考え続けること、と言い続けた。

体が大きくしっかりしてきているFは今、走れば走るだけ伸びる時期であること。と同時に、自分の内面と向き合う大切な時期でもあった。

きっと様々な思いや葛藤があったと思う。

家庭の問題、友達との関わり、思春期独特のモヤモヤした気持ち。

子供ながらにそれらを処理して進まなくていけないし、誰と戦うよりも自分自身の内なる敵と戦うのは一番キツかったと思う。

それでも苦しい練習に打ち込む仲間の姿を見てこのままじゃいけないと思ったのか、夏休みが終わる頃には少しずつ、でもしっかりと練習するようになっていった。


一方、他のメンバーは誰一人故障することなく、継続性を持ってしっかり練習に取り組めていた。

真夏のあの暑さの中でも、メニュー達成率は限りなく100%に近かった。

それが期待を膨らませた。



(少し余談)ただ少し大変だったのは、先生方の働き方改革に伴い、部活時間、回数が少なくなったこと。そこは自主練会を組んだりして対応したが、少し考えるところだった。

働き方改革には大いに賛成。先生は大変だから。

だがそれにより削られる部分や、もっとやりたいと考える子供達に対する手当ては別に考えていくべきだと思った。

ただ子供達の成長は凄くて、企画した自主練会を何回かやっていると、私の都合でそれが出来ない日には自分達だけで勝手に集まり練習をするようになった。

目標、目的、材料、方法を理解し、何より強くなりたいと競技に向かい合ったとき、子供達はとんでもない勢いで成長する。それを目の当たりにして驚きと共に感動すら覚えた。

こう書くと、「どんだけ練習させてんだ?!」と思う人もいるかもしれないが、8月の活動は20日(自主練会含む)、走行距離は120キロに満たなかった。

(話がそれ、かつ長くてごめんなさい)




暑かった夏を越え、いよいよ勝負の秋を迎える。


まずは郡市新人戦で1年生とFが自己ベストを大幅に更新してみせた。

Fは800mで優勝し、1500mでも2位に入った。

これは自分自身の葛藤を乗り越えて得た結果として大きな自信になったと思う。

同時に、試合に出ていない3年生達も「自分達もやれるぞ!」と勇気を得たと思う。




そして駅伝へ。


まずは地区駅伝の前哨戦となる郡市駅伝大会。


直前にせがれが体調を崩したこともあり、エース区間である1区にはFを配置した。

理由は来年Fがもう一段上のステージで走るための通過儀礼として必要な試練であると考えたから。

しかしこちらの心配をよそに、突然の区間変更にもその役割を理解し、力を出し切ろうとする姿勢にFの成長を感じた。

他校のエースが凌ぎを削る区間、しかもスターター。実際Fは先頭から少し遅れはしたが、その役割をしっかりと果たしてくれた。

そして走り終えた顔を見て、この経験を今後必ず役立ててくれると確信した。


その後は3年生達がしっかり襷を繋ぎ、追い上げ、見事目標としていた3位でゴールした。


ゴールした後、子供達が抱き合って喜んでいた。


おめでとう。


その姿を見るのは私にとっても最高の喜びである。うれC、超うれP。


そしてこの3位表彰台獲得は、我が校男子駅伝部近年にない快挙らしく、校長先生も物凄く喜んでいた。




そして勝負の時。


この郡市駅伝で得た結果と経験は大きな自信となり、更にグンと力を付けた子供達は、大目標である県駅伝出場を掛けた地区駅伝へ向かうことになる。


さあ、襷を繋ごう!



つづく


(11月10日加筆修正)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?