さあ、襷を繋ごう!(男子編 その3)


『小さなエース』



さあ、我がチームの1区はGことせがれ。


まずはトラックを一周。


アウトスタートで外々を回らされ、それを反対側から見ていた私はその小さな体を確認できないでいた。


隊列がこっちに向いたときにやっとGを見つけ出す。

安堵と興奮の中、トラックを1周した集団は競技場の取り付け道路から外周コースへ飛び出して行く。


そして芝生の丘に向かう緩やかな坂を駆け上がる選手達。


ペースが速いのか、気が付けば集団は縦長に。

先頭から順に目を走らせGを探す。


その一列に伸びた隊列の前から8番目にGを見つけた。


周りは県内トップレベルの選手ばかり。

しかしGは一歩も引く気配がない。


芝生の丘を越え、隊列は再び競技場の外周道路へ。


1キロを通過。順位は変わらず8位。

まだ余裕はある。


しかし、このとき目の前を通過したGに何と声を掛けたのかは全く覚えていない。

その位熱くなっていたのだと思う。



Gこと、せがれが1年生の春。

鳴り物入りで入部し、2回目の記録会で1500m通信記録突破。

しかし、その後は体の成長が遅いのもあり思うように走れず負け続けたこと。


あれから2年。諦めることなく、腐ることなく仲間と走り続け、今日を迎えたこと。

不意にそんなことを思い返していた。



レースは1キロを過ぎると、今度は野球場の外周道路へ。

そして左へ曲がると死角に入り完全に見えなくなった。


数十秒後、次に視界に入ったときは野球場の向こう。ここからは100m程離れたところ。

目をこらし探す。

よし、変わらず8番手だ。


野球場を抜け、隣接したサッカー場の向こう側を通ると、コース最大の難所である急坂を迎えた。

この坂をどう攻略するか。

ここを上手く走れなければ後半一気に苦しくなる。


そして坂に突入していくG。

すると、試走の時に教えた通り動きを変える。

骨盤ごと体を前傾させ、腕を強く引き、力強く駆け上がっていく。

驚くほど冷静だ。


そして坂を上りきったところで再び死角に入り見えなくなった。

トップグループとは少し離れたが、前との差は僅か。


次に見えたのは、その急坂を下りきった橋の中ほど。ラスト1キロ地点。


もうこの頃になるとこっちは冷静ではない。

姿は見えたが、何位なのかすら良く分からなくなっていた。


ただただ心の中で、「粘れ、粘れ!頑張れ、頑張れ!」と繰り返していた。


選手達は再び野球場の外周へ。

そしてそのまま連絡道路を通り競技場の外周道路へ。


ラスト500m。


ここに最後の難所、勾配6%程で約100m続く坂がある。

そしてここは各校の応援が一番大きいところでもある。


その坂の手前100m、苦しそうなGの姿が見えた。


正に胸突き八丁。


ここまで来ると、どの選手も動かない体を必死に腕振りでカバーしている。


応援の女子メンバーに順位を確認したところ8位をキープしているらしい。


坂の入り口で目の前を通過するG。

もがき、足掻き、見るからにキツそうだ。


「この坂は無理しない!細かく速く!上ってからが勝負だから!」


大歓声の中、その声が伝わったかどうかは分からないが、坂を上りきったGはそこから前との差を詰め始めたように見えた。


そして競技場へ。ラスト300m…。



前との差は僅か…



頑張れせがれ。




さあ、襷を繋ごう!




つづく


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