さあ、襷を繋ごう!(男子編 その4)


『苦しみの果てに』




1区も最終盤。


続々と競技場に飛び込んでくる選手達。
皆一様に苦悶の表情を浮かべ、それでも襷を繋ごうと必死に身体を動かしている。


ラスト300m。

トラック勝負のスパート合戦へ。

ラストの絞り出し。

真の強さが求められる極限の場面。



「G先輩が来た!8番だ!!」


普段はほとんど喋らない補員の1年生が叫んだ。


競技場に飛び込んできたせがれの手には既に襷がグルグル巻きに握られている。


10メートル程前に7位の選手、更に5メートル前には6位の選手がいる。


一際小さな体をよじらせ、苦しそうに、それでも精一杯前へ進む。



残り200m。



意を決したのか、前傾を一段深め、腕振りが強くなった。


すると前との差が急激に詰まる。


迫る。


肉迫。


後ろにつくことはない。


並ぶ。


体半分前へ。


出た。


一気に抜き去る。


7位へ。



間髪入れず今度は6位の選手に取りつく。


並び掛ける。



『抜け!!抜け!!!行けせがれ!!』



そして



『抜いた!!抜いた!!!抜いたぁ!!!』



もう叫ばずにはいられなかった。


この辺になると、こっちは応援だか雄叫びだか咆哮だか、もう何だか訳の分からない声を発している。


「あのちっちゃい子ヤバくない?」
と他校の女子が言っていたが、ええ、あいつは色々諸々ヤバい奴なんです。←



さあ、ラストスパートで順位を6位まで上げたせがれ。


そのまま最後の直線50mへ。


さらにもう一段加速し、小さくガッツポーズをしながらリレーゾーンへ向かう。


2区のHが手を上げてそれに応えた。


迎え入れるように駆けだすH。


そして二人のスピードが重なった瞬間、襷が渡った。


背中を向け走り出すH。


安堵しその場にへたり込むせがれ。




ナイスラン。



襷リレーを見届けた後、何度ガッツポーズをしただろう。

それくらい嬉しくて、感動して、それと同時に今までのことが溢れて涙が出た。

胸から手を突っ込まれて、その奥にある魂をガタガタ揺さぶられたようだった。


それにしても良く走ったなぁ。


お疲れ様。ホントにありがとう。




せがれの激走で、6位と最高のスタートを切ることが出来た我がチーム。


そして、せがれが見せた渾身のラストスパートでの2人抜きは、以降の選手達に大きな力を与えることになる。




さあ、もっともっと襷を繋ごう!



つづく。

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