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元彼が結婚する話

自分勝手も良いところなのだけれど、その話を聞いてから、誰にも素直に吐露できない虚しさを抱えて過ごしている。

彼は私の5人目の恋人だった。それまで付き合った人とは、長くは続かなかった。理由はさっぱり覚えていないけれど、ちょっと喧嘩をしたとか、好きじゃなくなったとか、そういう子供じみた理由だった気がする。

彼と別れたきっかけは私だった。私が別れを切り出した。他に好きな人が出来たからだった。そうは伝えられなかったけれど、きっと察していただろうなと今になって思っている。身勝手な別れ方だった。彼から向けられる好意に苦しくなっていたこともあった。彼が自分の恋人でなくなることが嫌だったから、ずっと別れを切り出さずにいたし、正直別れたいのか自分の感情もまとまっていなかった。

わがままだとわかっていても、「自分のもの」であって欲しかった。自分を愛してくれている人を手放したくなかった。そんなわがままを抱えている自分はもっと嫌で、「自由にしてあげる」という建前を作って別れたような気もする。

それでも私と彼は仲良くしていたし、一緒に飲み会に参加もした。お互いちょっとばかりの気まずさを持ちながら、事の経緯を知る友人たちの中に2人、身を置いていた。

同じコミュニティの中にいる女の子と彼が付き合いだしたのは、その数ヶ月後だった。確か女の子の方から連絡が来た気がする。はっきり、「自分のもの」じゃなくなったなあと思ったことは覚えている。まあ身勝手なことだと何度も思ったけど、そう思ったことが事実で、わたしの本性だったのだ。

その2人が、結婚する。

彼女は当たり前に彼の隣にいたし、彼の車の助手席に座ったし、同じ家に帰っていった。

いつも「そこはわたしの場所だったのに」と心のどこかで思っていた。

飲み会の場でよく元カノいじりもされた。彼女は「気にしていないよ」とあっけらかんに言った。

わたしはずっと気にしていた。嫌だった。やめて欲しかった。いつも笑顔で、「そうだね」と言ったけど、本当は思ってなかったし、放っておいてくれと何度も思った。

彼女はいつも私のことを褒めてくれたし、相談にも乗ってくれた。私に恋愛相談を持ちかけてくれることもあった。私のことを「過去を気にせず相談にも乗ってくれる大事な友人」と評してくれたことさえある。

でもごめんね、私そんな割り切れた良い人じゃないよ。

ずっと笑顔を貼り付けて、あなたに嘘をついてきたよ。

応援してるよって、嘘をついて、ずっと早く別れれば良いのにって思ってた。

彼には、私が知らないとびきり良い女と知らないところで幸せにしていて欲しかったな。

同棲を始めたことも、大きく喧嘩をしたことも、全部耳に入ってきてしまう距離の人をどうして愛したの?見えないところでやってよ。

理不尽なことばかり言っているけれど、私が本当はわがままなこと知っているでしょう?

別れを切り出したのも私だけど、好きだよって言ったのも、あなたを振り向かせたのも私だったのに。


結婚するんだって。ふたり。

全ての季節を一緒に過ごしたのは彼が初めてだった。初めて夜を共にしたのも彼だった。母に紹介したのも、夜な夜な一緒に暮らす妄想を繰り広げたのも、全部彼が初めてだった。

次に彼に会う時、彼は法のもとに「彼女のもの」になっている。


何度も言うけれど、いつだって「私のもの」ではなかったことは自覚しているし、好き勝手言っているのもわかっている。でもまだ、周りが祝福する中で一度もおめでとうと言えていない自分がいる。

次に会うのは彼らの結婚式だろうか。

こんなよくわからない自分の不毛な執着を、どうしてもっと早く捨て去れなかったんだろう

どんな顔で私は結婚式に行くんだろうなあ

本当に本当に心の底から笑って、「おめでとう」と言えたら良いのだけれど。





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