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ハチのマトリョシカの謎を徹底解釈!(約10000字)

今回、ハチ(米津玄師)の、「マトリョシカ」の歌詞を解釈したい

今回、約10000字ある結構な長文だ。だが、20枚以上の画像があるので、それなりには見やすいはず。それだけでもぜひ見てほしい。
目次の最後の「★★画像を一気見!★★」へジャンプして見るだけでも、たぶんだいたい伝わる)

読む前に、一度曲を聴くことをおすすめする。


↓公式動画

↓歌の歌詞(Uta-Net)

●「考えすぎのメッセージ」とは何か?

この曲は一言で言うと、「心の傷」と「他者との関係性」と「創作活動」についての物語だと考える。
どうしてそう考えるに至ったかを、一つ一つ丁寧に説明していきたい。

考えすぎのメッセージ
誰に届くかも知らないで

ハチ「マトリョシカ」より引用

「考えすぎのメッセージ」とは、創作者が作品の受容者に向けたメッセージだろう。
作者は作品を創作するが、どんな人に伝わるかは分からない。(=誰に届くかも知らない)
後に詳しく説明するが、語り手の「私」は、<「他者」から傷つけられたトラウマを抱えており>、同時に、<トラウマを基に創作活動をする人物>だろう。他者に傷つけられた「私」が、他者不信のつらさを物語り、他者に共感されたがる矛盾。

そんな複雑な思いを抱えた人物が、他者にどんなメッセージを伝えるべきか。考えすぎて悩むのも当然だ。

考えすぎのメッセージ

●「継ぎ接ぎ狂ったマトリョシカ」は、「私」の自己紹介

きっと私はいつでもそう
継ぎ接ぎ狂ったマトリョシカ

ハチ「マトリョシカ」より引用

そもそも、マトリョシカとは、ロシアの民芸品で、胴体で分割できて、分割した中にはさらに小さい人形、それを分割するとその中にさらに小さい人形が…と、入れ子構造のものだ。
そして、「継ぎ接ぎ狂ったマトリョシカ」の意味。
これは、語り手の現在が、過去の自分をマトリョシカのように内包するが、過去のある時点(=トラウマ時点)の感情が、今に蘇って飛び出してくる感覚があることを指す、自己表明ではないだろうか。
このとき、過去のトラウマが肥大化してしまうと、マトリョシカ人形はきれいに収まってくれない。つなぎ目箇所から、トラウマ的過去がはみ出す(=継ぎ接ぎが狂う)。その飛び出した過去が、「私」の今の苦しみや創作活動につながるのだ。

継ぎ接ぎ狂ったマトリョシカ

もう少しイメージしやすいように、具体例を挙げよう。
「私」はマトリョシカのように、過去を自らの内部に押し込めている。
仮に、現在の「私」は25歳としよう。その「私」の内側には、過去の20歳、15歳、10歳、5歳だったときなどの「私」を内包する。25歳のマトリョシカを開くと、中に20歳の少し小さなマトリョシカ、20歳のマトリョシカを割ると15歳の、15歳のを割ると10歳の…とある。
仮に15歳時点で大きな心の傷を負ったとしよう。その心の傷がたんこぶやケロイドのように膨れ上がるとしたら?15歳の心の傷が、外側のマトリョシカ人形を、圧迫し、頭痛を引き起こす。つなぎ目(=継ぎ接ぎ)からはみ出すケロイド。だが、その吐き出すという行為が、「創作活動」で弦を弾いたりする。だが、他者からの評価は慰めでもあるので、その矛盾に苦しむ。基本的には、そんな物語だと捉えた。

●「頭痛が歌うパッケージ」=今まさにつらい

頭痛が歌うパッケージ

ハチ「マトリョシカ」より引用

この頭痛とは、マトリョシカ的意識を持つ「私」の、傷ついた過去が肥大化して、現在(=パッケージ、マトリョシカの一番外側の部分)の頭部を、圧迫しているからだろう、と考える。端的に言うと、傷ついた過去を思い出して現在つらいのだ。

頭痛が歌うパッケージ

●永遠に「針は四時」=ずっとつらい

いつまで経っても針は四時

ハチ「マトリョシカ」より引用

「いつまで経っても針は四時」とは、「4」が「死」の響きを持つことから、死にたくなるようなつらい時間が続いていることを指すと考えたい。
勝手な想像だが、午前四時で、午後四時ではない気がする。暗い気分で眠れずに、すっかりダメな心になっている時間だ。

いつまで経っても針は四時

●他者との関係性の正解は「誰も教えてくれない」

誰も教えてくれないで

ハチ「マトリョシカ」より引用

「誰も教えてくれないもの」が指すものは何か、色々と予測できる。
だが、一番可能性が高いと考えたのは、「他者との関係性の正しいあり方や捉え方」だ。
(ちなみにほかの可能性としては、「何のために創作活動をすべきか」「誰にメッセージが届くのか」「どんなふうにメッセージが届くのか」、などがある。)

その理由を説明したい。「私」は他者に対して複雑な思いを抱え続けて、つらい思いをしてきた。「過去の他者をどう捉えるべきか」「今、他者をどう思っているのか」「今後、他者とどう関わっていきたいのか」、と言った疑問もわくだろう。だが、こうした疑問は、言ってしまえば「本人の心の捉え方次第なため、どこにも答えがない、誰も正解を教えようがない」のだ。
(他者が答えるケースもないではないかも。だが、語り手は他者不信のため、そもそも信じられない気がする)

誰も教えてくれないで

●過去へタイムトラベル!=「世界は逆さに回りだす」

世界は逆さに回りだす

ハチ「マトリョシカ」より引用

他者不信の「私」が、「他者との関係性の正解」という、誰も正解を教えてくれそうもないことに悩んでずっとつらい。
だったら、自分で答えを見つけるしかない。あるいは、創作活動で昇華するしかない。
そのために、「私」はそもそも何故他者不信に陥ったのか、過去を回想して、自分の心をまずはしっかりのぞき込むべきだ。
「世界は逆さに回りだす」とは、過去へとタイムトラベルして、過去と向き合うことや、過去を元に創作活動することを指すと考える。

世界は逆さに回りだす

●マトリョシカ(=過去の記憶)を目前に「投げ出して」、自分を知りたい

ああ、割れそうだ
記憶も全部投げ出して
ああ、知りたいな
深くまで

ハチ「マトリョシカ」より引用

これは、過去へのタイムトラベルをしようとするシーンと考える。
過去の苦しみが今に押し寄せるような、頭痛で、頭が割れそうに痛い「私」。
そんな「私」が、過去の記憶を目の前に並べる。まるで、マトリョシカ人形を開いて小さな人形を投げ出して、並べてみるように。
もっと、自分のこれまでの気持ちを深く知りたい。
過去の自分自身が、今現在の苦しみの原因を作っているのだから。
自分自身と、しっかり向き合ってみたいのだ。

●サビ:「舞って頂戴」「弦を弾いて」=作品で他者への共感を求める

あのね、もっといっぱい舞って頂戴
カリンカ?マリンカ?弦を弾いて
こんな感情 どうしようか?
ちょっと教えてくれないか?

ハチ「マトリョシカ」より引用

サビ。これは、過去を思い出しながら(タイムトラベルしながら)弦を弾いて創作活動をして、それが受容者に共感されることに対する実感だ。
自分の創作物に、もっと深く共感してほしい、あるいはもっと多くの人に見てほしい(=もっといっぱい舞ってほしい)のだろう。
なぜなら、他者から傷つけられた経験をもとに創作活動しているにもかかわらず、皮肉にも他者からの承認は慰めだからかもしれない。

もっといっぱい舞って頂戴

●「カリンカ?マリンカ?」は、「愛せるか疑問の他者」

「カリンカ?」「マリンカ?」とは、「愛せるか疑問の他者」を指すと考える。

その理由を説明したい。「カリンカ」とは19世紀後半のロシアの歌のタイトルで、「ガマズミ」という赤いさくらんぼのような見た目の果実の愛称。ロシアでは花嫁の象徴らしい。また、「カリンカ」の歌詞中に登場する「マリンカ」は、エゾイチゴの愛称で、これは「花嫁」や「愛らしいもの」の象徴。だらに、「カリンカ」と言う歌は、「マリンカ=愛らしいもの」について歌い上げる歌らしい。それも、愛する娘に愛を求めるメッセージが込められている。歌詞の中に、「私を好きになってくれ!」と言う求愛のメッセージがあるらしいのだ。

↓以下のサイト(カリンカ 歌詞の意味・和訳)を参考

「カリンカ」「マリンカ」という文言が連続して用いられていることから、このロシアの歌の歌詞が念頭に置かれている可能性が高いと思う。

そして、この「マトリョシカ」は「私」が他者との関係性に悩む物語だが、「曲にもっと共感して欲しい」と願って他者に向けて弦を弾きもする。
そんな「他者」を「愛すべき人」と考えて求愛できるのか、悩ましく思って「?」を付けて、「カリンカ?」「マリンカ?」と言うのは、ある程度筋が通っているように思う。


カリンカ?マリンカ?

他者不信でありながらも、他者に求愛したいのかも分からない。
まさに、「こんな感情どうしようか?」と戸惑い、ちょっとどうすべきか教えてほしくもなるかもね。

●「感度良好524」=過去へのタイムトラベルの状況報告

感度良好 524

ハチ「マトリョシカ」より引用

「524」の意味。これは、「いつまで経っても針は四時」が「四時(=つらい時間)がずっと終わらない」なことから考察する。
「524」の「4」を「四時=つらい時間」だとすると、「5」は「五時=つらいことが過ぎ去った時間」だ。「2」は英語の「to=~へ」を指す。
つまり、「感度良好524」とは、5to4(つらいことが過ぎた時間から、つらい時間へと、遡った)ときに繊細でつらい(=感度良好)という、過去へのタイムトラベル時の状況報告ではないだろうか。

感度良好 524

●深層心理(フロイト)の傷(ケロイド)と創作活動(鍵を叩く)

フロイト?ケロイド?鍵を叩いて

ハチ「マトリョシカ」より引用

フロイト」とは19世紀のオーストリアの心理学者だ。トラウマや夢分析の研究などで有名
「ケロイド」とは、火傷を負ったときなどにできる、傷跡が赤く盛り上がった個所
つまり、「フロイト?ケロイド?鍵を叩いて」は、「深層心理にさかのぼって考えると、過去の傷が癒えておらず、そのことを元に創作活動につなげている(鍵を叩いている)」ことを指すと考える。
この「ケロイド」は、歌詞冒頭で説明した「マトリョシカの継ぎ接ぎを狂わせる原因」だ。

フロイト?ケロイド?鍵を叩いて

(ちなみに、この箇所を読み解けたことをきっかけに、「マトリョシカの継ぎ接ぎが狂った」と読み解けて、歌詞全体を読み解けた。)

●「笑っちゃおうぜ:他者への優しさ」と、「馬鹿溜まり:他者不信」

全部全部笑っちゃおうぜ
さっさと踊れよ馬鹿溜まり

ハチ「マトリョシカ」より引用

この箇所の解釈をざっと四コマにしてみた。

さっさと踊れよ馬鹿だまり

上記の四コマを文章でも詳しく解説しよう。

「私」は、創作物を発信する際、「生きてるとつらいことも過去にあったかもしれないけど、笑い飛ばして生きて行こうぜ!」と優しい他者へのメッセージを発信するかもしれない。
苦しい思いを笑い飛ばして、苦しみを無くそうとする。それは優しくて明るい行為。
だから、受容者は「素敵な歌だ!作者を信用できる!」と思い、人気が出て共感されるかもしれない。それに「私」は驚き複雑な思いがする。他者不信を基にした作品が他者にウケたけど、未だ「私」自身は他者不信だから。
しかし、他者からの褒めや共感は、大きな慰めだ。だからもっと褒めて共感してほしい。(=さっさと踊れ。舞って。)しかし、未だに「私」は根本的に他者不信感で、かつそんな「私」の複雑な思いを理解する人がいないと感じ、見下した言葉が漏れる(=馬鹿だまり)

まとめると、他者に優しく明るいメッセージを言う人物が、裏では他者不信がぬぐえないのに、もっと共感してほしい。
こんな複雑な「私」はひどくつらそうな気がする。

●「幼稚な手を狂った調子で叩く」=他者にハンパに合わせる

てんで幼稚な手を叩こう
わざと狂った調子でほら

ハチ「マトリョシカ」より引用

「手を叩く」とは周囲に合わせた手拍子、つまりは「周囲に合わせる」ことだろう。
しかし、「幼稚な手」とあるのは、「周囲に合わせる」行為をくだらないものとして見下しているのではないか。だからこそ、わざと狂った調子で手を叩くのだ。
くだらないと思うこと(=他者に合わせること)に対して、本気になれないのだ。
他者との関係性に悩む「私」は、周囲の他者に合わせてみるが、本気で感情移入できない


幼稚な手を叩こう

●他者など「どうでもいい」=傷つかなくなる

きっと私はどうでもいい
世界の温度が溶けていく

ハチ「マトリョシカ」より引用

「どうでもいい」と言う「私」。
これは、他者との関係性に悩んで疲弊しきったからこそ出た言葉だろう。
もはや、「他者の心や他者との関係性なんて、どうでもいい」「自分の心(他者との関係性ののつらさ)も、どうでもいい」と投げ出した気分になのかも。
そして、他者や自分の心を「どうでもいい」と諦めることは、傷つく心を鈍くすることにつながる。つらいと感じにくくなる。(=世界の温度が溶ける)

例えば、体罰が頻繁にある学校を想像してほしい。その先生が体罰を行う事実も、体罰を受けて傷つく心も、いちいち真剣に「どうしてだよ!」と思っていたら、ずっと怒りっぱなしで、疲れてしまう。しかし、「どうせ、この学校はこんなものだ。全部どうでもいい。」と諦めてしまえば、傷つきにくくなるかもしれない。

世界の温度が溶けていく

ちなみに、マトリョシカのPVのキャラクタの表情は、結構こわばった印象がある。
これは、他者との関係性や自分の感情など「どうでもいい」と諦めて傷つくまいとした結果、感覚を鈍くしようとして固まった表情だからではないかと言う気がする。

(上の画像:ハチ「マトリョシカ」より引用)

●「私」は、他者と愛し合える気がしない(=飛んでったアバンチュール)

あなたと私でランデブー?ランデブー?
ほらランデブー?
あらま飛んでったアバンチュール?
足取りゆがんで1,2 1,2

ハチ「マトリョシカ」より引用

「ランデブー」には、「待ち合わせ/逢い引き/ デート」などの意味がある。
「アバンチュール」には、「冒険/冒険的な恋愛/恋の火遊び」の意味がある。
「ランデブー?」「アバンチュール?」とは、「カリンカ?マリンカ?」の解釈と同様、「他者(=あなた)と愛し合えるか疑問」という意味合いではないだろうか。

「あなた(=他者)」と「私」は、愛し合えるかのような夢(=アバンチュール)を見る。だが、その空想は儚くも飛んで行く。他者と愛し合えるような気がしないのだ。


飛んでったアバンチュール?

「足取りゆがんで1、2、1、2」とは、ダンスのステップだろう。
「私」は、他者と愛し合って他者に歩調を合わせることが、うまくできない。(=足取りがゆがむ)

●やっぱり、「吐きそう」なもの(=つらさ)を他者に受け止めてほしい

ああ、吐きそうだ
私の全部受け止めて
ああ、その両手で
受け止めて

ハチ「マトリョシカ」より引用

ここまで、「私」の他者との関係性にまつわる苦しみが次々とあげられてきた。
そうしたさまざまな苦しみについて「吐きそうなほどつらい」「そうした苦しみをも含めて創作活動(=思いを吐き出す行為)するほかない」と感じたがために、このパートで「吐きそうだ」と言うのではないだろうか。

他者なんて「どうでもいい」し、感情も死んでいく(世界の温度が溶けていく)と思おうとした私だが、やはり感情は殺せなかったのだ。

他者との関係性に悩むのはとても苦しいし、誰かにそんな思いを受け止めてほしいのだ。

私の全部受け止めて

●ついに、過去のトラウマと今の自分が対峙

あのね、ちょっと聞いてよ大事なこと
カリンカ?マリンカ?頬をつねって
だってだって我慢できないの
もっと素敵なことをしよう?
痛い痛いなんて泣かないで
パレイド?マレイド?もっと叩いて
待ってなんて言って待って待って
たった一人になる前に

ハチ「マトリョシカ」より引用

このシーンは、「現在の私」のタイムトラベルによる「過去の私」や「過去の他者(=過去の私を傷つけた存在)」との対峙だ。ついに、「私」の他者不信の根本的な要因と向き合おうとするシーン。(なお、「タイムトラベルによる過去との対峙」は、もちろん創作活動などの幻想のなかでしかできない行為だ。創作活動の意義は大きい)

一文ずつ解説したい。

ちょっと聞いてよ大事なこと

「あのね、ちょっと聞いてよ大事なこと」
→「現在の私」が、過去にタイムトラベルして、「過去の他者」や、「過去の私」に何か大事なことを語り掛けようとする。
「カリンカ?マリンカ?頬をつねって」
→「カリンカ?マリンカ?」とは、愛せるか疑問の他者。タイムトラベル先の「過去の他者」が、「過去の私」の頬をつねる。(=傷つけてくる)。
「だってだって我慢できないの」
→「過去の他者」は、「過去の私」を傷つけることを「我慢できない」。
(また、「過去の私」も「過去の他者」から傷つけられる状態に耐えている。間違っていることに耐えており、もしかすると「他者依存を辞められない」と言う意味での「我慢できない」かもしれない)
「もっと素敵なことをしよう」
→「現在の私」は、「過去の他者」「過去の自分」に語り掛ける。傷つけることでもない、傷つける他者への依存でもない、もっと素敵なことをしようよ、と。
「痛い痛いなんて 泣かないで」
→「現在の私」が、「過去の他者」に傷つけられて泣く「過去の私」を見て、思わず「泣かないで」と語りかける。

●パレイド?マレイド?もっと叩いて
→「パレイド」は、行列のこと。「マレイド」はアイルランドやスコットランドなどの女性の名前。「マレイド?」は、「カリンカ?マリンカ?」と同じく、「愛すべきか疑問の他者」だろう。
さて、「パレイド=行列」は、「マトリョシカ人形」が並ぶイメージと重なる。
そして、「私」の過去がマトリョシカ人形のように収まるなら、「他者」もマトリョシカのように過去を内包していてもおかしくない。「他者」のこれまでのことが、目前に並べたてられる(=行列、パレード)。


パレイド?マレイド?もっと叩いて

行列になって並ぶ色々な時点の他者が、それぞれ「過去の自分」をさらに叩く(傷つける)と考えた。(うわ~地獄みたい!)
タイムトラベルして見ている「現在の自分」は、相当ダメージを受けるのではないだろうか。
・待ってなんて言って待って待って
→「現在の私」が、「過去の他者」に対して「傷つけるようなことはしないで(=待って)」と呼びかけている。
あるいは、「現在の私」が、「過去の私」に対して、「(待って」なんて言葉を(他者に対してちゃんと)言うべきだよ!」と呼びかけているのかも。

●「たった一人になる前に」とは?

「現在の私」は、過去の傷ついた時点と対峙したときに、止めようとする。
これは、「現在の私」が、「傷つけられた過去よ、無くなれ(心の傷が、今の他者不信や孤独感につながる前に=たった一人になる前に)」と願うからだろう。

たった一人になる前に

●つらい気持ちを「酔いつぶせ」「歌いだせ」

酔い潰せ 歌いだせ 今日もほら
継ぎ接ぎ狂ったマトリョシカ

ハチ「マトリョシカ」より引用

つらい気持ちを酔い潰すようにごまかそう、歌いだそう(=創作活動で昇華しよう、共感されて心を慰めよう。)
自分はマトリョシカのように、辛い過去をそうして吐き出す存在なのだから、いつものことさ(=今日もほら)、という気持ちが語られる。

●ラスト:「さっさと踊っていなくなれ チュチュ」とは?

さっさと踊っていなくなれ
チュチュ

ハチ「マトリョシカ」より引用

「さっさと踊っていなくなれ」で終わる。
つまり、「他者に創作物に共感してほしい」が、「他者を信頼しきれないので、去ってほしい」という孤独な思いで終わってしまった
(かつては、「さっさと踊れよ馬鹿だまり」と見下していたのが、もはや「去ってほしい」に変化した。)
やっぱり、過去との関係性の捉え方には正解がなくて、悩ましく、逃げ出したくもなるのだ。
正解は、タイムトラベルでも見つけられなかった。

さっさと踊っていなくなれ

ただ、「チュチュ」が歌詞の最後の最後に来る。この「チュチュ」は「キス」を指すのかもしれない。つまり、他者との愛を夢見ることを実のところはやめられない、のかもしれない。

●妄想:「マトリョシカ」が共感されることを含めて、ようやく…

ここまで解説してきたように、「マトリョシカ」は、「他者と愛し合えるのか、関係性に悩み、結局<いなくなってほしい>と終わる歌」かもしれない。
だが、「いなくなれ」で終わるこの曲が共感されたらそのとき初めて、マトリョシカの作者は、「いなくなれ」とまでは、他者に思わなくなる可能性があるのではないだろうか。
「マトリョシカ」という「他者との関係性のつらさを描き切った作品」が他者に受け入れられる…ということが結構重要なことで。その時、もはやそれほど激しく他者不信にこだわり続けることもなくなる気もするのだ。

マトリョシカのトゥルーエンド?

●連想:太宰治の「人間失格」をさほど暗くないと感じた思い出

ふと、太宰治の「人間失格」を初めて読んだ時、「評判ほど暗い話じゃないな」と感じたことを思い出した。
「人間失格」は、太宰自身がモデルと思しき人物が主人公だが、語り口が軽妙で面白く、かつ、読者にその心の苦しみや葛藤があけっぴろげに語られているように思えた。
加えて、太宰治自身が読者に十分に共感されている評判を知っていたので、「文章力があってウケている、なら作者の心は救われるから全然暗くないじゃん」っていう気分になったのかも。
(まあ、苦しみをしっかり書かざるを得ないほど深刻に病んだ気分になっていたのかも、というところまでの想像も、後にしたが)

●PVの子の涙の理由=「過去のトラウマ・他者との関係性の悩み」

マトリョシカのPVの終盤で、赤いフードを被った女の子が、半ば無表情で、口を叫びだすように大きく開けて、涙を流すシーンが長くアップになる。
「無表情のキャラクターが、涙を流す、それも長い時間ドアップなのはどういうことだろうか?」という疑問が、昔からあった。その疑問はこの解釈で解けたように思うので、個人的には満足している。(過去のトラウマ・他者との関係性で悩んで切実な気持ちで創作活動をしているから、涙を流すほどの想いなのだ
PVと比べても、わりとはずれていない解釈であるような気が勝手にしている。PVのキャラクターたちのジッパーを脱ぐと、そこには彼女たちの過去が潜んでいそうだ。

(上の画像:ハチ「マトリョシカ」より引用)

ちなみに、この歌のテーマが「自分の意図しない解釈がされることの悲しみ」いう解釈もあるようだが。筆者はそうではないと思う派だ。
「作者の意図通りに100%受容者が解釈できるはずではない」のは、極めて当たり前だからだ。例えば音楽を聴いたとき、聴き手は「作者ってこんなことを感じて作ったのかな?」と空想するかもしれないが、その予測と実際がずれていたところで、泣くほどつらいだろうか?激しい悲しみを感じて、涙を流すシーンをアップにした動画を作成するだろうか?と筆者の感覚で思ったからである。
(むしろ、「作者の作品を解釈して想像しようとする」行為自体は、受容者の愛情の一つなので、「作者の意図の予測」が誤っていたとしても、どちらかというと、作者は嬉しいのでは?自分の小説の感想欄に自分の意図と全く違う解釈がされたとしても、だいたい何でも私は嬉しいんだけどなあ、と、ちなみに筆者は感じる方だ。)

ちなみに、米津玄師(ハチ)本人は、「世の中ファック!」の曲だと言っているようで。

あとこんな絵も描かれている↓かわいい。

●最後に

当初予測していたよりも、随分長い内容になってしまった。
「トラウマ」と「創作活動」は、昔から惹かれるテーマで、以前書いた筋肉少女帯の「ハッピーアイスクリーム」もジャンルで言えばそうかも。

ボカロでトップクラスで好きで妙に惹かれていた曲を、頑張って解釈できたのは本当に嬉しいな。超大変だったけど…
っていうか、歌詞の情報密度が濃すぎませんか?
解説するための文字数も画像の枚数もえぐいことになっちゃったじゃないですかやだ~
とはいえ、こんな長ったらしいものを読んでいただき、ありがとうございました!

★★画像一気見!★★


画像をかなり頑張って制作したので、画像を一気見できるコーナーを設けてみた。画像だけでも、この解釈は大体わかるし、一気につかみやすいかも。



thank you!