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読書百冊 第25冊 西岡文彦『ビジネス戦略から読む美術史』新潮新書

 特にルネサンスの絵画と幻術化に関する逸話をはじめとして、内容的には大半知っていることばかりで、あまり面白くなかった。ただこうした既知の情報を、冒頭の「美術品が売れれば、売れない商品はない」をはじめ、いくつかのキイ・コンセプトを、〈額縁〉にすることで、関心を引くストーリーに再構成することにより、広い読者層に〈売れる〉読み物を仕立て上げているのには興味をそそられる。

 もう少し言えば、少数の人に依存する注文製作から、多数の買い手により構成される市場でのマーケティングに基づく販売へ、更には第7章、第8章に取り上げられた印象派の価値創出戦略に伺えるように、様々のメディアを駆使して需要そのものを意図的に創出する方向へと、アート・ビジネスが変貌していったプロセスの紹介が、この本の執筆の核アイディアとなっている。

 これから退職してだんだん、学者として最先端のことを研究する(「知らないことについて考えをめぐらす」)より、読書人として、既知の情報を使った啓蒙活動(「知っていることを如何に興味を引く話として伝えていくか」)へと活動の焦点を次第に移していかなくてはならないことからも、こうした情報の手直しの技法は大変参考になる。

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