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事業承継を通じた企業の成長・発展

事業承継を通じた企業の成長・発展

大きく2節に分かれており、第1節で休廃業・解散や経営者の高齢化の状況も踏まえつつ、中小企業の事業承継の動向について分析。第2節では、近年のM&Aに対する関心の高まりを概観し、中小企業のM&Aの動向について分析となっている。

「第一節 休廃業・解散の動向と経営者の高齢化」
大前提:
〔1〕休廃業・解散企業の現状について→(株)東京商工リサーチの「2020年「休廃業・解散企業」動向調査」を用いて確認。
〔2〕経営者の高齢化に関して→(株)東京商工リサーチが実施した「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート2」を基に確認。

そこで得られた結果は以下の通り。

〔1〕     休廃業・解散の動向
・2020年は休廃業・解散件数が増加しているが、業種にかかわらず休廃業・解散が増加している様子が見て取れる。

・全ての業種において、休廃業・解散企業の95%以上は従業員20名以下の比較的小規模な企業であることが分かる。

・70代以上が全体に占める割合は年々増加傾向、その上で休廃業・解散企業の代表者年齢について確認すると、2020年は「70代」が最も多く41.8%となっている。

・近年、経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、休廃業・解散件数増加の背景には経営者の高齢化が一因にあると考えられる。

・比較的業歴の短い企業の休廃業・解散も生じていることが確認される。創業期に経営が軌道に乗らず、休廃業・解散に至ったものと推測される。

・休廃業・解散した企業のうち、直前期の業績データが判明している企業について集計すると、2014年以降一貫して約6割の企業が当期純利益が黒字であることが分かる。

・業績不振企業だけでなく、高利益率企業の廃業が一定数発生していることが分かる。

・休廃業・解散企業の中には、経営者自身が事業を継続する意向がない企業も含まれることに留意する必要があるが、一定程度の業績を上げながら休廃業・解散に至る企業の貴重な経営資源を散逸させないためには、意欲ある次世代の経営者や第三者などに事業を引き継ぐ取組が重要である。

〔2〕経営者の高齢化
・2009年以降、経営者の平均年齢が一貫して上昇していることが分かる。2019年には過去最高齢を更新し、経営者の平均年齢は62.16歳となっている。

・経営者年齢の多い層が「60歳~64歳」、「65歳~69歳」、「70歳~74歳」に分散しており、これまでピークを形成していた団塊世代の経営者が事業承継や廃業などにより経営者を引退していることが示唆される。経営者年齢の上昇に伴い事業承継を実施した企業と実施していない企業に二極化している様子が見て取れる。

・経営者年齢が30代以下の企業では増収割合が6割程度であるのに対し、80代以上の企業では4割程度となっており、経営者年齢が上昇するほど増収企業の割合が低下していることが分かる。

・経営者年齢が上昇するほど増益企業の割合がなだらかに低下していることが分かる。

・おおむね経営者年齢が若い企業ほど、設備投資を実施した企業の割合が高いことが分かる。

・経営者年齢が若い企業ほど、試行錯誤(トライアンドエラー)を許容する組織風土があるとする企業の割合が高い傾向にあることが分かる。

・経営者年齢が若い企業ほど、長期的な視野に立って経営を行って事業を拡大しようとする意向が強くなる可能性を指摘しており、こうした取組や組織風土が売上高や利益などのパフォーマンス向上に影響している可能性が考えられる。

・4割以上の経営者が65歳から75歳未満の間に事業承継・廃業を予定しており、2020年時点で65歳から74歳の経営者の占める割合は高く、既に多くの経営者がこの予定年齢に達していると考えられる。

・事業承継や廃業に関する準備が直近の経営課題となっている経営者も多いと推察されることから、必要性を認識しながらも未着手の経営者は外部の支援機関の活用も含めて、早期に準備を進める必要がある。

「第二節 事業承継の現状と事業承継実施企業のパフォーマンス」

大前提:
事業承継の現状 
[1]経営者交代→(株)東京商工リサーチの「企業情報ファイル」を基に集計した経営者交代数4の推移。
後継者有無の状況→(株)帝国データバンクの「全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)
後継者有無別のパフォーマンス比較→(株)東京商工リサーチの「企業情報ファイル」

〔2〕事業承継実施企業のパフォーマンス→(株)東京商工リサーチの「企業情報ファイル」を用いて分析

〔3〕新型コロナウイルス感染症を踏まえた事業承継意向の変化→大同生命保険(株)の「大同生命サーベイ(2020年9月)」

〔1〕     経営者交代

※事業承継は一般的に「人(経営)」の承継のほか、株式を始めとした「資産」の承継などを含むが、ここでは、経営者の交代という観点から事業承継について分析している。

・経営者交代数は年間3万6千件前後で推移しており、毎年一定程度経営者交代が行われている。

・規模が小さい企業ほど交代前の経営者年齢は高く、規模が大きい企業ほど交代前の年齢が低い。
また、規模が小さい企業では事業承継時期が相対的に遅い傾向にあることが分かる。一方で、交代後の経営者年齢は規模が小さい企業ほど低く、規模が大きい企業ほど高くなっており、規模が小さい企業の方が事業承継により経営者年齢が若返る傾向にあると言える。

・交代前の経営者年齢は同族承継で68.9歳、同族承継以外で63.2歳と、同族承継では事業承継時期が遅くなる傾向にある。これは子息などの後継者が一定の経験や年齢を重ねるのを待って事業承継するために、結果的に承継時期が遅くなっている可能性が考えられる。一方で交代後の経営者平均年齢は同族承継で46.8歳、同族承継以外で54.5歳と同族承継の方が若い年齢で経営者に就任していることが分かる。

・半数以上の企業では、先代経営者の親族が経営者に就任していることが分かる。
・事業承継の方法がこれまで主体であった親族への承継から、親族以外への承継にシフトしてきていることが分かる。

・後継者不在率は2017年の66.5%をピークに近年は微減傾向にあり、足元の2020年は65.1%となっている。

・60代では約半数となる48.2%、80代以上でも31.8%と、経営者年齢の高い企業においても後継者不在企業が一定程度存在していることが分かる。

・後継者不在率に関して、製造業では57.9%、運輸・通信業では61.5%と比較的低い一方、建設業では70.5%、サービス業では69.7%となっており、業種によって差異があることが分かる。

・後継者有企業において売上高成長率が高い傾向にあることが見て取れる。

・後継者有企業において営業利益成長率が高い傾向にあることが見て取れる。

・後継者有企業において従業員数成長率が高い傾向にあることが見て取れる。

・(上記の軽いまとめ)事業継続を希望しながらも後継者不在が課題となっている企業においては、後継候補者の選定や意思確認を進めるだけでなく、事業の見直しや経営改善に取り組むなど、企業の磨き上げに注力することも重要。

・同族承継が67.4%となっており、後継者が決まっている企業の多くは経営者の親族への承継を予定していることが分かる。

・創業者や親族から引き継いだ経営者は同族承継を予定する割合が高い一方、役員・従業員からの昇格や外部招へいなどにより就任した経営者は、自身と同じように内部昇格や外部招へいなどの第三者への承継を予定する割合が高い。

・多くの経営者はまず「親族」を第一候補として検討し、次いで「役員、従業員」、そして「事業譲渡や売却」、「外部招へい」の順に検討している様子がうかがえる
(近年同族承継の割合が34%程度であることを考慮すると、必ずしも希望通りに親族への承継がかなわないケースも増えてきていると考えられ、事業継続の意志がある場合は早めに後継候補者の意思確認を進めていくことで、様々な選択肢を検討することが可能になるといえよう。)

・事業承継の意思を伝えられてから経営者に就任するまでの期間を見たものである。これを見ると、「5年超」の割合が最も高いが、「半年未満」や「1年~3年未満」もそれぞれ2割程度となっていることが分かる。

・同族承継の場合は「5年超」の割合が最も高く、43.9%となっている。一方で、「外部招へい・その他」の場合は「半年未満」が45.5%と最も高くなっており、承継方法によって事業承継に向けた準備に充てられる期間に差があることが分かる。

・同族承継の場合は「先代経営者の取組の継承・強化」とする割合が高い一方、内部昇格や外部招へい・その他の場合は「新たな取組に積極的に挑戦」とする割合が高いことが分かる。

・現経営者が事業承継前5年程度の間に承継に向けて実施した取組について、「先代経営者とともに経営に携わった」が最も多く、58.2%の経営者が取り組んでいることが分かる。次いで、「他社での勤務を経験した」や「自社事業の技術・ノウハウについて学んだ」が3割を超えている。

・同族承継においては事業承継の意思を伝えられてから就任するまでの期間が長いことを考慮すると、承継に向けて様々な準備に取り組んでいる様子がうかがえる。一方で、「外部招へい・その他」においては、「特になし」とする者が37.9%となっており、準備期間の短さが影響している可能性が考えられる。

・現経営者が事業承継後5年程度の間に意識的に実施した取組について、「新たな販路の開拓」が最も多く、44.9%の経営者が取り組んでいることが分かる。次いで、「経営理念の再構築」や「経営を補佐する人材の育成」が3割を超えている。

・就任経緯別の傾向の差は小さく、就任経緯にかかわらず後継者が様々な取組にチャレンジしている様子がうかがえる。

・事業承継時に経営方針について明確にしていることが事業承継後の新たな取組へのチャレンジにつながることが示唆される。

・現経営者の事業承継に対する課題について、「事業の将来性」が最も多く、半数以上の企業で課題となっていることが分かる。次いで、「後継者の経営力育成」や「後継者を補佐する人材の確保」など事業承継後の経営体制に関するものが上位となっている。

・(上記の軽いまとめ)「事業の将来性」については、承継方法にかかわらず半数以上の経営者が課題として捉えていることが分かる。役員・従業員の中から適任者を選定することが課題となっている様子がうかがえる。一方で、外部招へいの場合は、「近年の業績」や「従業員との関係維持」の割合が高い。「近年の業績」が課題となっていることで、外部招へいという手段を検討している可能性も考えられる。

〔2〕     事業承継実施企業のパフォーマンス

・事業承継実施企業の承継後5年間の売上高成長率(同業種平均値との差分)について、事業承継の1年後が最も高いものの、2年目から5年目までも一貫して同業種平均値を上回っており、事業承継実施企業が同業種平均値よりも高い成長率で推移していることが分かる。

・当期純利益成長率を見たものである。事業承継の1年後から5年後まで同業種平均値を20%前後上回っており、事業承継実施企業が同業種平均値よりも高い成長率で推移していることが分かる。

・同様に従業員数成長率を見たものである。事業承継の1年後から5年後まで同業種平均値を0.5%前後上回っており、事業承継実施企業が同業種平均値よりも高い成長率で推移していることが分かる。

・事業承継時の後継者の年齢別に分析したものについて、全ての指標において、事業承継時の年齢にかかわらず事業承継後の成長率が同業種平均値を上回っており、事業承継後パフォーマンスが向上していることが分かる。特に事業承継時の年齢が39歳以下においては成長率が高い傾向にある。

・承継方法によって多少の成長率の差はあるが、いずれの承継方法においても事業承継実施企業の成長率が同業種平均値を上回っていることが分かる。

・増収企業の方が成長率は高いものの、減収企業であっても事業承継後の成長率は同業種平均値を上回っており、承継後にパフォーマンスが向上していることが分かる。

・(上記の軽いまとめ)先代経営者や後継者は、事業承継が単なる経営者交代の機会ではなく、企業の更なる成長・発展の機会であることを認識した上で、事業承継に向けた準備や承継後の経営に臨むことが重要。

〔3〕新型コロナウイルス感染症を踏まえた事業承継意向の変化
・感染症流行を受けて、事業承継の考え方や方向性に変化があったかを確認したものである。これを見ると、16.1%の経営者の心境に変化があったことが分かる。

・「事業承継の時期を延期したい」が32.5%と最も高く、次いで「事業承継の時期を前倒したい」が27.4%となっている。感染症流行を受けて、一部の企業では、事業承継時期を前後にずらすなど、承継計画の転換に迫られている様子がうかがえる。

・「事業承継に向け、後継者決定済み」や「事業承継に向け、譲渡・売却・統合(M&A)を検討」とする経営者は「事業承継の時期を前倒したい」とする割合が高い。

・「事業承継に向け、候補者あり」や「事業承継について未検討」とする経営者は「事業承継の時期を延期したい」とする割合が高い。

中小企業庁:2021年版「中小企業白書」 第1節 事業承継を通じた企業の成長・発展 (meti.go.jp)

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