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事業承継後における中小企業再生の理念創成プロセス* ─中小企業3社における後継者の リーダーシップ開発事例から─ 敬愛大学経済学部准教授  佐竹  恒彦

要約

事業承継後の経営不振にある中小企業が安定再生を果たすためには、借り物ではない明確な理念に支えられたリーダーシップを後継者が発揮していく必要がある。経営者のトップがリーダーシップを発揮するにはその会社の経営理念が必要で、「理念→戦略→計画」型の理念創成プロセスが、多くの論者によって提唱されている。
しかし、理念は象徴的な飾り物として扱われ、無視されてしまう傾向にある。
その為、経営不振の中小企業の多くには、そもそも経営者の考え・計画・戦略など、整合性のある明確な理念が存在しないと推定される。また、既存研究においても、事業承継後の当該企業における理念を早期に創成する方法に関する議論が十分になされているとはいい難い現状がある。

上記を踏まえた上で、本論文では「経営不振にある中小企業の後継者が同族承継による事業承継後に理念を見出し、中小企業再生のリーダーシップを開発・発揮していくための理論的視角を提供する」ことを目的に、「理念が曖昧な経営不振状態にある中小企業の後継者が、事業承継後の再生に有効なリーダーシップの開発につながると推定される理念を早期に創成するには、どのようなプロセスが有効か」というリサーチクエスチョンを設定している。

このリサーチクエスチョンを明らかにするために、中小企業における事業承継の現状と課題を明確にするために、中小企業再生に求められるリーダーシップの概念やリーダーシップにおける理念の必要性・理念の概念・理念の創成方法などに関する既存研究をレビューし、さらに千葉県に本社機能がある中小企業 3 社の事例を比較している。

中小企業3社の事例を比較した結果、「計画→戦略→理念」型のプロセスによって理念が創成されていた。ここから、多くの論者が提唱する「理念→戦略→計画」型の理念創成プロセスと順序が真逆である事実を理解できる。

このことから、中小企業が倒産の危機という状況下で事業承継を行う場合は、理念の必要性は認識しつつも、後継者の動機づけの観点から、まずは当面の問題を解決するための計画を立てた後に戦略を検討し、そこから戦略と整合性のある理念を創成しようとするプロセスは、事業承継後における中小企業再生に有効な後継者のリーダーシップ開発につながる可能性がある。またこの考えを社員などに理念を浸透させる取り組みがきわめて重要であると考えている。

総括

経営不振にある中小企業が安定再生を果たすためには、経営者のリーダーシップが非常に重要になる。
経営者のリーダーシップを考える上で重要なのは「経営理念」であり、それを作る為のプロセスの順番を考えるべきである。
様々な検証をした結果、多くの論者が提唱する「理念→戦略→計画」型の理念創成プロセスと順序が真逆の「計画→戦略→理念」型のプロセスによって理念を創成する重要性が浮かび上がってきた。
この「計画→戦略→理念」型のプロセスによって理念を創成し、作られた理念を社員などに浸透させる取り組みを行う事で、経営者がしっかりとリーダーシップを発揮し、中小企業が安定再生を果たす事に繋がると考えられる。

159079-日本政策金融公庫論集第56号.indb (jfc.go.jp)


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