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地方都市における小規模M&Aに必要となる 公的支援機関の役割 ―福井県の菓子製造業:恵比須堂の事業承継事例より― 竹川 充(福井県立大学大学院博士後期課程) Mitsuru TAKEGAWA (Graduate School, Fukui Prefectural University)

始めに

今の日本にとって、中小企業の事業承継がいかに危惧すべき問題かはこれまでにも記載しているので省略する。

事業承継ガイドラインでは、事業承継を「親族内承継・役員」「従業員承継」「社外への引継ぎ(M&A1))」の 3 類型に分類している。

同ガイドラインでは、親族内承継が中小企業に一般的であるものの、事業承継全体に占める割合は低下していることにも言及している。子息がいる場合でも、事業の将来性や経営の安定性等に対する不安の高まりや、家業にとらわれない職業の選択、リスクの少ない安定した生活の追求等、価値観の多様化などが関係していると指摘している。

一方増加しているのが、役員・従業員への承継や社外への引継ぎ(M&A)である。M&Aは、経営管理能力の高い人材へ承継することにより事業の安定的な継続が期待できる。役員・従業員への承継で課題となる自社株式・事業用資産の買取りや、銀行借入にかかる経営者保証の問題などに対しても様々な公的支援策が施され始めている。

要約

小規模M&Aについて、まだスタートしたばかりの現状がある。
公的支援機関と民間事業者が連携・協力し、マッチング、成約事例を地道に積み上げ、二歩三歩と前進していくことが望まれる。

現状、小規模M&Aに係る公的支援機関の必要性やその効果については充分に検討されていると思われる。
一方で課題も存在し、ここでは「小規模M&Aの支援に携わる人員の不足」を中心に、公的支援機関の活動強化のみならず、民間のアドバイザーや金融機関などの民間事業者の活性化が必要不可欠だとしている。

公的支援機関側の具体的な不足事項として、「小規模事業者が後継者不在であるかどうかを把握できていない(わかりにくい)」ことが挙げられる。
国は事業承継の実態調査や、高齢経営者の事業承継への意識啓発のため、2017年度に「事業承継ネットワーク」を 19 の道府県に配置した。
2018 年度には 44 道府県に拡大し、2019年度は東京を除く 46 道府県まで拡大して、中小企業の事業承継の実態把握と相談対応・円滑化支援に取り組んでいる。2018 年度には「プッシュ型事業承継支援高度化事業」として各道府県に事業承継コーディネーターを配置し後継者不在企業の掘り起しと支援を強化している

概要

「小規模M&A」に関する問題として、「小規模M&Aの支援に携わる人員の不足」を筆者は挙げていたが、これはすなわち「小規模M&Aの経験が豊富な人材がいない」というように受け取れた。
これは世間で言われるような単純な人材不足ではない。知識・経験のある人材があってこそ成立する世界が小規模M&Aであり、「M&A関連で働いてくれる人が集まっていない」+「企業の後継者が不足している事で、M&Aに関わる人材が大量のM&A事例をさばいていくといったような実践経験を積むことができていない現状」こそが、今の問題を作り出しているように感じる。
一つの問題を解決すれば終わるような単純な物ではなく、連鎖的に機能するような「構造的な解決」こそ今求められているのだろう。

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