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「アメリカ、イギリス及びドイツにおける中小企業政策と会計検査等の状況」に関する調査研究業務」説明会用資料 有限責任 あずさ監査法人 2021年3月

前置き
【目的】
• 本調査研究は、アメリカ・イギリス・ドイツ及び日本の中小企業及び中小企業政策の状況、各国の会計検査院の役割や検査等の事例について整理・分析することにより、我が国会計検査院の中小企業政策に対する会計検査に有用な情報を提供することを目的としている。

【対象】
• 2008年のリーマン・ショック以降の各国の中小企業政策を対象とし、中小企業全般を対象とする政策と個別の政策分野のみを対象とする政策を深掘りしていく。
一方で、政府開発援助のように外国企業を対象としたものは調査対象外としている。

• 施策分野は、①創業・事業承継等支援、②生産性向上支援、③研究開発・イノベーション支援、④販路 開拓支援(海外展開支援を含む)、⑤地域経済振興支援、⑥危機対応支援、⑦COVID-19対応の 各種施策(⑥危機対応支援から外出し)の七つの分野である。

要約

「各国の中小企業政策に関して」

・中小企業政策の主な支援形態は、資金援助(融資・補助金)及びコンサルテーション・情報提供

・中小企業を対象とした税額控除制度等、税制面における支援施策を有している

「各国の中小企業政策に関する会計検査(示唆)」

アメリカ:検査の過程において標本を抽出し、母集団の真値を推定する統計的手法を活用・COVID-19について、完了していない政策等に対しても検査を実施

ドイツ:記載項目を簡素化すると当時に定量情報の記載を要求して迅速性と客観性を担保

イギリス:COVID-19について、完了していない政策等に対しても検査を実施

概要
まず、アメリカ・イギリス・ドイツ・日本における中小企業の定義を見ると、大きな違いがあった。

・アメリカと日本は、業態別に中小企業の定義を定めている。

・日本における中小企業は「資本金」を基準としており、アメリカ・イギリス・ドイツは「売上高」を基準としている。

・ドイツを除くと、各国においては概ね250人から300人未満の規模の事業体を中小企業として定義付け。

・各国において、中小企業が全産業に占める割合は99%を超えており(アメリカ:99.9%、イギリス:99.9%、ドイツ: 99.5%)、中小企業が各国における経済の重要な担い手になっている。

中小企業が国の経済を支える根幹になっている事実は変わりないが、中小企業を支える基準を見ると、日本のみ世界と違う点などが浮き彫りになっており、経済が伸びない理由が少し垣間見える。


「アメリカにおける中小企業の位置づけ」

• アメリカは、中小企業を市場経済における自由競争を支える牽引役として捉えている。
• 2017年の中小企業数は3,170万社(全企業数の99.9%)
• 中小企業に雇用されている雇用者数は6,060万人(全企業における従業員数の 47.1%
• 輸出関連企業数は29.3万社(同、97.5%)

「イギリスにおける中小企業の位置づけ」

• 2019年の中小企業数は583万社(全企業数の99.9%)
• 中小企業が雇用している従業員数は1,663万人(全企業における従業員数の 60.5%)
• 中小企業全体の売上は2.2兆ポンド(全企業における売上高の52.2%)
• 経済全体における中小企業のプレゼンスは高い。

「ドイツにおける中小企業の位置づけ」

• 2018年の中小企業の企業総数は348万社(全企業数の99.5%)
• 売上高は6.9兆ユーロ(全企業における売上高の34.4%)
• 従業員数3,086万人(全企業における従業員数の57.6%)
• 雇用の中核を担っていることが伺える。経済構造的にGDPに占める輸出の割合が高く、 2018年においては39%とGDPの約4割を輸出売上に依存している。

「日本における中小企業の位置づけ」

• 2016年における中小企業数と小規模企業数は305万社(全企業数の99.7%)
• 2019年における非農林業就業者における中小企業就業者数は3,532万人(全企業 における非農林企業就業者の37%)
• 中小企業の総売上高は135兆円(全企業における売上高の48.3%)
• 総生産高は128兆円(全企業における生産高の49.3%)

「アメリカにおける中小企業政策の特徴」

• アメリカの中小企業政策は、保証を中心とする政策金融、予算確保・税制による支援、ス タートアップ企業への創業や研究開発費の支援、政府調達における中小企業の優遇、そして 州レベルでも多くの支援があることに特徴がある。

• 主要な中小企業政策は資金援助(融資・補助金)やコンサルテーション・情報提供である。

• イギリスやドイツと比較して、労働機会税額控除、小規模雇用者年金制度税額控除、研究開発活動税額控除、投資税額控除等の中小企業を対象とした税制を通じた支援も存在す る。

・アメリカにおいては①~⑦それぞれの分野で満遍なく政策・プログラムが存在しているが、中小企業の中でも特にスタートアップ企業(起業家)に対する支援や歴史的、経済社会的マイノリティが所有する中小企業に対する支援が特徴的である。

「イギリスにおける中小企業政策の特徴」

• 1970年・1980年代は産業再生、新規開業促進のための支援、1990年代は既存企業の経営 能力向上、2000年代は創業促進と生産性向上を目的とした企業の技術革新、2010年代は、 政府顧問のヤング卿の報告書で示された内容を政策の柱としつつ、戦略セクターの有望な起業家や中小企業に焦点を当てた産業育成に政策の重心を置いてきた。

• イギリスは、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの地方分権化が進んでおり、各地域において、補助金や中小企業からの公共調達推進、ウェブサイトを通じた情報提供等、独自の様々な中小企業支援策を導入している。

ヤング卿の報告書において創業支援の重要性が示され、それを受けた施策が多数導入された結果、創業支援の施策が充実している。

「ドイツにおける中小企業政策の特徴」

• ドイツの中小企業政策は、「競争政策」と「保護政策」を柱としているところにその特徴がある。

• 競争政策は、市場での自由な競争を保証するには市場での自由な競争の障害となるものを駆除するという政策理念であり、保護政策は、企業規模が小さいことから生まれる競争上のデメリットをなくす政策である。

• また、ドイツにおける中小企業は、大企業を頂点とした系列取引形態を形成する日本とは異なり、自らが研究開発や営業活動を行うという自律的な経済行動をとる傾向があることにもその特徴がある。

• 主要な中小企業政策は資金援助(融資・補助金)、コンサル・情報提供が多いという特徴を有している。

ドイツの中小企業政策は、「競争政策」と「保護政策」を柱としている。競争政策は、市場での自由な競争を保証するには市場での自由な競争の障害となるものを駆除するという政策理念である。
保護政策は、企業規模が小さいことから生まれる競争上のデメリットをなくす政策である。

「日本における中小企業の政策の特徴」

• 1999年の中小企業基本法の改正を契機に、1990年代後半から中小企業を日本経済の基盤・ダイナミズムの源泉として捉え直し、政策が立案・実施されてきたことに特徴を有する。

• 日本の中小企業政策は、総花的な支援であること、相対的に短期的な支援が多いこと、中央政府が政策を主導してきた点にも特徴を確認することができる。

• 近年の日本の中小企業政策は、高齢化や後継者不足を背景に、生産性の高い中小企業の経営資源を次世代の経営者に引き継いでいくことが課題として捉えられている。

少子高齢化者社会の進展、中小企業経営者の事業承継への意識の高まりを背景に、他国と 比べて事業承継に係る政策が手厚く整備されている。




私自身、これまでの中小企業における事業承継問題で学んできた知識として、会計検査等の知識に関してはほぼゼロであり、勉強不足であったこともあり、今回は前半の各国に焦点を当てた違いを重点的に見てきた。

日本の事業承継のみを焦点に当てた論文を読んでいるだけではわかり得なかった新しい発見が様々発見できたことから、海外と比較した論文を今以上に読む事は、私自身の成長にも論文のクオリティーアップにも繋がると感じた。
(日本では事業承継に関わる政策の改善を述べている論文が多数存在するが、日本はそもそも他国と比べて事業承継に係る政策が手厚く整備されているという事実はこの論文を読んで初めて知る事ができた。)

個人的に知識をよりつけた上で、もう一度読み直して深掘りする必要があると感じた研究だった。

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