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164)ザクロの抗老化作用(その1):エラグ酸とウロリチン

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術164

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【ザクロジュースはポリフェノールの宝庫】

ザクロは、小アジア地方(アジア大陸最西部、アナトリア半島)を原産とするザクロ科ザクロ(Punica granatum)の果実で、現在では地中海地方、南西アジア、米国(カリフォルニアやアリゾナ州)など世界中で栽培されています。ザクロには種子が多いので、古代ヨーロッパでは豊穣のシンボルとして、中国では子孫繁栄の象徴として考えられていました。


薬用植物としての利用も古くから行われており、自然の力を凝集した果物(nature’s power fruit)とも呼ばれています。中国には漢代に伝わり、ザクロは石榴(セキリュウ)と呼ばれ、その果皮は石榴皮(セキリュウヒ)と呼ばれて漢方薬にも使われています。日本には平安時代以前に渡来しました。平安朝の頃、ザクロの種子や果汁は有機酸を多く含むため、銅鏡を磨くのに用いられていました。
 
果皮にはタンニンが多く、漢方では駆虫や止瀉(下痢止め)の効能が利用され、細菌性やアメーバ性腸炎の下痢や条虫などの寄生虫の治療に使われています。ザクロの根皮や樹皮も同様の薬効で使用されています。口内炎や扁桃炎、歯痛などに果皮の煎じ液でうがいをする民間療法が行われています。

現在では、循環器疾患や感染症やがんなどでの薬効が注目されて、多くの研究が行われ、サプリメントや健康食品としても多くの製品が販売されています。

このような薬効の多くは、ザクロの皮に多く含まれるエラジタンニン(Ellagitannin)やアントシアニン(Anthocyanin)やアントシアニジン(Anthocyanidin)などのポリフェノールによるものと考えられています。




【エラジタンニンとエラグ酸とウリチロン】

ザクロジュースには1リットルあたり2g以上のエラジタンニンが含まれています。タンニン(tannin)というのは、植物界に広く存在し、多数のフェノール性水酸基をもつ複雑な化合物で、タンパク質やアルカロイドや金属イオンなどと反応して結合して難溶性の塩を形成する物質の総称です。

タンニンの名称は、「革を鞣す(なめす)」という意味の「tan」に由来し、本来は、毛皮を鞣す性質をもった収斂性の植物成分を指し、有史以来、革を鞣すために利用されてきました。「革を鞣す」というのは、革を加工して柔らかくしたり、防水性を与えたりすることを指します。
 
タンニンは多数の水酸基(OH基)を持つことから抗酸化作用があり、様々な健康作用も利用されるようになりました。
 
タンニンにはフラバノール骨格を持つ化合物が重合した「縮合型タンニン」と、没食子酸(gallic acid)やエラグ酸(ellagic acid)などの芳香族化合物とグルコースなどの糖がエステル結合を形成した「加水分解性タンニン」の二つに分類されます。

加水分解性タンニンは酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と多価アルコール(糖など)に加水分解されるもので、多価フェノールには主に没食子酸(gallic acid)とエラグ酸(Ellagic acid)の二つのタイプがあり、それぞれをガロタンニン(gallotannin)、エラジタンニン(ellagitannin)と総称します。


ザクロジュースはこの後者のエラジタンニンが豊富で、小腸でエラグ酸に加水分解されて体内に吸収されます。エラグ酸はザクロの他、クランベリーやラズベリーやイチゴなどにも多く含まれ、抗酸化作用や動脈硬化抑制効果や抗がん作用が注目され、これらの食品の健康成分として認められています。
 
植物はエラグ酸を生成し、エラジタンニンに変換して植物中に存在します。人間がこれらの植物を食べると、消化管内でエラグ酸に分解されて、このエラグ酸が健康作用を発揮するということです。
 
ザクロジュースに含まれるエラジタンニンの主なものがPunicalaginです。ザクロジュースの抗酸化作用の50%はこの物質によると考えられています。


ザクロジュースやその粉末のサプリメントを飲むと、Punicalaginなどのエラジタンニンは小腸で加水分解されエラグ酸になって吸収されます。ザクロジュ-スを飲用して1時間くらいすると血中にエラグ酸が検出されるようになります。

エラグ酸の一部は腸内細菌によって徐々に代謝されてウロリチン(Urolithin AおよびUrolithin B)に変換されて吸収されます。エラグ酸やウロリチンは肝臓の解毒酵素で代謝されて尿中に排泄されます。

エラジタンニン自体は高分子であるため消化管からほとんど吸収されませんが、加水分解されて消化管内で生成するエラグ酸や、エラグ酸が腸内細菌で代謝されて生成されるウロリチンは体内に吸収され、血中で10マイクロM以上の濃度で検出されることが報告されています。組織分布研究では,ウロリチンがマウスの前立腺や結腸組織に豊富に存在することが報告されています。体内に存在するエラグ酸やウロリチンが抗炎症作用や抗がん作用などの薬効を示します。
 
特にウロリチンはオートファジーやサーチュイン遺伝子を活性化し、様々な抗老化作用を発揮することで注目されています。(下図)


図:ザクロジュースにはがプニカラギン(Punicalagin)を主体とするエラジタンニン(Ellagitannin)が豊富で、エラジタンニンは加水分解されてエラグ酸(Ellagic acid)になる。ザクロジュースを飲用すると、プニカラギンが消化管内で加水分解されてエラグ酸(Ellagic acid)になり、エラグ酸は腸内細菌によってウロリチンA(Urolithin A)やウロリチンB(Urolithin B)になる。これらのエラグ酸やウロリチンが消化管から吸収されて体内に入り、様々な薬効を示す。ウラリチンはオートファジーとサーチュイン遺伝子を活性化し、抗老化作用と健康寿命延長の効果を有することが報告されている。


ザクロは果物としては種子が多く果肉が少ないので食べにくいので、そのまま食べる果物としては人気がありません。しかも、エラジタンニンは果皮に多いので、果実を丸ごとジュースにした「ザクロジュース」がザクロの健康作用を利用するには最も適しています。一般に市販されているザクロジュースの抗酸化力は赤ワインや緑茶の数倍と言われています。つまり、ザクロを健康増進や抗老化や病気の予防に利用するときには、果物そのものを食べるよりも、果皮を一緒にしぼったジュースにして摂取する方が最も有効です。
 
ザクロジュースにはエラジタンニンの他にもデルフィニジン(Delphinidin)などのアントシアニジン(anthocyanidin) も豊富に含まれます。これらのポリフェノール類によるザクロジュースの抗酸化作用やがん予防効果や抗動脈硬化作用が注目されている。




【ザクロジュースの抗がん作用】

培養細胞を使った実験では、乳がん、前立腺がん、大腸がん、肺がんの細胞の増殖を阻害する作用が報告されています。

動物実験では、ザクロエキスを経口投与して、肺がん、皮膚がん、大腸がん、前立腺がんの増殖を抑制する効果が報告されています。前立腺がんに関しては、ザクロジュースを飲用するとウロリチンが前立腺組織に集まり、前立腺がんの増殖を抑えることが動物実験で示されています。
 
さらに、臨床試験では、ザクロジュースが前立腺がんの進行を抑制する(PSAの倍加時間を延長する)結果が報告されています。前立腺がんの多くは進行が非常に遅く、長く症状が現れない場合も少なくないため、特に高齢者の前立腺がんの場合は、治療をせずに経過を見るだけの場合も多くありますが、そのような場合、ザクロジュースの飲用は役立つと思われます。
 
また、ウロリチンはエストロゲンを産生するアロマターゼの活性を阻害する作用があり、乳がんの発生や再発の予防に有効という報告もあります。その他、血管新生阻害作用や細胞周期に作用する効果、がん性悪液質を改善する効果などの様々な抗がん作用が報告されています。




【ウロリチンの抗老化作用が注目されている】

前述のように、ウロリチンはザクロ、ベリー、ナッツなどの食品に豊富に含まれる複合ポリフェノールであるエラジタンニンやエラグ酸を摂取して腸内細菌によって生成される天然化合物です。ウロリチンは 40 年ほど前に発見されましたが、老化や病気に対するその影響が研究されたのはつい最近のことです。多くの研究によりウロリチンの若返り効果が注目されています。以下のような抗老化作用が報告されています。
 
1)オートファジーの活性化:
オートファジーとは細胞の自食作用のことです。細胞内の構成物や有害物質を分解し、新しい細胞にリサイクルすることで、細胞の恒常性を維持し、細胞を若い状態に保つ働きがあります。
 
2)サーチュイン遺伝子の活性化:
サーチュイン遺伝子は細胞を若々しく保つ働きがあり、健康寿命を延ばします。細胞の再活性化によって若々しさを取り戻しやすくなるため、アンチエイジングや再生医療の領域で注目されている遺伝子です。
 
3)運動機能の向上:
ウロリチンが筋肉の機能を強化し、筋肉の成長を促進する可能性があることが示唆されています。筋肉タンパク質の合成に関与する分子経路を活性化し、筋持久力を向上させる可能性があり、身体パフォーマンスの向上を目指すアスリートや個人にとって潜在的に有益となる可能性があります。
加齢性筋ジストロフィーの 2 つの異なるモデルにおいて運動能力を向上させることが報告されています。

4)脳機能の向上:
ウロリチンが脳の健康にも役立つ可能性があることが示唆されています。細胞のオートファジーを強化し、炎症を軽減し、酸化ストレスから保護することにより、認知機能と記憶保持に貢献する可能性があります。
 
5)抗炎症作用:
ウロリチンには抗炎症作用があり、体内の炎症を軽減するのに役立ちます。
慢性炎症は、関節炎から心臓病に至るまで、多くの健康上の問題の根源です。ウロリチンの抗炎症作用は、このリスクを軽減するのに役立ちます。炎症を軽減することで関節の健康をサポートする効果もあります。
 
その他、様々な健康作用が明らかになっています。(下図)


図:ウロリチンは様々な組織・臓器を保護する作用があり、抗老化作用や健康寿命を延長する効果がある。


エラグ酸を多く摂取しても、体質によってはウロリチンを合成できない場合があります。それは腸内細菌叢の構成には個人差があるからです。約50%の人が腸管でウロリチンを合成できないことが報告されています。つまり、エラグ酸をウロリチンに変換できる腸内細菌を持っていない場合は、ザクロやいちごを積極的に食べても、ウロリチンを合成できないため、残念ながら若返り効果は得られません。

そこで、ウロリチンそのものをサプリメントで摂取する方が確実と言えます。ウロリチンのサプリメントは多数販売されています。

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