見出し画像

101)クランベリーは大腸粘膜バリアを強化する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術101

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【食物繊維とファイトケミカルの健康作用が注目されている】

糖質、脂質、タンパク質を3大栄養素といい、ビタミンとミネラルを加えて5大栄養素と言います。食物繊維は第6の栄養素、植物に含まれるファイトケミカルが第7の栄養素と言われています。
 
5大栄養素(糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル)は生体が正常に働くために必要な栄養素です。糖質と脂質とタンパク質は細胞を構成する成分を作り、細胞を動かすエネルギーの産生に必要です。
 
エネルギー産生や物質の代謝には酵素というタンパク質の働きが必要ですが、多くの酵素はビタミンやミネラルを利用しています。ビタミンとミネラルは、酵素などのタンパク質の働きを助け、細胞を正常に動かす潤滑油のような働きをします。

ミネラルは骨格や歯や血液を作る材料としても必要です。ビタミンとミネラルが不足すると体の機能に異常を生じます。ビタミンもミネラルも体内で作れないので、食事から摂取する必要があります。
 
食物繊維は、ヒトの消化酵素によって消化されない食物中の難消化性成分の総称です。多くは植物の細胞壁を構成する成分で、化学的には多糖類(糖が多数つながったもの)です。消化吸収されないため、従来は栄養的に不要なものと考えられていましたが、最近は多くの生理作用が明らかになり、栄養素の一つとして認識されています。
 
ファイトケミカル(phytochemical)は植物に含まれる化学成分です。「ファイト(phyto)」は植物、「ケミカル(chemical)」は化学成分という意味です。ファイトケミカルは体の機能に必須では無いのですが、健康に良い影響を与える植物由来の成分です。ポリフェノール類(フラボノイド、カテキンなど)、カロテノイド(βカロテン、ルテインなど)、イソチオシアネート類(スルフォラファンなど)など数多くの成分が知られています。
 
野菜や豆類や果物や海藻類のような植物性食品が体の健康に役立つのは、糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルという5大栄養素を供給するのに加えて、健康維持に役立つ食物繊維とフィトケミカルを供給するからです。
 
食物繊維やファイトケミカルのサプリメントが数多く販売されていますが、成分を精製したサプリメントより、植物性食品から食物繊維とファイトケミカルを摂取する方がメリットがあります。それは5大栄養素(糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル)を一緒に摂取できるからです。


水溶性食物繊維は腸内細菌によって分解され、乳酸や短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を作って、腸内環境を良くします。その結果、抗老化やがん予防などの健康作用を発揮します。(下図)


図:腸内の悪玉菌(腐敗菌)は腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて有害物質を作り(①)、体の治癒力を低下し、発がんを促進する(②)。オクラや海藻類などに多く含まれる水溶性食物繊維(③)は、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸菌によって発酵され、短鎖脂肪酸(⑤)や乳酸(⑥)を作る。短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)のうちの酪酸は遺伝子発現に作用して、がん細胞の分化誘導と細胞死誘導、細胞増殖抑制、抗炎症作用などの抗がん作用や抗老化作用を発揮する(⑦)。乳酸は腸内pHを低下させて悪玉菌(腐敗菌)の増殖を抑制する(⑧)。
 
 
フラボノイドやカテキンなどのファイトケミカルは、主に抗酸化作用、抗炎症作用、シグナル伝達系への作用などが研究されています。しかし、最近は腸内細菌への作用が注目されています。
 
その理由の一つは、ファイトケミカルの多くは消化管からの吸収率が低く、生体利用率(バイオアベイラビリティ)が極めて悪いので、生体内での作用に疑問も多く指摘されています。しかし、消化管粘膜から体内への吸収が悪いことは、腸内細菌叢へ長期間かつ高濃度で作用する可能性があり、腸内細菌叢への作用がファイトケミカルの健康作用のメカニズムとして検討されるようになったのです。



【善玉菌を増やすプロバイオティクスとプレバイオティクス】

腸内細菌とは、腸の中に棲み、様々な働きをしている菌のことです。腸内細菌はビタミンやミネラル、タンパク質などを合成しながら、腸の活動を調整し、人間の生命維持活動に役立っています。
 
その腸内細菌の中で、人間の健康にとってよい働きをするものを善玉菌(有益菌)、悪い働きをするものを悪玉菌(有害菌)と呼んでいます。
 
善玉菌の代表はアシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)やビフィズス菌(Bifidobacterium bifidum)です。これらは乳酸桿菌属(Lactobacillus)の細菌で、乳酸を作る腸内細菌です。
 
反対に悪玉菌の代表と言えばウェルシュ菌やクロストリジウム菌などの腐敗菌です。腐敗菌は便秘や下痢の原因になり、タンパク質を分解して発がん物質を作ったり、老化を早めたりすると言われています。
 
腸内細菌は、腸管内の物質代謝を通して人の発がんに重要な影響を及ぼします。ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生します。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、また発がん物質の産生を抑制し、免疫力増強作用なども有しているため、大腸がんのみならず種々のがんの予防に有効であることが知られています。(下図)


図:ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生する。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、免疫力増強作用なども有している。乳酸菌製品(プロバイオティクス)や乳酸菌の成長を促進するプレバイオティクス(フルクトオリゴ糖など)は腸内環境を良くして、様々な健康作用を発揮する。
 
 
 
問題は善玉菌が減ると悪玉菌が増えてしまうことです。生後1週間の乳児の腸内は90%以上ビフィズス菌で占められていますが、離乳期を過ぎると10%前後に減り、老人になると1%以下に減少し、その代りに悪玉菌が増加してきます。腸内細菌を善玉菌優位の状態に保つことは老化やがんの予防に有効と考えられています。体を若く保つ上でも、腸内環境を良くすることは大切です。
 
腸内に善玉菌を根付かせ増やすためには、プロバイオティクスおよびプレバイオティクスの利用が有用です。
 
プロバイオティクス(probiotics)は「生命に有益な物質」という意味ですが、健康に有益な効果をもたらす腸内細菌(いわゆる善玉菌)を指します。「腸内フローラの善玉菌と悪玉菌のバランスを改善して動物に有益な効果をもたらす生菌添加物」のことで、乳酸菌が代表です。乳酸菌はビフィズス菌やアシドフィルス菌、ラクトバチルス、ブルガリア菌など乳酸を産生する腸内細菌です。
 
フルクトオリゴ糖など善玉菌の増殖を促進する物質のことをプレバイオティクス(prebiotics)と呼びます。「健康上の利益をもたらす宿主微生物(善玉菌)によって選択的に利用される物質」です。腸内の善玉菌に働いて、増殖を促進したり、善玉菌の活性を高めることによって健康に有利に作用する物質のことです。


フルクトオリゴ糖は短鎖糖質で、3~10個の糖分子から構成されており、最低その2つはフルクトースです。人間はフルクトオリゴ糖を消化できませんが、ビフィズス菌と乳酸菌は成長と増殖のためにフルクトオリゴ糖を優先的に利用します。対照的に有害細菌はこれらの短鎖糖質を利用できません。
イヌリンを豊富に含む食事は、ビフィズス菌とバクテロイデスの増殖を刺激しました。 全粒穀物は細菌プロファイルを変更して、ビフィズス菌と乳酸桿菌の相対量を増加させる可能性があります。
 
このようなプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせると、効果的な腸内環境の改善ができます。プロバイオティクスとプレバイオティクスとを合わせたものをシンバイオティクス(synbiotics)と呼んでいます。
乳酸菌で発酵させた食品(ヨーグルトなど)は、世界中の多くの人びとに利用されています。ヒトと乳酸菌の共生関係は、栄養上も治療の上でも重要な利益があり、長い歴史があります。
 
常在細菌叢の一部として、乳酸菌は栄養素を求めて他の微生物と競合的に働き、pHおよび酸素濃度を病原微生物(悪玉菌)にとって好ましくない値に変更し、物理的に付着部位を覆うことによって病原体の侵入を予防したり、悪玉菌の増殖を抑える様々な因子を産生することによって、人間の健康に維持・増進に役立っています。

ビフィズス菌は取り続けないと年令とともに減少し、せっかく増えたビフィズス菌も、ヨーグルトを食べるのをやめれば1週間で元の状態に戻ってしまうといわれています。したがって、腸内細菌の善玉菌を増やすには、ヨーグルトなどの乳酸菌飲料を毎日飲み続けることが大切です。毎日10~100億個の生きたアシドフィルス菌あるいはビフィズス菌の摂取が適当と言われています。


さらに、ビフィズス菌の餌となるオリゴ糖や食物繊維を一緒にとるとより効果的です。オリゴ糖を使ったシロップや清涼飲料水等がたくさん発売されており、ビフィズス菌にオリゴ糖などを添加した健康食品も販売されています。
 
プロバイオティクスおよびプレバイオティクスは安全で、多く摂取しても胃腸ガスの一時的な増加以外に副作用は伴わないので、日頃から摂取が勧められるサプリメントです。



【腸管上皮細胞は粘液を産生して細菌の侵入を防ぐバリアを作っている】

前述の乳酸や酪酸を産生する善玉菌に加えて、腸粘膜のバリアを構成する粘液の産生を増やす腸内細菌の健康作用が注目されています。大腸粘膜から粘液の産生を刺激して粘膜バリアを強化すると、病原菌の侵入を防ぐことができます。

大腸内には多くの微生物(腸内細菌)が棲みついています。一般に、500種類から1000種類、約100兆個の微生物が存在すると言われています。これらの腸内微生物は、腸内に常在しているだけでなく、食物繊維の分解によって産生される短鎖脂肪酸や、葉酸、ビタミンK、ビタミンB類などのビタミンを宿主に提供し、健康維持に大きく貢献しています。
 
しかし、こういった有益な腸内細菌も、体内に侵入すれば免疫システムによって外敵とみなされ排除されます。そのため腸内微生物と宿主の両者を空間的に分け隔てるメカニズムが必要であり、それを可能にするのが腸管上皮細胞によって構築される「粘膜バリア」です。

粘膜バリアは物理的バリアと化学的バリアの二つに大別されます。物理的バリアは物理的な壁となって微生物の侵入を防止するバリアであり、上皮層を被覆する粘液層、上皮細胞表面に存在する糖鎖の集合体である糖衣、細胞間接着装置である密着結合などがあります。
 
粘液層は腸管上皮細胞の一つである杯細胞から産生される糖タンパク質のムチンによって構成され、腸管上皮を覆うことで物理的に腸管組織への細菌侵入を防止しています。

化学的バリアは、抗菌活性を発揮することで細菌侵入を抑制する分子群です。ディフェンシンファミリー分子やReg3ファミリー分子などが含まれ,それらの分子は主として腸管上皮細胞の一つであるパネート(Paneth)細胞から産生されます。


図:腸管腔には多数の腸内細菌が棲みついている(①)。杯細胞(②)から粘液が産生され、粘液層が形成される(③)。パネート細胞(④)からは様々な抗菌物質(⑤)が産生されている。粘膜上皮細胞の間には細胞間接着装置(⑥)があって、上皮間からの細菌の侵入を防いでいる。これらが腸内微生物の体内への侵入を防ぐ粘膜バリアを構築している。



【粘液の主成分のムチンは粘膜の杯細胞から分泌される】

粘液(mucus)とは、生物が産生し体内外に分泌する粘性の高い液体です。一般的にはムチンと総称される糖タンパク質と、糖類、無機塩類などから構成されます。

消化管や気管支の内壁などは表面が常時粘液に被われており、それらを粘膜(mucous membrane)と呼んでいます。粘膜や腺から分泌された濃い粘性の流体が粘液です。
 
消化管や呼吸器や泌尿生殖器などの粘膜上皮にはムチン(mucins)を産生する細胞が存在します。ムチンを含んだ大型で明るく染まる顆粒を細胞体上部に多数充たすため、そこが膨隆し西洋杯(ゴブレット)に似ることから杯細胞(goblet cells)と言われます。

杯細胞はムチン分泌性の単細胞腺で、腸絨毛においては吸収上皮細胞間に、気道粘膜においては多列絨毛上皮間に散在しています。


図:腸粘膜の粘膜上皮細胞には、栄養素を吸収する絨毛上皮細胞(①)の間に粘液の主成分のムチンを産生・分泌する杯細胞(②)が存在する。右の2つの写真は、ムチンを紫に特殊染色した腸粘膜の組織像で、ムチンを産生する杯細胞が絨毛上皮細胞間に多数散在することが分かる。
 
 
 
粘液は粘膜上皮の表面を滑らかにし、有害な粒子や外部環境から表面を保護します。呼吸器系では杯細胞は気管、気管支、細気管支に存在します。粘液はほこりやアレルゲンなどの異物や、細菌などの潜在的な病原体を捕捉し、それらによる肺組織の損傷を防ぎます。

消化器系においては、粘液は粘膜上皮の表面を潤滑にして食物の移動をスムーズにするために胃腸管全体で重要です。酸性環境から胃の内層を保護します。腸粘膜では腸管上皮を覆うことで物理的に腸管組織への細菌侵入を防止しています。



【粘液が少なくなると粘膜のバリア機能が低下する】

消化管粘膜の粘液層は腸管上皮を覆うことで物理的に腸管組織への細菌侵入を防止しています。大腸では、腸内微生物叢の異常によって腸粘膜バリアのダメージと炎症が起こります。
 
消化管粘膜上皮層は、粘膜バリアの重要な構成要素です。健康な人では、上皮細胞間の密着結合(タイト・ジャンクション:tight junctions)が腸上皮の透過性を維持する上で極めて重要な役割を果たしています。
 
この上皮細胞間のタイト・ジャンクションが、消化管内に有害物質を隔離しながら栄養素の吸収を可能にしています。
 
さらに、腸上皮を覆う粘液層も粘膜バリア機能に寄与しています。この層は、糖タンパク質、ムチン、免疫グロブリン、および酪酸で構成されています。
 
たとえば、ムチン三量体は上皮細胞を内腔毒素から保護するバイオフィルムを構築しています。分泌型IgAは粘液層の毒素や病原体を中和できる非常に重要な抗体です。健康な腸内では、ラクトバチルスや連鎖球菌などのいくつかの有益な細菌が分泌型IgAの生合成を促進することが報告されています。
 
食物繊維の発酵によって産生される酪酸は、ムチン2(MUC2)遺伝子の発現を誘導することによってムチン合成を促進します。さらに、酪酸は腸上皮細胞から放出される抗菌ペプチドであるカテリシジン(cathelicidin)の分泌を促進することができます。

したがって、酪酸産生細菌は、健康な腸内の粘液の生理的組成を維持する上で重要な役割を果たしており、これらのプロセスにより、腸のバリアが十分に維持され、消化管内の病原体に対する宿主の防御が向上します。
 
しかし、食物繊維の摂取不足、抗生物質の使用、化学療法や放射線療法によって腸内微生物叢に異常が生じると、悪玉菌が増え、粘液層が破壊され、腸上皮の透過性が高まります。さらに、粘膜炎が発生し、バリア機能の低下によって病原菌が体内に侵入して敗血症を引きおこします。


図:正常な大腸粘膜では粘液層(①)が厚く、善玉菌(②)が多く、分泌型IgAや酪酸の量が多い(③)。食物繊維の摂取不足や抗生物質使用、抗がん剤や放射線照射(④)は腸内細菌叢の変化を起こして悪玉菌が増える(⑤)。粘液層が破壊され(⑥)、腸管内の病原菌が体内に侵入し(⑦)、粘膜炎や敗血症や全身感染症を引き起こす(⑧)。



【腸内細菌のAkkermansia muciniphilaは大腸粘膜の粘液産生を増やす】

Akkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)はVerrucomicrobia門に属するグラム陰性の偏性嫌気性細菌です。2004年に健康なヒトの糞便から分離されました。属名のAkkermansiaは、オランダの著名な微生物学者Antoon Akkermansに由来します。腸管細胞から分泌されるムチン(糖タンパク質)を唯一の炭素・窒素源として利用するユニークな特徴を持ちます。muciniphila は「ムチンを好む(mucin-loving)」という意味です。

アッカーマンシア・ムシニフィラはヒト、マウス、チンパンジー、馬、豚などの動物の腸管に存在することが確認されています。特に結腸に多く、健康な成人では腸内細菌叢全体の0.5〜5%を占めます。生後1カ月の乳児糞便から検出されはじめ、高齢者では量が減ることが知られています。

アッカーマンシア・ムシニフィラはムチンに含まれるN-アセチルガラクトサミンやN-アセチルグルコサミン、スレオニンを重要な栄養成分とし、ムチン分解に関与する糖鎖加水分解酵素を持ち、ムチンをエネルギー源として、主にプロピオン酸や酢酸を生産します。粘液を分解することによって大腸粘膜上皮から粘液産生を刺激し、粘液を増やす作用があります。

アッカーマンシア・ムシニフィラの腸内存在量は、正常人と比較して、肥満の人や2型糖尿病の患者では少なく、アッカーマンシア・ムシニフィラのマウスへの投与試験やヒト試験では、肥満や2型糖尿病に対する改善効果が示され、次世代プロバイオティクスとして注目されています。

肥満・糖尿病の原因の1つとして、高脂肪食摂取による腸管バリア機能低下が引き起こす慢性炎症が挙げられていますが、アッカーマンシア・ムシニフィラの外膜タンパク質(Amuc_1100)がトル様受容体-2(TLR-2)を介して腸管バリア機能を強化し、炎症を改善することが報告されています。
 
さらに、アッカーマンシア・ムシニフィラの分泌する細胞外小胞体が、高脂肪食を投与したマウスの腸管バリア機能の強化や体重の減少に関与することも報告されており、アッカーマンシア・ムシニフィラの抗肥満・抗2型糖尿病の作用機構が分子レベルで明らかになってきています。



【ファイトケミカルは腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす】

前述のように、プロバイオティクスとしてのアッカーマンシア・ムシニフィラの投与は、粘液産生を増加させ、粘液層の厚さと腸のバリア(障壁)を改善することが示されています。さらに、肥満や2型糖尿病やメタボリック症候群を改善することが明らかになっています。

ファイトケミカル(クランベリーのポリフェノール類)がアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことが報告されています。以下のような報告があります。

A polyphenol-rich cranberry extract protects from diet-induced obesity, insulin resistance and intestinal inflammation in association with increased Akkermansia spp. population in the gut microbiota of mice.(ポリフェノールが豊富なクランベリー抽出物は、マウスの腸内微生物叢におけるアッカーマンシア種の増加に関連して、食事による肥満、インスリン抵抗性、腸の炎症から保護する)Gut. 2015 Jun;64(6):872-83.

この論文では、高脂肪/高砂糖食を与えられたマウスに対するクランベリー抽出物の代謝と腸内微生物叢への影響を検討しています。

マウスに固形飼料または高脂肪/高砂糖食餌を与えました。高脂肪/高砂糖食を与えられたマウスに、水またはクランベリー抽出物(200 mg/kg) を 8 週間毎日強制経口投与しました。

クランベリー抽出物投与は、高脂肪/高砂糖食餌による体重と内臓脂肪の増加を抑制しました。クランベリー抽出物治療は、肝臓における酸化ストレスと炎症を抑制し、肝臓の重量とトリグリセリドの蓄積も減少させ、インスリン抵抗性を改善しました。
 
興味深いことに、クランベリー抽出物投与により、腸内微生物叢中のムチン分解細菌 アッカーマンシアの割合が著しく増加しました。

クランベリー抽出物は、高脂肪/高砂糖食によって引き起こされるメタボリック症候群の病状を改善しますが、この効果は腸内微生物叢中のムチン分解細菌 アッカーマンシアの増加との関連が示唆されました。
 
 
クランベリー(cranberry)は北アメリカ原産のツツジ科の小果樹です。果実は大豆粒大の球形の液果で、美しい赤色を呈します。甘味は乏しいが風味はよく、ソースやゼリー・パイなどに用いられます。ドライフルーツとしても販売されています。
 
プロアントシアニジンなどのポリフェノールが豊富に含まれています。クランベリーからのポリフェノールが豊富な抽出物が、アッカーマンシアに対するプレバイオティック効果を通じて肥満や2型糖尿病やメタボリックシンドロームを改善するという報告です。
 
クランベリーに限らず、ポリフェノールなどのファイトケミカルの多い食品はプレバイオティクスとして作用し、アッカーマンシア・ムシニフィラを増やし、大腸粘膜の粘液を増やし、粘膜バリアを強化し、肥満や2型糖尿病やメタボリックシンドロームを改善するということです。

水溶性食物繊維の多い野菜や海藻と、ポリフェノールのクランベリーを日頃から多く摂取すると、腸内環境を良くすることができます。(下図)


図:オクラや海藻類やサプリメント(イヌリン、ペクチン)に含まれる水溶性食物繊維(①)は、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸菌によって発酵され、乳酸(②)や短鎖脂肪酸(③)を作る。乳酸は腸内pHを低下させて悪玉菌(腐敗菌)の増殖を抑制する(④)。短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)は抗老化作用や抗がん作用を発揮する(⑤)。ヨーグルト(⑥)は乳酸菌とビフィズス菌を供給し、宮入菌製剤のミヤBMは酪酸菌を供給する(⑦)。ポリフェノール類を豊富に含むクランベリー(⑧)はムチン分解菌のアッカーマンシア・ムシニフィラを増やし、粘液産生を刺激し、粘膜バリアを強化し、病原菌の侵入を防ぎ、体内の炎症を予防する(⑨)。水溶性食物繊維とファイトケミカルとヨーグルトと酪酸菌製剤を組み合わせたシンバイオティクスで腸内の乳酸と短鎖脂肪酸(特に酪酸)と粘液を増やすと、体の治癒力を高め、寿命を延ばし、健康寿命を延ばす効果が期待できる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?