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152)トコトリエノールは肥満を予防する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術152

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【ビタミンEには8種類の異性体がある】

ビタミンE(vitamin E)は脂溶性ビタミンの1種で、1922年に米国のハーバート・エバンス(Herbert M. Evans)とキャサリン・ビショップ(Katharine S. Bishop)によって発見されました。
ハーバート・エバンスはカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の教授で、栄養学、内分泌学、発生学、組織学などが専門で、下垂体から成長ホルモンを抽出・分離したことでも知られます。(The isolation of pituitary growth hormone, Science 99 : 183, 1944.)

ラットを使った実験で、ラットの不妊の原因となる食事性因子として1922年にキャサリン・ビショップとともにビタミンEを発見しています。つまり、ビタミンEが不足すると不妊になることが判明し、人間の生殖においてビタミンEが必要であることを発見しています。
 
ビタミンEの別名はトコフェロール(Tocopherol)と言いますが、ギリシャ語でTocos=child birth(出産)、pheros= to bear(支える)、ol=alcohol(アルコール)を組み合わせた用語です。つまり、トコフェロールは「胎児の出産に必要なアルコール様物質」という意味です。

ビタミンEの中ではα-トコフェロールが最も多く、ビタミンEの研究はα-トコフェロールが主な対象になっていました。しかし、ビタミンEは8種類の異性体から構成されています。

すなわちアルファ (α)、 ベータ(β)、ガンマ (γ)、 デルタ (δ)-tocopherols (トコフェロール)と α、 β、γ、δ-tocotrienols (トコトリエノール:T3)の8種類で、これらは全てビタミンE(vitamin E)になります。

ビタミンEはクロマン(Chromane)またはベンゾジヒドロピラン(benzodihydropyran)という分子式C9H10Oの環式化合物に炭素数16個の側鎖が付くという構造です。
 
クロマンにつくメチル基(CH3)の位置によってアルファ (α)、 ベータ (β)、ガンマ (γ)、 デルタ (δ)に分けられます。
 
クロマン構造にそれぞれ炭素数16個からなる側鎖が付いています。トコフェロールは二重結合の無い飽和した側鎖です。フィチル(Phytyl)基という脂肪族側鎖です。
 
一方、トコトリエノールは3個の二重結合をもつ側鎖で、この構造はファルネシル(Farnesyl)基というイソプレノイドになっています。(下図)


図:ビタミンEはトコフェロールとトコトリエノールの2種類があり、クロマン(Chromane)というの分子式C9H10Oの環式化合物に炭素数16個の側鎖が付くという構造を持つ。クロマンにつくメチル基(CH3)の位置によってアルファ (α)、 ベータ (β)、ガンマ (γ)、 デルタ (δ)に分けられる。トコフェロールは二重結合の無い飽和した側鎖で、トコトリエノールは3個の二重結合をもつ側鎖で、この構造はイソプレノイドになっている。
 
 

イソプレノイド(isoprenoid)というのは、C5単位の「イソプレン」が複数個結合してできた天然有機化合物群です。「イソプレン」と呼ばれる構造は炭素5個と水素8個(C5H8)でできています。このイソプレン構造が鎖状や環状に結合して、低分子の精油成分(炭素10個のモノテルペン類、炭素15個のセスキテルペン類など)や、高分子のコレステロールやカロテノイドやユビキノンなどが作られます。

基本単位のイソプレンは、メバロン酸経路のイソペンテニル二リン酸が生合成前駆体です(下図)。つまり、植物に含まれるテルペノイドやステロイドはほとんどメバロン酸経路由来です。


図:植物や動物で合成されるイソプレノイドはメバロン酸経路で合成されるイソペンテニル・ピロリン酸由来のイソプレン構造が集まって合成される。
 
 

イソプレノイドはメバロン酸経路で作られ、このようなイソプレノイドの中に、3-ヒドロキシ-3−メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素の合成を阻害したり、分解を促進して、メバロン酸経路を抑制する化合物が知られています。メバロン酸経路の阻害剤はコレステロール低下作用や抗がん作用があります。

ビタミンEの中でも、トコトリエノールは総コレステロール値とLDL コレステロール値を低下させることが示されています。この作用はトコフェロールにはありません。
トコトリエノールがコレステロール値を低下させるメカニズムとして、トコトリエノールのイソプレノイド部分(ファルネシル基)が、コレステロール合成に必要なHMG-CoA還元酵素の量を減らす作用が明らかになっています。

 
すなわち、トコトリエノールはイソプレノイド構造を持つ点でトコフェロールと異なる薬効を示すことになります。

ビタミンEが発見されたのは1922年ですが、ビタミンEの研究はほとんどαトコフェロールを対象に行われました。天然のビタミンEの多くはαトコフェロールだったからです。
トコトリエノールに関しては1990年以前はほとんど研究報告はありません。
 
1980年代終わりから1990年代に、トコトリエノールのコレステロール低下作用と抗がん作用が報告され始めます。その後の研究で、トコトリエノールの多彩な健康作用が明らかになり、今ではスーパービタミンEと言われるほど注目されています。


トコトリエノールは強力な神経細胞保護作用、抗酸化作用、抗がん作用、コレステロール低下作用が示されています。抗酸化作用はトコフェロールの数十倍と言われています。これらの作用は老化性疾患の発症予防に効果が期待できます。
 
コレステロール合成のメバロン酸経路の律速酵素の3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMG-C0A還元酵素)の活性を抑制する作用もあります。
 
不飽和結合(二重結合)を持つ側鎖は飽和脂肪酸の多い細胞膜を通過しやすいので、肝臓や神経細胞に取り込まれやすいと言われています。
 
トコトリエノールの消化管からの吸収には胆汁酸が必要で、カイロミクロンに取り込まれて、リンパ管から吸収されます。



【トコトリエノールはダイエットや美容にも効果がある】

トコトリエノールは、肥満予防の効果が確認されています。芝浦工業大学の研究では、トコトリエノールが高脂肪食を与えられたマウスの体重増加を抑制する効果があることが示されました。

この研究では、高脂肪食と高脂肪食にトコトリエノールを混ぜた飼料をマウスに与え、実験を行いました。13週間にわたり、高脂肪食をマウスに与えたところ、マウスの体重は著しく増加しました。一方、高脂肪食とトコトリエノールを与えたマウスでは、体重増加が抑制されていました。  

さらに、トコトリエノールが腎臓周辺の白色脂肪組織の蓄積を低下させ、高脂肪食による肝臓のダメージを抑制できることがわかりました。

加えて、トコトリエノールには、血中の善玉コレステロール(HDL)の濃度に影響を与えることなく、悪玉コレステロール(LDL)の濃度を低下させる効果もありました。
トコトリエノールに脂肪燃焼を促進する効果が示唆されています。


図:マウスを高脂肪食で飼育すると体重が増えて肥満になる。高脂肪食にトコトリエノールを一緒に食べさせると体重増加は抑制される。
 
 

トコトリエノールには抗酸化作用や抗炎症作用のほか、神経細胞をダメージから保護し、認知症などの神経変性疾患を予防する効果も報告されています。トコトリエノールにはトコフェロールが有さない様々な薬効(抗炎症作用、抗がん作用、コレステロール低下作用、神経細胞保護作用、放射線保護作用など)を持つことから、近年多くの注目を集めています。
 
トコトリエノールが筋肉の再生を促進する効果は第24話で紹介しています。トコトリエノールには、寿命を延ばす効果、脳機能を活性化して認知機能を高める効果、運動の持久力を高める効果など多くの健康作用が報告されています。老化予防のサプリメントとしてトコトリエノールを摂取する価値は高いようです。
 
ベニニキ(Annatoo tree)の種子に含まれるベニノキ種子油は、トコフェロールをほとんど含有せず、デルタ(δ)トコトリエノールを90%、ガンマ(γ)トコトリエノールを10%含みます。
 
また、トコトリエノールは消化管からの吸収が悪いのですが、ガンマ・シクロデキストリンで包接すると消化管からの吸収を良くできます。そのような製品が通販などで販売されています。


図:ベニノキ種子抽出油に含まれるビタミンEはほとんどがトコトリエノール(T3)で、その内90%がδT3、10%がγT3。また、T3の効果阻害作用が報告されているαトコフェロールをほとんど含んでいない。


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