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165)ザクロの抗老化作用(その2):種子油のプニカ酸

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術165

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【脂肪(油脂)はグリセリンと脂肪酸が結合している】

私たちは食物から様々な種類の「あぶら」を摂取しています。一般に、常温で液体のあぶらを油(oil)、固体のあぶらを脂(fat)と表記し、両方を総称して油脂と言います。
 
油という字に「さんずい(三水)」がついているのは液体であることを意味し、ほとんどの植物性油や魚油は常温で液体であり、油になります。
一方、多くの陸上動物(牛脂、豚脂、人間の脂肪など)と熱帯植物(ヤシ油、パーム油、ココアバターなど)のあぶらは常温で個体の脂です。
 
油脂は3価のアルコールであるグリセロール(グリセリンとも言う)1分子に3分子の脂肪酸が結合した構造をしています。グリセロールには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になります。
一般的には脂肪酸が3個ずつ結合してトリグリセリド(中性脂肪)と呼ばれます。グリセロールは全て共通するため、脂肪の種類による性状の違いは、脂肪酸の形態に依存します。(下図)


図:脂肪(油脂)は3価のアルコールであるグリセロール1分子に3分子の脂肪酸が結合した構造をしている。グリセロールには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になる。 R1,R2,R3と示す脂肪酸は1 個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖 (炭化水素鎖)からなる。脂肪酸の鎖(R1,R2,R3)の構造の違いによって油脂の性状が違ってくる。


脂肪酸は1 個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖(炭化水素鎖)からなり、その鎖の両末端はメチル基(CH3)とカルボキシル基(COOH)で、基本的な化学構造はCH3CH2CH2・・・CH2COOHと表わされます。
 
脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しています。一方、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に1個ないし数個の二重結合(C=C)が含まれます。炭化水素(CH2)が連結した鎖の長さや二重結合の位置や数の違いによって、脂肪酸の性質が変わってきます。



【不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がる】

飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和していますが、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に 1 個ないし数個の二重結合が含まれます。
炭素原子は、他の原子と結合できる手を4本持っています。炭素-炭素二重結合とは、2つの炭素原子どうしが互いに2本の手でつながっている状態のことをいい、「C=C」で表記します。1本の手で繋がっている場合を単結合と言います。


二重結合の部分で脂肪酸の構造が変化します。飽和脂肪酸はまっすぐな構造をしていますが、炭素間に二重結合がある不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がっています。
 
脂肪酸が二重結合の所で曲がる時に、「シス型」と「トランス型」という2種類の構造を取ります。シス(cis)は「同じ側」「近い方」、トランス(trans)は「反対側」「遠い方」というような意味の接頭辞です。(下図)


図:脂肪酸の炭素間の二重結合(C=C)の部分では「シス型」と「トランス型」という2種類の構造を取る。シス(cis)は「同じ側」、トランス(trans)は「反対側」という意味の接頭辞で、二重結合の所でシス型は水素が同じ側に並び、トランス型は反対側に並ぶ。シス型の2重結合のところで炭化水素の鎖は大きく曲がる。リノール酸はCOOHから9番目と12番目の炭素の部分で二重結合が存在し、この2つは両方ともシス型を示す。共役リノール酸の一種(9c,11t-C18:2)では、9番目の炭素の二重結合はシス型で、11番目の炭素の二重結合はトランス型を示す。


シス型は二つの水素原子が二重結合の同じ側面側に存在する脂肪酸です。自然界に存在する脂肪酸のほとんどはシス型二重結合の分子構造を持っています。炭化水素鎖がシス型二重結合の部分で大きく曲がり、脂肪酸分子間の結合が弱くなり、より融点が低くなるため、室温では液体となります。
トランス型二重結合では、二つの水素原子が二重結合の反対側に存在し、比較的安定した構造になり、シス型の異性体よりも融点は高くなります。
炭素数と二重結合の数が同じでも、二重結合の位置と立体構造(シス型とトランス型)の違いによって立体的な構造や大きさに違いが生じるので、脂肪酸の性状が異なります。



【共役リノール酸は発がん予防物質として発見された】

リノール酸(linoleic acid)は多価不飽和脂肪酸の一種で、オメガ6脂肪酸に分類されます。リノール酸は、植物油、ナッツ、種子などに豊富に含まれており、体内では合成できないため食事から摂取する必要があります。
共役リノール酸はリノール酸の異性体です。主な食事性の共役リノール酸はシス-9、トランス-11 (c 9、t11) で、これは共役リノール酸全体の90% 程度を占め、肉や肉に比較的高いレベルで存在します。トランス-10、シス-12共役リノール酸( t10、c12-CLA) は、食事源中の共役リノール酸 の 1 ~ 10 % を占めるもう 1 つの一般的な異性体です。(下図)


図:リノール酸と共役リノール酸は炭素数18で2個の2重結合を持つ脂肪酸。リノール酸はカルボキシル基(COOH)の炭素から数えて9番目と12番目の炭素に2重結合が存在する。この2個の2重結合は両方ともシス型を示す(cis-9, cis-12)。共役リノール酸で最も多いのがシス-9、トランス-11 ( cis- 9、trans-11) で、これは共役リノール酸全体の90% 程度を占める。その次の多いのが、トランス-10、シス-12 ( trans-10、cis-12)の構造を持つ。


リノール酸はカルボキシル基(COOH)の炭素から数えて9番目と12番目の炭素にシス型の2重結合が存在します。二重結合の位置(位置異性体)、シス型かトランス型かの立体構造(幾何異性体)で、多数の異性体が存在します。そのうち共役二重結合を持つものを共役リノール酸と言います。共役二重結合というのは、二重結合が1個の単結合を介して連続しているものです。
 
共役リノール酸は1978年、ウィスコンシン大学のパリザ(Michael W. Pariza)教授の研究グループにより発見されました。
肉や魚などタンパク質の多い食品を加熱調理すると、焦げた部分にベンツピレンなどの発がん性物質を生成します。この発がん性物質の生成を検討している中で、肉を調理する過程で発がん物質のみならず発がん抑制物質が生成することが確認され、その後その物質が共役リノール酸であることが同定されました。
 
共役リノール酸はラットの発がん実験でがん予防効果が確認されました。がん予防効果だけでなく、脂質代謝改善作用、動脈硬化抑制作用、免疫賦活作用、骨代謝改善作用などが認められました。

現在では、共役リノール酸はサプリメントとして販売されています。その宣伝文句には、「体脂肪を減少させ、筋肉を増加させ、免疫力を高め、バランスの良い健康な体を作る」と宣伝されています。愛好者はボディビルやエアロビクスをやっている人、フィットネスやスポーツクラブに通っている人が多いようです。
 
カプセルに充填したものだけでなく、タンパク質素材や炭水化物素材に共役リノール酸をブレンドしたスポーツ強化食品や機能性食品として販売されています。

がん再発予防の目的のサプリメントとしても利用されています。




【共役脂肪酸は多彩な生理機能を持つ】

不飽和脂肪酸には炭素鎖に少なくとも1つの二重結合が存在します。多価不飽和脂肪酸は、炭素鎖内の二重結合の数と位置に従って分類されます。ほとんどの多価不飽和脂肪酸は、メチレン (-CH2-) 基によって分離された二重結合(-C=C-CH2-C=C-)を示します。この場合、2つの二重結合の間に2つ以上の単結合が入るので、共役は起こりません。
 
対照的に、一部の多価不飽和脂肪酸はメチレン基によって中断されない二重結合(-C=C-C=C-)を有します。2つの二重結合の間に1個の単結合の場合です。この二重結合を共役型二重結合と言い、分子中にこの二重結合を有する脂肪酸を共役脂肪酸と言います。
 
二重結合の位置および幾何型の違いにより、リノール酸の生理作用とは違った効果を発揮していると推測されています。


図:リノール酸はCOOHから9番目と12番目の炭素の部分で二重結合が存在し、この2つは両方ともシス型を示す。共役リノール酸の一種(9c,11t-C18:2)では、9番目の炭素の二重結合はシス型で、11番目の炭素の二重結合はトランス型を示す。リノール酸の2つの二重結合はメチレン (-CH2-) 基によって分離されている(-C=C-CH2-C=C-)。共役リノール酸の二重結合はメチレン基によって中断されてない(-C=C-C=C-)。この結合を共役型二重結合という。


共役脂肪酸の中で、共役リノール酸は人間の健康に対する有益な効果について最も広範囲に研究されています。これらの効果には、抗肥満、抗動脈硬化、抗糖尿病、抗発がん、および免疫調節特性が含まれます。
 
さらに最近は共役リノレン酸に対する関心が大幅に高まっています。リノール酸とリノレン酸は炭素数が18で同じですが、二重結合はリノール酸は2個、リノレン酸は3個です。
共役リノレン酸は3個の二重結合のうち、少なくとも2個が共役型二重結合を有するリノレン酸の異性体です。リノレン酸の異性体は、天然では多種多様な種子油中に高濃度で存在します。

3個の二重結合が全て共役結合になっている共役リノレン酸としてザクロ種子油のプニカ酸、ニガウリ種子油のα-エレオステアリン酸、キンセンカ種子油のカレンジン酸、ジャカランダ種子油のジャカル酸など多数の種類が知られています。(下図)


図:α-リノレン酸は3個の非共役二重結合を持つ。ザクロ種子油のプニカ酸(9c,11t,13c-C18:3)、ニガウリ種子油のα-エレオステアリン酸(9c,11t,13t-C18:3)、キンセンカ種子油のカレンジン酸(8t,10t,12c-C18:3)、ジャカランダ種子油のジャカル酸(8c,10t,12c-C18:3)は3個の連続した共役二重結合を有する共役リノレン酸。



【共役リノレン酸の一緒のプニカ酸はザクロ種子油の80%を占める】

αリノレン酸と共役リノレン酸は3個の二重結合を有し、化学構造は同じ(C18H30O2)ですが、二重結合の位置と立体構造が異なります。αリノレン酸はCOOH末端から9番目と12番目と15番目の炭素にシス型二重結合があります。
 
共役リノレン酸の一種のプニカ酸(9cis,11trans,13cis )はCOOH末端から9番目と11番目と13番目の炭素に二重結合があり、9番目と13番目の炭素の二重結合はシス型で、11番目の炭素の二重結合はトランス型で、この3つの二重結合は共役型結合となっています。
プニカ酸は抗がん作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用、抗酸化作用、抗炎症作用など多くの有益な生物活性を示すことが示されています。

ザクロ (Punica granatum) 種子油には約 80% のプニカ酸が含まれており、現在この注目すべき脂肪酸の主要な天然源となっています。


図:α-リノレン酸は亜麻の種子(亜麻仁)や荏胡麻の種子の油に多く含まれる。炭素数18で二重結合を3個持つ脂肪酸(C18:3)で、カルボキシル基(COOH)から数えて9番目と12番目と15番目の炭素に二重結合があり、これらはいずれもシス型の構造をとる(9c,12c,15c)。ザクロ種子油の70〜80%を占めるプニカ酸はリノレン酸の異性体の一種で、カルボキシル基(COOH)から数えて9番目の炭素にシス型、11番目の炭素にトランス型、13番目の炭素にシス型の二重結合がある(9c,11t,13c)。プニカ酸は単結合と二重結合が交互に並んでおり、二重結合が一つおきに存在する「共役系」は電子の非局在化が起こり、非共役型の脂肪酸とは異なる特徴的な性質を有する。プニカ酸は抗がん作用や免疫増強作用など多彩な健康作用が注目されている。


共役リノール酸はリノール酸(オメガ-6脂肪酸)の異性体であり、二重結合が隣接している位置にあるのが特徴です。肉類、乳製品(特に反芻動物)に多く含まれています。共役リノール酸は• 体脂肪の減少、筋肉の増加、抗がん作用、抗酸化作用などの健康効果があるとされています。
 
共役リノレン酸は体内で一部は共役リノール酸に変換されます。したがって、共役リノール酸と類似の健康作用を有します。さらに、共役リノレン酸に特有の作用もあります。抗腫瘍効果に関しては、共役リノレン酸の方が高いようです。つまり、プニカ酸を多く含むザクロ種子油はがんの予防や治療において近年注目されています。



【補足:共役二重結合とは】

共役二重結合が理解しにくいので、説明を補足しておきます。
 
電子の「非局在化」とは、電子が特定の原子や結合に固定されず、分子全体や結晶全体にわたって広がっている状態を指します。この非局在化した電子は「自由電子」とも呼ばれます。電子が非局在化することで、分子や結晶全体のエネルギーが低下し、より安定になります。
 
炭素(C)原子の原子価は4です。原子価は、その原子が幾つの原子と結合できるかの値です。つまり炭素(C)は4つの原子と結合できます。2本の結合が2つの原子間で使われる場合、その結合を2重結合と言います。これに対して1本の結合を単結合と言います。2重結合の間に2本以上の単結合があると、二重結合部の電子は二重結合部に局在化します。

例えば以下のような場合です。2つの二重結合の間に2個の単結合があります。

上の図のC1とC2、C4とC5の間の二重結合の電子は局在化(それぞれの二重結合の部分に固定化)しています。しかし、二重結合の間に1個の単結合しかない場合、電子は非局在化(共有)します。下の図は1,3-ブタンジエンの化学構造です。

C1とC2の間、およびC3とC4の間に2重結合があり、C2とC3の間は単結合です。1,3-ブタンジエンでは2つの2重結合の間には1個の単結合しかありません。

この分子のC2とC3の間は純粋な単結合でなく、2重結合に少し近づいた性質を持ちます。つまり、この場合は電子の共有(非局在化)が起こります。
単結合と二重結合が交互に並んでいる時は電子の非局在化が起こっており、隣り合った二重結合の部分に電子が自由に移動できるので、これを共役二重結合と言います。
 
上記の1,3-ブタジエン(CH2=CH-CH=CH2)は二重結合を2つ持つ不飽和炭化水素ですが、これは最も単純な共役ジエンです。
 
ジエン (diene) は、二重結合を2つもった炭化水素のことです。非共役ジエンは2つ以上の単結合によって二重結合同士が隔てられたジエンで、孤立ジエンとも言います。共役ジエンは1つの単結合によって二重結合が隔てられ、共役したジエンです。

共役脂肪酸は、二重結合が一つおきに存在する特定の構造を持っていることが特徴です。この構造が「共役」と呼ばれる理由です。

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