六代目悳次「古代裂蒐集の旅」
私共「銀座むら田」は百十年間商いをしてまいりました呉服専門店です。
2023年4月より銀座を離れ、現在は渋谷で「染織工芸むら田」として営業を再開しております。移転に伴いリニューアルしたホームページに、亡父の書き遺した【六代目悳次の古代裂蒐集の旅】を少しずつ掲載いたします。
四十年を経た今、時代背景はかなり変わりましたが、昭和の呉服屋の主人の染織をめぐる旅をお楽しみいただけましたら幸甚に存じます。
2023年 初秋 染織工芸むら田 村田 寛次
※1999年の悳次七回忌の際に催した蒐集染織品展覧会の記念冊子『シルクロードの染織を訪ねて—村田悳次遺稿集』から、原文のまま転載いたします。
ごあいさつ 村田 あき子
毎年春になると、とり憑かれた様に海外の旅に出、大きなトランクに訪れた地の臭いと共に古布を持ち帰って居りました。「古い布を探すのは今のうちだ。散ってしまわないうちに今歩かなければ駄目なんだ」と、ますますエスカレートし、年に一度が二度になり、そのうち一ヶ月の長期滞在も当然のように計画を立て、留守役の私としてはだんだんいい顔をして送り出すことも出来なくなりました。
旅から帰って、収穫を得意気に拡げて見せても無関心を装い、共に喜んであげられなかったことは、今となっては悔まれます。
戦時中に学生生活を送った主人は英会話も得意な筈がなく、危険も伴う異国の地で乏しい財布の中味を気にし乍らの布探しの旅は楽しいことばかりではなかったことだったと思います。
非売品の札を付けて主人が大切にして来た布は、一品も欠けることなく自宅一階のむら田染織ギャラリーに保管され、古布の美しさに目覚めた娘が番人をしています。何もしてあげられなかった私に比べて主人が残してくれたものは、計り知れない重さを持っていることを今さら乍ら感じています。
今回の展示に当り、蒐集の状況が解る様な遺稿を整理してみました。春・秋のむら田個展の案内状に連載しました「古代裂蒐集の旅」①〜⑥と呉盟会の記念誌に寄稿した「内外時代裂を求めての放浪記」には重複する記述もあり、本人も文中で認めて居ります通り、脈絡なくお読みになり難い文章ですが、敢てそのまま載せさせていただきました。また、長きに亘り親交のあった三人の方に玉稿を賜わりました。神出鬼没で飄々としているからと主人が「おばけさん」の愛称で呼んでいた高橋様、旅先から帰ると先ず蒐集品を見せて自慢するお相手だった万知子さんと紀子さん、ありがとうございました。
公私共に御支援をいただいて居ります皆様に心から感謝申し上げます。展示会の準備に携わった二人の息子と、この文集の編集にパソコンと首っぴきで格闘の娘と指導役の阿部さんも御苦労様でした。
「こんなに忙しい思いをさせて、今頃お父さん何処に行っているかしら。」「多分イランだと思うけど」事もなげに容子の返事が返って来ます。シルクロード彷徨の旅先できっと喜んでいる事でしょう。