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離婚裁判百選③悪意の遺棄とは

0 はじめに

 悪意の遺棄について複数回検討をしてきました。

実際の「遺棄」の意味に比較すると広い意味であって、文言に拘泥されないことは理解できました。実際、学理上もこれを維持できるのか。

1 通説的な考え方

 『注釈民法』第3版,366頁によれば,「悪意」とは、法令上の通常の用語法(知っていること)とは異なり、社会的・倫理的に非難されるべき心理状態、すなわち遺棄の結果としての婚姻共同生活の廃絶を企図し、またはこれを認容する意思をいう(通説)と説明されています。要は配偶者を害する意図はなくてもいいが、知っているというよりも、『これから行動をしようと思っている行為をすると、家族が壊れる可能性が高い』と認識していることで足りるようです。

また、以下のようにも指摘しています。「遺棄」というのは、もともと置去りを意味するが、ここではより広く,正当な理由のない同居拒否一般,ないしは同居・協力・扶助義務(752)または婚姻費用分担義務(760)の不履行一般を含むものと解されているのが通説です。

そうすると実際に山に捨てに行ったなどの行為はいりません。お金を入れない、生活費を払わない、なども悪意の遺棄に該当します。そうすると、本当に語義から外れている概念なのです。

また、以下のようにも指摘しています。同居させてはいても配偶者らしい扱いをしない場合(ただし判例上は非同居の事案がほとんどである)や,生活費の送金を欠かさなかったとしても正当な理由もなく帰宅しないといった場合(大判明33・11・6民録6・10・16参照)も,これに含まれることになる。

2 あなたのケースは悪意の遺棄?

別の指摘をみてみます。梶村太市ほか著『家事事件手続法』第3版,635頁は、『悪意の遺棄とは,正当な理由がないのに同居,協力,扶助の義務(民752条)に違反し,夫婦生活を維持する意思の認められない場合をいう。』と指摘し、夫婦生活を維持する意思がないこと、同居協力扶助の義務がないこと、いわばどんな事例にもあてはめることができるような考察を展開しています。ただし、合意による別居や有責の相手方に対して同居を拒否することは,これに当たらないとも指摘しており、同居の拒否ができる理由を合意もしくは不貞の相手がなどに限定をしています。

一方で、結局、『遺棄が問題となる別居事案は,夫婦いずれかの有責行為によることが多く,別居に関する有責性が同居許否の正当事由と相関関係があるのが一般的』とも指摘しており、結局は悪意の遺棄概念をもって判断されることはあまりないことを指摘しています。

3 若干の考察

 悪意の遺棄概念は、そのまま文字通りに解釈される必要がないことには、賛成です。理由は、現代において悪意の遺棄が成立する事例はまず生じないことになり、空文化することなどは指摘できると思います。もっとも、拡大しすぎることも問題だと思われます。すなわち、どんな事例でも悪意の遺棄に該当することになりかねない解釈手法かと思われるからです。

そこでどうバランス調整を取るべきか。やはり、別居に至った原因をさぐることによって、かつ、別居に至ったのちの当事者の態度をもって、時系列をたどったうえで、全体的に考察して『悪意の遺棄』と文字通りに当たらなくても評価、できるのかという観点は重要ではないかと思います。

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