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離婚裁判百選②悪意の遺棄

0 はじめに

悪意の遺棄について、引き続き検討してみます。同居に至った経緯をみて、悪意の遺棄に該当しているかどうかを線引きの基準としている?と思われる裁判例でした。今回も悪意の遺棄に該当すると判断された事例です。

1 裁判例の検討

東京地方裁判所において平成26年 3月25日に出された裁判例は、原告が、妻である被告に対し、同人が不貞行為をした上、原告の承諾を得ずに一方的に同居を解消して家を出て行き、悪意の遺棄をしたなどと主張し、不法行為に基づき、慰謝料、調査会社費用、カウンセリング費用及び弁護士費用の損害賠償を求める事案である。

2 前提となる事実

  (1) 原告と被告は、平成5年12月16日婚姻し、同居を開始した。原告と被告との間に子供はいない。
  (2) 被告とA(以下「A」という。)は、会社の同僚である。被告とAは、遅くとも平成22年12月ころまでには、交際を開始し、遅くとも平成23年2月ころには性的関係を持った(甲2、3、弁論の全趣旨)。
  (3) 原告と被告は、平成23年2月20日までに、別居した。
  (4) 原告は、Aに対し、被告とAの不貞行為について、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起したが、原告とAは、平成24年7月6日、①Aが原告に対し、慰謝料として300万円を支払う、②原告とAは、原告とAとの間には、本和解条項において定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認することなどを内容とする裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。Aは、本件和解に基づき、原告に対し、平成24年7月24日、300万円を支払った。

妻である被告の不倫相手は原告に300万円を支払っている事例です。

3 争点及び当事者の主張

 (2) 被告は、原告に対し、悪意の遺棄をしたか
 (原告の主張)
 被告は、平成23年2月8日は、原告の承諾を得ずに一方的に同居を解消して自宅を出ており、これは悪意の遺棄に該当する。
 (被告の主張)
 被告は、一方的に別居を開始したわけではない。被告は、夫婦の不和から、別居前に何度か「別れて暮らしたい。」と原告に伝えていたものの、原告から回答は得られなかった。原告自身、別居後に自宅に戻った被告に対し、「顔も見たくないから出て行ってくれ。」と述べたことさえある。このように、かねてより被告が原告に対し別居の希望を述べていたこと、原告は反対の意思を示さなかったこと、原告自身が別居を追認する発言をしたことに照らせば、別居について被告が専ら非難されるべきではなく、被告が悪意の遺棄をしたとはいえない。
 なお、被告と原告が別居したのは、平成23年2月20日である。

やはり、悪意の遺棄とは十分な話し合いをしないうえで、別居の主たる原因を作ったのはどちらなのか、という観点から主張されています。

3 当裁判所の判断 

裁判所は、悪意の遺棄を認めています。

被告は、原告に対し、悪意の遺棄をしたか
 被告は、平成23年2月中旬ころ、自宅を出て原告と別居している。そして、証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告に対し、それ以前から別居を希望する意思を示していたことは認められるものの、原告がこれを承諾したことはなく、別居することについて、正当な理由は見当たらないから、被告は、一方的に原告と別居したと言わざるを得ない。
 したがって、被告は、平成23年2月中旬ころ、原告に対し、悪意の遺棄をしたと認められる(なお、別居後、原告が自宅に戻った被告に対し、「顔も見たくないから出て行ってくれ。」と言ったとしても、これだけで原告が被告による悪意の遺棄を許したとみることはできないから、被告が悪意の遺棄をしたことについて、責任を負わないことになるわけではない。)。

4 若干の検討

 やはり、悪意の遺棄について、別居の経緯を重視した判断をしています。承諾がない別居、イコール、悪意の遺棄、と位置付けるのは行き過ぎと思われますが、十分な話し合いをしない別居や、別居の原因を作った側の経緯を考慮すると、『悪意の遺棄』に該当する事例は多くあると思われます。

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