浦和の今。ピッチレベルからもう少しだけ深く
ピッチレベル
特にACLの内容というわけではないです。
とりあえず、わかりやすいので槙野(逆のHVもだけど)のポジショニングの変化から話を進めていきます。
ミシャの頃、彼が上がることをリスクと捉えた声の大きさがエグかったけど、現在では同じ3421でもリスクテイクに対するチームの考え方は大きく変化してます。
彼が上がった背後を取られて〜という流れは、ここ最近ほとんどないと思います。
そもそもボールを持てていないのもあるけど。卵が先か、鶏が先か。
槙野がオーバーラップ、もしくはセントラルハーフのような位置に入る流れでローテーションを起こす選択肢は、現在ではビハインドの展開で時々披露されるくらい。
彼(HV)が下がったままなのに、ボランチの役割が以前と変わらないことによる影響は勿論あります。
縦パスの距離がシンプルに遠くなること、加えてDFラインに運んで相手を動かすエネルギーがないことで、シャドーはより低い位置に下がる、もしくは後ろ向きで背後から相手のプレッシャーをまともに受けてボールを触ることになります。
一方、槙野やワイドにボールが回った瞬間、シャドーが高い位置にいることができず、チャネル攻略のルートがなくなってしまう。
代わりに興梠がチャネルに向かうと、そのエリアを攻略できてもクロスの出し先が少なくなってしまう。
両ボランチが高い位置をとることで、シャドーの役割を明確にすることも考えられるけれど、実際「より難しいリスク管理」を求められるやり方だと思います。
少し内側にポジションを取れていた方が良かったりとか、机上では色々言えるけれど、槙野は左でボールを扱えないから相手からより離れ、角度をつけてボールを受けたいと感じて行動しているはずで。そうするとポジションバランスの整合性も取れない。
また、試合展開で時々上がることになっても、昔できていたことがグッと出来なくなったと感じます。
持ち運んでもボールが足につかないケースが少なくありません。
やらなくなって2年以上経ってしまったので仕方ないかなと思いますが、やろうとしてもできないのはチームにとって大きな痛手でしょう。
(記事を書いた後に改めて虫垂炎の記事が出ていました。そういうコンディション不良の面もあるかもしれません)
それでも控えの選手をみれば、槙野に代わって左HVのポジションで総合的により高い強度のプレーをできる選手がいないことは明らかで、(もちろんどのチームも程度の差こそあれ抱える悩みだと思いますが)主力級のバックアップをいかに育てるかという問題に数年間向き合えなかった歪みの結果だと言えます。
短期的メリットと中長期的メリットの天秤ですね。鹿島あたりはこの塩梅が上手だと感じる人は多いのでは。
そんなこんなで、流動性がなく、前の厚みが足りず、立ち位置の解決も難しく、入れ替えも厳しい状況。
こうなってくると、まずはWBが個人で打開するのがお手軽に見えるけれど、関根は復帰までの流れから来るコンディションの問題を感じるし、橋岡は努力は感じるがそこに強みがある選手とは言い難い。
特徴を発揮できるような選手は、2018年の春までにどこかに旅立って行きました()
左サイドだけでなく、持った時の循環に関しては他にも色々と問題がありますが、抽象化すると、攻撃の局面においても、ポジティブトランジションでいいプレーをするために求められる守備の仕組みにおいても、リスク回避的なポジションバランスが重視され、前線に人を送り込めないというのがピッチレベルの不調の流れなんだと思います。
ローテーションによって相手を押し下げる、外すのがミシャ期浦和のビルドアップの肝の1つで、この前提によって前線の選手がよりゴールに近い位置で連携を行うことができた過去の3421。現在の3421とは完全に異なります。
全くプランを変えて、ロングボールを送るようにするにしても、5バックスタートではセカンドボール回収に割ける人数を確保しにくく、その次に攻略したいワイドの到着も遅い。
カウンターを軸にする場合は、いかにワイドの深い位置に早く人を置けるかは1つキーになりますが、523を維持すると2ボランチの負担が厳しく、結局541になってしまいやすかった。
その点は532の方がいいよねという場面は少なくなかったですが、2トップの背後を3の中央がケアすると相手を片サイドに留めやすいフォーメーションにおいて、両脇の主力が長澤とエヴェなのは厳しいなと思います。カバーリングについてはそれほど能力が高い訳ではなく、どうしてもV字がメインになってしまいます。そうすると2トップの間を守るにしてもセンターの移動距離は伸びがち、負担が増してしまう。
4バックチャレンジがないのは、メンツの問題が大きいと思います。
主力のうち何人かは使いにくくなること、それに代わって出てくることになる選手個人の能力は少なくとも総合的には劣り、また彼らが複数の選択肢を持っているとは言いにくいため結局すぐ対策される可能性も低くないこと、替えが効かないポジションが増えること。
「サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論」でおなじみ松田浩さんと、栃木SCで一緒にやっていた上野さんもいるので、やればそれなりに形にはなる気もしますが、これまでのキャリアで好んで4バックを採用してきたオリヴェイラが数試合で諦めた流れも当然考慮に入れる必要がある。
就任の時点で4バックの構築自体には自信があったとしても「今期は難しい」と判断した可能性もあるんじゃないかなと思います。
フォーメーションについても、リスク回避的な価値観に基づく消極的な5バック採用なのかもしれません。
もちろん大槻さんは監督であり、不調の原因をそこに求めるのは当然の事です。
ただ、選手層面での厳しさや、ミシャサッカーの反省等、ここ数年の負債を彼が一気に背負わされていることは間違いないと思います。
トレーニング
一方、サイトメンバーズの選手コメントを見ると、それぞれ課題はある程度認識できているようです。
ワイドが持った時にもう1人がチャネルを抜けるのか、もしくはペナ角を使うのか、まず誰かが裏を取る動きをすること等、試合では見られていない現象についても、割と冷静に言及されている印象です。
複数選手から同じような内容が語られるため、個々人が思ったことを話しているわけではなく、ある程度チームとしても問題点の共有がされているのではないかな?と思います。知らんけど。
おーはら日記でのトレーニングの風景描写を見ると、監督やコーチの練習中の発言にはそれらに対してのアプローチと見られるものが多くありますが、このことはやればできる問題では無いことの証明だなと感じます。
そもそも5バックのチームが直面しやすい不具合にもろにぶち当たっているなかで、矛盾を抱えながら、そして恐らくそのことを知りながらも、無視して乗り切るしかないという判断をしているような気もしています。
また、トレーニングそれ自体をもう少し分解すると、選手の価値観を変え、目に見える景色から何を取り入れ、どう行動に繋げるのかを習慣化するという役割があると個人的には思っています。
指導の成果は、個々の選手の能力だけでなく、そもそもの価値観、パーソナリティや精神状態などにも大きく左右されるでしょう。そんな意味で、編成に関与せず途中からチームを率いる監督は特に難しいハンドリングを要求されます。
もちろん、監督の経験の少なさが影響している気もするし、単純にサッカーを分解、再構築して理解していく途中なのかもしれません。
ただ、チームを指導するのはぼくたち素人が思っている以上に難しいことだというのは念頭においた方がいいと思います。
フロントが「大槻しかいない」という迎え方をしたところ、夏の補強等は注目すべきポイントかもしれませんね。
もう少しだけ深く
さて、柏木が「度重なる監督交代は監督にとっても選手にとっても難しい」といった趣旨のコメントを残しています。
実際この2年半、ピッチレベルでの変化を見ても分かるように、チームに関わる全ての人の価値観が右往左往しているのだと思います。
選手も、スタッフも、もっと上の人たちも、変化が必要なのは結果から見ても明らかですが、ただ、変化にも色々種類があるのでは、と。
例えば、ペップグアルディオラがバイエルンの指揮をしたのは、ファン・ハール→ハインケスの次。
もともと国内では圧倒的な強さを誇るバイエルンにも、古いスタイルのまま新しい時代を迎えることに対する懸念があったようです。
そんな中2009年に就任したファン・ハールがバイエルンにボールを保持する新しいアイデアを持ち込むと、そこからチームは「ファン・ハールによるポジションプレー→ハインケスによるスピードとリズムの変化→グアルディオラによるポジションチェンジ」といったように、「継続性のある進化」を遂げていきました。
「キミに全てを語ろう」にて描かれています。
監督の交代は「全く新しいことをやる」合図ではなく、「より発展していく為のステップアップ」の合図として機能しているようです。
この軸について語っていたのは、OBで強化に携わっていたブライトナー。(2018年、ヘーネス会長と揉めて辞めた模様)。
ペップが監督に就任する1年前、ハインケス監督が会長に「これが最後の年だ」と退任を告げた時点で、経営陣はペップのことを考え、全員が納得して交渉に臨んだようです。
ブライトナーは「ペップ以外の誰も考えられなかった」と語っています。
今の浦和に、このように一貫性のあるストーリーを明確に語れる人材はいるのでしょうか?
誰が浦和の10年後、20年後を見据えた方針を決めるのでしょうか?
僕は組織について疎いので、全くわかりません()
資金繰り等、頭を抱えたくなるような問題も色々あるでしょう。
戦術的に足りなければ選手に多くは求められないという意見は界隈で良く見受けられます。一理あると思います。(逆もまたしかり)
クラブとしての方針が見えない時にどの程度チームに求めていいのか。ここはACL決勝、試合を観て、チャントを歌いながらも考えざるを得ませんでした。
今の浦和はあらゆる意味で脆く、ピッチ上の内容はその結果でしかないのかもしれません。
余談。ACLを終えて
本当に本当に悔しかったですね。
ただ、正直今のチーム状況でここまで来たこと自体、巡り合わせが良かった面もあったと思います。
正直準決勝が鹿島では厳しかったと思うし。
また、(Jは別として)東アジアの個人一辺倒に対し、西が組織的になってきつつあるのは間違いなく、ACLの勢力図も変わってくるでしょう。
タイトルを取るのはここからまた少しずつ難しくなるのかもしれません。
僕個人としても、ACLはとてつもなく魅力のある大会です。
難しいからこそ手にする価値があり、浦和がその頂上を愚直に目指していくことには意義を感じます。
今回、そのタイトルに手の届きそうな距離まで這い上がったけれど、内容を見ればあと一歩はあまりに長く険しかった。改めて認識させられました。
ある意味では納得がいくというか、この状態のチームがアジアの頂上を取れるようでは、ACLの価値自体が揺らぐ気もしてしまいました。もちろんとらないでよかったという話ではないですが。
またあの舞台に、今度はいい状態で臨みたいです。
信じる根拠のある浦和になって欲しいです。
終わり方がわかりません。終わります。笑
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