カットインと同じ高さ

今回はサイドから中央にドリブルして守備陣内に斬り込む、いわゆる“カットイン”によって何が起きるか、またディフェンス側の対応を考察します。

“ボールがピッチを横断する局面”にはどんな意味があるのか、“横断させない”にはどうしたらいいか、被カウンター編からもう少し発展させて考えましょう。

体勢変更ラインと縦のライン

まずは、サイドでボールを持っているオフェンスの選手と、対峙する4人が構成するラインのシンプルな構造で考えます。

ボールホルダーが正対ドリブルでマーカーの脚を揃え、ボールをアウトで押し出し内向きに一気にスピードを上げます。

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体勢変更ライン

ここでマーカーが「抜かれる!」と感じた瞬間が体勢を内向きに変えることになります。

そのタイミングは、アプローチとボールを押し出す角度や2人の距離、瞬発力の差などによって変わります。

おおよそ次図のようなラインです。

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ボールと反対側の脚を起点に伸びていてるのは、向き合っている場合、ボールがマーカーのすぐ近くを通れば遠い足で絡め取ることができるからです。

逆にボールが自分から遠いほど早い段階で体勢を変えるので、ボールホルダー側に傾いています。

後ほど具体例を挙げますが、オフェンス側はこのライン上で体勢変更を促してスペースメイクできます。

ディフェンス側にとっては、受動的に体勢変更すると対応に遅れが生じやすいため、連携のズレを極力減らす為に、ポジショニングと体勢を能動的に設定していくのがベターだと思います。

縦のライン

その後、縦のラインを横断されると、自分の脇を通る背後へのパスを出される可能性にさらされます。

インサイド表と呼ばれるパスの出し方が可能でしょう。

守備側としては、横断された時にこのパスコースをどうケアするか整理しておく必要があります。

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横のラインのカットイン対応

ラインの横幅に関する記事で書いたように、ボールホルダーにどの程度アプローチできているかによって、ラインに求められる判断は大きく変わります。

オープン

よりオープンな状況を作られた場合、今回のケースで言えば1人目のマーカーが横断されて完全に置き去りにされてしまったら、前進よりも使われたら危険なスペースの管理を重視するべきです。

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アプローチできている

一方、横断されても、なんとか斜め後ろから体をつけて相手にプレッシャーを与えられている場合は、ラインは比較的積極的に前進させても良いでしょう。

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どちらにせよ、体の向きや、ポジショニングの調整が求められます。その準備が遅いほど、危ないエリアが晒される時間も長くなります。一方、早すぎると別の問題も出てきます。

カットイン対応と守備範囲

うまい選手ほど、このように動的に生じるスペースを作って使う流れがスムーズな印象があります。

2つほど実際のプレー動画を見てみましょう。

浦和レッズの10番柏木からボールを受けた41番関根は前向きにドリブル。アウトでボールを内側に運び、ボールを内側に運びピッチを横断するそぶりを見せます。

その動きをみて、横浜FC29番星がカットイン対応のため体勢を変えるのですが、その過程でおへそがボール方向を向きます。

一般的に、バックステップを踏みながら正対された際の左右の守備範囲はかなり狭くなります。足を出すのが難しいからです。

関根はそのタイミングで星の脇を通す縦パスを供給。

ファーサイドを使う動きを見せた30番興梠の動きもあってスライドが遅れた横浜FCのDFラインの隙間をついて、45番レオナルドがゴールを決めます。

ざっと図示してみます。

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もう1シーン。

札幌の7番ルーカスがカットインでマリノスの5番ティーラトンの縦のラインを横断します。

ここでマリノスの44番畠中は、おそらく自分の縦のラインを横断されることを想定し逆サイド側におへそを向けてスライドの準備をしているような足運びでポジショニングを調整しています。ティーラトンが十分アプローチできていると考えたのかもしれません。

その背中側に走り込んだのが札幌の14番駒井。畠手は体を反転させていた分出足が遅れ、ファーサイドへのシュートの可能性を消してGKの守備範囲を狭くすることができませんでした。

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両方とも、内向きのドリブルで相手の動作を引き出し逆を使った好プレーでした。

このようなリポジショニングや体勢変更を促してできたスペースを使うと、その続きのプレーでタッチ数が少なくなるのはひとつの特徴だと思います。

正しかったはずのポジショニングをエラーにして、修正されるまでの短時間で、小さな、しかし(特にゴール前では)十分なスペースを使うことになるからでしょう。

最終局面での崩しが得意なチームは、出し手と受け手のタイミングを合わせるのが上手いですが、横断はひとつのトリガーになりうるプレーだと思います。

横断されるなら横断させる

2つのシーンについて、星も畠中も、カットインされる想定で体の向きを変え、その逆を突かれています。

このような現象については、"横断される準備をしたが、横断されなかった"と言い換えることができるでしょう。

この時、あらかじめ1~3歩ボールサイドにステップして縦のスペースを体で埋めた上で内側に体を向けて横断に対応すると、動きやすい体勢を維持しやすく、周囲の味方もボールにアプローチにいきやすいケースが多いです。

双方のケースについてまとめました。

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"横断される時は絶対横断させる"が共通理解として浸透していれば、周囲の味方とのイメージ共有もスムーズになされるはずです。

しかし、現実的には、縦を消して横断させるステップの間に加速されたらアジリティの差によっては追いつくのが難しくなる可能性が低くありません。

守備側にとっては、横断自体が対応の難しいプレーと言えます。

同じ高さで横断させない

ここまではカットインで縦のラインを“横断される”前提でしたが、ここからは簡単には横断させない方法を考えてみましょう。

ボールと同じ高さに横切り要員がいれば、攻撃側はラインの前を横切るには迂回することになります。

しかし、そのためにラインから飛び出ると背後を簡単に使われる可能性は高いため、アプローチが難しい場合ベターな選択とは言えません。

ここでは、"静と動"の2つに分けて手段を考えましょう。

静…配置

ラインの前にあらかじめもう1人配置する方法です。1つ前のラインの選手が、ボールと同じ高さからアプローチに行きます。

ある程度ボールサイドでの前進を許容する可能性がある一方、体勢変更のタイミングを減らし、アプローチに行きやすい状態を維持します。

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このように、1人ボールと同じ高さを維持しながらアプローチするだけ次の展開は大きく変化します。

ボランチが下がってスペースを埋めようとした結果後方の役割が被り、人数が足りているのに背後の味方の存在意義が一時的になくなるケースは散見されます。

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参考シーンです。



また、カットインから派生して、縦横のワンツーに繋げられるのはよくある展開です。

ボールの高さで横断のコースを塞いでいた選手が前線に渡ったボールに引き寄せられると、体勢を変える時間で一気に抜け出される可能性があります。これは縦も同様です。

迂回させることで時間を稼ぐのがベターな対応だと思います。

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こちら、ボールに引き寄せられずまず出し手の導線に蓋をするための足運びを教えているトレーニング動画です。

動…プレスバック

例えば、カウンター局面ではMFが戻るまでに時間がかかるケースが多く、必ずしも最初からボールと同じ高さに選手を配置できるわけではありません。

また、セット守備においても、特に1アンカーがボールサイドに寄ったとしてもバックパス経由で簡単に逆サイドに運ばれる可能性があり、あまり好ましくありません。

次善策としては、プレスバックによる横断阻止が考えられます。この時、どこにどう戻るかが重要になってきます。

体勢変更ラインがおへそ側、背中側の双方から伸びていると考えると理解しやすいと思います。

背中側は遠い足で絡め取るのが難しいため近い足から伸びています。

また、体勢を変えるタイミングも早いためおへそ側と比べボールホルダー側への傾きが大きいです。

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さて、横断を切るために、プレスバックで同じ高さに体を入れようとすると、行き過ぎて背中側を取られる可能性が高くなります。

背中を通られる場合の迂回ルートに体を入れて、横断ルートは脚で塞ぐのがベターです。前進され取りきれなくても、より小さいスペースに追い込めます。

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こちらも実際のプレーで確認しましょう。(カンテ凄いですね)

前進を許容するメリットとリスク

“極力体勢をかえずにアプローチしやすい場所にボールを誘導できる”のが横断させないポジショニングのメリットです。

積極的な守備を行う場合は欠かせない要素ですが、ボールと同じ高さや、プレスバックに行けるエリアに選手を配置する代わりに、ある程度前進を許容することで成り立っています。

縦の突破力で分がある攻撃陣と対峙した際、許容して奪いどころに設定したエリアからそのまま突破されてしまう可能性はあります。

特にDFライン全体がスピードに不安がある場合などは、横断させるのも決して悪い選択ではありません。

サッカーは、ボールを足で扱う以上攻撃側にミスの多いスポーツです。横断されるデメリットにいかに対処するか、チームとして整理しておけば、体勢変更が必要でも失点が嵩むことはないでしょう。

リバプールがファン・ダイクを当時DFとしては史上最高額で獲得した際、高すぎるとの批判もありましたが、“彼の守備範囲の広さがチームの積極性に拍車をかけた”と言っても今は誰も否定しないでしょう。

一方、危なっかしく感じるシーンは今でも少なくない印象です。

積極的な守備のデメリットが顕在化した現象ですが、得失点の効率の高さはリスクテイクに成功した証だと思います。

まとめ

今回、カットインについて考察する中で、ボールがピッチを横断する効果と対応、対策についてもう少しだけ掘り下げることができました。

体勢変更にかかる時間を使わせず、守備陣形の内側の、できるだけアプローチにいきやすいエリアにボールを誘導する。これが"横断させない"考え方の根幹です。

さて、このコンセプトはセット守備だけでなく、プレッシングやポジティブトランジション、ネガティブトランジションなど、複数の局面で重要になってきます。それはまた後日。

少し長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。




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