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続・下町音楽夜話 0321「ストック箱は楽しいぞ」

7インチ盤のストック箱を眺めていると時間が経つのを忘れてしまうほど夢中になれる。とっかえひっかえターンテーブルにのせ、針を下したら「ああ、これか」の繰り返しではあるが、少なくともコロナの憂さからはしばし逃れられる。あまりにストレスフルな日々になってしまい、日々の売上げを入力するだけでも吐き気がしてしまう。情けない数字しか並んでない上に、今後の不安がのしかかってくるので仕方がない。そんなときでも、レコードのクリーニングをしているだけで少しは落ち着くので、内心便利な人間だとは思う。

さて、未整理にもいろいろ理由がある。単に知らない曲なので聴いてから判断しようと保留してあるものや、好きな曲だがクリーニングが必要なものなどが一般的な理由だ。その中に輸入盤の一群がある。自分の場合、95%程度が国内盤なので、輸入盤というだけで扱いが異なるのだ。オークションで落札したものが溜まってしまったようなものだが、一方で断捨離も進めてはいるので、普段はあまり用がない輸入盤でも、それなりに面白い盤だったりするのだ。

まずは1990年代の盤は、ほぼ輸入盤しかないということはご理解いただけると思うが、この時期のアナログ盤は、それなりに技術も熟し切っているので、普通に高音質である。例えばマライア・キャリー「エモーションズ」などは、ラジオ局放出もののようだが、あの超音波がどこまで収録できているのか気になるではないか。ひょっとしたらCDでは聴こえない音が含まれているのではと思ってかけたが、「凄いなぁ」という程度で違いが判るほどではない。そもそも扱いが雑だったか、サーフェス・ノイズがひどく、ごみ箱行きか、盤質Cで廉価盤ボックスにいれとくか、というところで悩む代物だった。残念。

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次に聴き比べ待ちの一枚、ムーディ・ブルースの「ロックン・ロール・シンガー I’m Just A Singer (In A Rock And Roll Band)」だ。曲の長さが違うので「ひょっとして???」と思っていたのだが、やはり当たっていた。この曲に関しては、国内盤のみクズ盤なのである。そのことを、時間があるときに確かめたかったのである。

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手元にあったスリーブなしの輸入盤はアメリカ盤であるが、こちらは4分16秒、国内盤は4分9秒なのである。この国内盤、なにが許せないかというと、この7秒の差がイントロの違いなのである。この曲の魅力の一つとして、あのドラムスがゆっくりと動き始め、だんだん速くなっていくところにあると思うのは私だけだろうか。国内盤はこともあろうに、イントロがフェイドインなのである。この曲の格好良さを90%ほど削ぎ落してしまったようなこのシングル・エディット、だれの仕業か知らないが、最低の所業である。キャパシティの限界というなら仕方ないとも思えるが、そんなに長い曲ではない。まったく理解不能の編集なのである。

さて、もう一枚、面白い盤が出てきた。エルトン・ジョン「キャンドル・イン・ザ・ウィンド1997」の7インチ・シングルである。穴が大きいドーナツ盤なのでアメリカ盤だということが一目で判別できる。しかし、これが正規盤なのか見本盤なのかが自分には判らない。おそらく見本盤だと思われるのである。スリーヴはなく、情報はレーベルに詰め込んであるが、レーベルは白地なのである。しかし、だ。この時期、つまり1997年の時点でアナログ盤のサンプルなんぞあっただろうか?

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この曲、記録的な大ヒットである。ビング・クロスビーの「ホワイト・クリスマス」に次いで史上2番目に売れたシングル盤である。ビング・クロスビーは1940年代のリリースであることを考えると、比べものにならないほど短期間で肩を並べるまでに売れたわけで、要はこれまでに最も売れたシングルと言っても過言ではなかろう。そして、このCDシングルの売上げは故ダイアナ妃の基金に寄付された。ごく少数アナログ盤もプレスされたことは知られているが、もちろんこちらも基金行きだ。

さて、1997年に7インチ盤シングルをリリースした意図は何処にあったのだろうか。やはりご高齢の方が聴けるようにアナログ盤でもリリースしたということか?1990年代後半というアナログ氷河期に、需要があったのだろうか?そもそも、日本のレコ屋では見かけたことなどない。マニア向けというなら理解もできる。しかし、このダイアナ妃の追悼盤を手放すものだろうか?何故この期に及んで自分の手元にやってきたのか、何とも理解できないのである。

エルトン・ジョンはダイアナ妃の葬儀でこの曲を歌っているが、その後は一切歌わない。ライヴでもずっと1973年版の「グッバイ・ノーマ・ジーン~」の歌詞で歌っているのである。友人であったダイアナ妃の死を悼むおもいの強さ故にこうしているとしか思えないのだが、世界で最も売れた曲が二度と歌われないというのも考えさせられるではないか。


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