続・下町音楽夜話 0312「ザ・クリー・シェイズ」
クリー・シェイズ(The Clee-Shays)というバンドをご存知か?サーフ・ロック等にカテゴライズされるギター・インスト・バンドとでも説明すればよろしいか。如何せん、あまりよく知らない。手元にはコード・ナンバー0011、あのナポレオン・ソロの映画版「消された顔」のサントラ盤があり、こちらもこのクリー・シェイズによるものだ。1960年代前半から中盤にかけて活動していたようで、レコードやCDも少しはリリースされている。それでもWikipediaがない。英語版も無いし、当然日本語版も無い。ググってみると、少しは情報が出てくるが、あまりに断片的な情報にとどまっている。面白いものだ。
今回このクリー・シェイズに興味を持ったのは、大量のセット・オークションで落札した箱に一枚入っていたからという単純な理由だが、ひょっとしたらレコ屋でお安く売られていたらジャケ買いしたかもしれないと思うほどオシャレなスリーヴが妙に引っかかるのである。1966年にリリースされた「太陽にキッス Sole, Sole, Sole」というシングル盤だが、確かに時代を感じさせるものの、66年当時このデザインは斬新だろうとも思う。ファッション系のポスターにでもなりそうな写真で、同時代のものとは明らかにテイストが違う。ついでにこのシングル曲について検索したところ、某ショップ・サイトで税込み8500円ほどで売られていた。一枚あたり30円ほどで落札した身にとっては、とんでもないものが転がり込んできた気分である。
クリー・シェイズのシングルを追いかけてみると、ナポレオン・ソロ関連以外では、日本のみでリリースされている「アイ・スパイ I Spy」というシングルも1万5千円といった価格でオークションに出品されている。同じスパイもの繋がりで行くと、今回の箱の中には「スパイ大作戦」のテーマソングも含まれていた。何だか面白くなってきたので、少し古めかしいスパイもので時代を感じて楽しんだというわけだ。
ちなみにナポレオン・ソロに関しては、1960年生まれの自分はリアルタイムで観たクチではない。4歳ほどの時代に放映されたものだけに再放送で夢中になっていたのだろう。それでも、猛烈に懐かしい。ナポレオン・ソロとイリヤ・クリアキンの2人、つまりロバート・ヴォーンとデヴィッド・マッカラムの2人に関しては、ナポレオン・ソロのイメージが強すぎたか、その後はこのTVシリーズを上回るヒット作は無いように思う。ロバート・ヴォーンは「レマゲン鉄橋」「ブリット」「タワーリング・インフェルノ」などの映画でも渋い脇役だし、デヴィッド・マッカラムは他に思い当たるものがないほどだが、TVドラマ・シリーズなどにはずっと出演していたようなので、イリヤのイメージで終わってしまったのだろうか。あの軽妙洒脱なやりとりがおそろしく魅力的に感じていたものの、当時の自分はまともに人前で話せるような社交性を持ち合わせていない子どもだった。
「スパイ大作戦」はリアルタイムだ。それでもあまり内容は憶えていない。筋金入りの音楽好きはテレビを観る余裕はなかったということか。お約束の名セリフ「このテープは5秒後に消滅する」はやたらと憶えているし、後の大ヒット映画「ミッション・インポッシブル」でも出てくるが、やはり時代を感じさせて面白い。テープというメディアがいったん衰退し、また復活してレトロ・アイテムとして人気になるなどという未来を、当時のスパイたちは想像できただろうか。
さて、何はともあれ、これらの盤がそれこそタイムマシンに乗って現代に届けられたかのような状態で手元にあることの感慨はひとしおだ。50年55年といった時間の経過がどれほど長いものかということは、61歳になってしまった自分自身が身をもって体験してきたことでもあり、よく分かっている。いったいこのレコード盤に何が起こったのか知りようもないが、外袋はかなり埃まみれだったので、それなりの長期間放置されていたものなのだろう。日焼けもせず、カビも生えず、恐ろしくいい状態で現代の7インチ盤専門店にやってこられたのだから、盤も本望だろう。普段は忙しくしていた人間が、コロナ禍で突然時間ができて倉庫の中でも掃除したのか、最近のオークションには荒っぽいセットものが散見されるというわけだ。その分掘り出し物もあり、有り難いことに長年放置されていた挙句に我が家にやってきた連中は極上品の山だったのである。
ここ2週間ほどは7インチ盤のクリーニングに集中できる時間が毎日少しでも持てたことは有り難かった。単純作業に集中することで、憂さやイライラはかなり低減できる。売り物になるものが予想以上に多くなってしまい、レコードが溢れかえっている状況は、飲食店にとってあまり好ましいことではないかもしれないが、レコード・コレクターズ誌を見て遠くからわざわざきてくれるお客様が増えているタイミングでもあり、喜ばれていることに間違いはない。そして驚いたことに、レコード・コレクターズ誌の読者は思っていた以上に高齢者が多い。皆さん「もう時間が残されていないんだ」などと言いつつ、「昔好きだった音楽に接していたいだけ」とおっしゃっている。そして爺さんたちが「状態がいいなぁ」などと嬉しそうにレコ掘りをしている姿を見ているのは、もちろん悪い気分ではないのである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?