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続・下町音楽夜話 0272「お客様もいろいろ」

音楽を聴くことに目的は必要か。音楽を聴くことの理由など考えたこともなかった。それでも、最近お店に遊びにくる音楽好きのお客様はそれなりの目的をもっていらっしゃるということを知らされ、自分の場合はどうかと考えてしまった。まあ、自分の人生の総括的なお店をやっていることで十分説明はつくが、音楽は好きだから聴いている。それだけだ。

何かしらの目的があって、アナログ・レコードを聴かせるという清澄白河のカフェめし屋を訪ねていらっしゃる方は、オーディオセットわきの大量のレコードを見てまず何を思うのだろうか。「おう、自分よりバカな奴がいた」とでもいうことか。まだ知らぬ何か面白い音源があるかもという部分は皆さん共通というか、音楽好きに共通の感覚だろう。自分ですら、この年齢になって未知の音源でいいものがあれば心躍る。ただしそういった部分は、昨今インターネットの情報が充実してきたことで、ほぼ自宅やスマホの中で完結する。わざわざ出向いてきて、それなりの時間を費やすからには、もう少し別の理由や目的もありそうだ。

まずレコードラックをひとしきり見て、知らないものが多い場合は、リクエストすらされない。「オーナーさんのオススメを聴かせてください」などということになる。ある程度のコレクションをお持ちの方は、「●●●がありますね」などと、ご自分がなかなか入手できないものなどに目が行く。これは非常に分かり易い。だいたい入手困難な盤を例に挙げてくる。こちらも「お、分ってくれるか」となる。相手の好みとレコ掘り歴を想像し、言われたものやそれに近いアイテムをかけてみる。2枚目3枚目あたりでリクエストされたものではないものもかけて反応をみると、大体が笑顔になって一気に話が弾み出す。ここでリアクションが薄い場合は、新入荷などの普段のサービス態勢に戻ることになる。

「一度きてみたかったんだ」ということもしょっちゅう言われることだ。年齢のわりにはインターネットを大いに活用し、情報発信しまくっている。わざわざいらっしゃる音楽好きのお客様は、ある程度情報を仕入れてからきていることは容易に想像がつく。上手くいけば常連さんの仲間入りだ。知り合いになって時間が経過すると、自分の活動量の多さに驚かされるようで、「面倒くさくないですか?」などという感想が増えてくる。この辺はだいたい同じ経過を辿る。内心ふき出しそうになるくらい、同じリアクションが返ってくる。

ここから先は人それぞれ、「自分は最近こんなのを聴いているが、聴いたか?どう思うか?」とくる場合もあれば、「最近いいのないですか?」とくる場合もある。「ニュー・オリンズ系は聴いたことないんですけど何から聴けばいいですかね?」などという方もいらっしゃるが、初心者向けと思いDr.ジョンのヒット曲などをかけると「ミーターズはありますか?ネヴィル・ブラザーズはどう?」などとくる。「なるほど、初級レベルではもの足りなくて中級をお望みですか」的なやり取りになっていく。何だか英会話のスクールで、無理やり上級コースに籍変更させられた時のことを思い出す。「中級で慣らしたかったのに」と言っても後の祭り、周りとスピードが合わないからダメとか言われる。カフェの音楽談義など、周りに気を遣うことなど何もないが、何故こうも探りあいになるのだろうか。後から笑い話的な思い出語りになったときは案外面白いネタにすらなる。

ここのところ、コロナの自粛中にウチの情報に辿り着いてしまい、自粛が明けたら遊びに行ってみようと思っていたらしいお客様が連日いらっしゃる。こちらはイベントに向けてルーツ・ロック系を集中して聴いていたこともあり、いきなりジャズの話題でかなり突っ込んでくるお客様に手を焼いている。もちろんそれすら楽しいのだが、せっかくならキチンと応対したい。調理が立て込んでいるときに、「あれが聴きたい」と難しいことを言われることほど辛いこともない。「ちょっと待って~」と言いつつ、走り回って盤をかき集めて、「ちょっとこれ見てて」とテーブルに積み上げ、調理がひと段落してからかけ始めるころには、既に旧知の仲のように会話が進む。こちらの都合ばかり言ってはいられないが、ランチタイムにいらっしゃってもお相手できないことも多い。それなりに人気のカフェめし屋でもあることをご理解いただきたい。

久しぶりに「マイルス・デイヴィスの7インチ盤があるの?見せて。」というお客様や、「ゲッツ/ジルベルトのなんか珍しいのがあるの?」などというお客様と相対し、嬉しくなってしまった。ジャズのあまりにレアな盤の話題で吹っ掛けられると「うちはジャズ喫茶じゃないんで」とはぐらかすが、明らかにこちらが発信した情報を見ていらしたことが分るお客様には最大限丁寧に応対する。自分も人間だ、努力が報われることに当然喜びを見出す。共通の趣味で語るにしても、より突っ込んだ話題で納得しあえる関係の方が面白い。自分の趣味の傾向は浅く広くだと言っているが、少々補足するなら、「浅く広く、一部は思い切り深く」という意味なので、そこのところよろしく。


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