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続・下町音楽夜話 0331「Side A」

コロナ禍の何が辛いかと言うと、やはり夜営業ができないことだ。収支の問題もあるにはあるが、カネの話ではなく、音楽を聴かせる店というコンセプトを、根本から無にされているようなものなのだ。特にトークイベントができないことが痛手ではあるが、そこまで言わなくとも、お客さんと音楽の話をする機会が全くと言っていいほど無くなってしまった。店を始める前の昔に戻っただけとも言えるが、最近は尊敬すべき音楽好きが集まってくる店という傾向も出てきていたので、残念でならない。根本の部分でモチベーションを奪われた状態なのである。

結局のところ、自分もただの音楽好きなので、誰とも接しないでいると、新たに購入した盤などを聴くことになる。数枚の新しい盤があれば普段はこと足りるのである。そうなると、店に持ち込んである数千枚のレコードの存在価値が無くなってしまうのだ。お客さんが「最近●●を聴いていて…」などという会話とともに、「これならありますよ」と、そのものズバリだったり、同じアーティストのアルバムだったりを聴いたりすることで、自分としては10年ぶり20年ぶりに針を落としたりすることになる。いろいろ思うことを腹に抱えて一緒に聴くということ、これが意外なほど楽しいのである。

レコードが数千枚あるとしても、全部をしょっちゅう聴いているわけではない。そもそも今から一枚ずつ聴いていっても、死ぬまでに全てを聴けるわけではない。これまでも、ソウルから始まり、グラムロック⇒ハードロック・プログレ⇒ニューウェーヴ⇒フュージョン⇒ジャズ⇒ブルース⇒オルタナ・カントリー⇒ロック回帰といったように年代で主に聴くものが移り変わってきたのだ。最近はさらに7インチ・シングルばかり聴くようになり、ポップス回帰+オールディーズといった塩梅で、もう何でもありになってしまった。

そもそもジャズは1980年代から聴き続けてはいるが、ジャズの中でもハードバップから始まって、フリーやらいろいろ経て、最近のブルーノートまで聴き続けている。一定の枚数は聴き、好きな盤も多くできたが、それでもやはりロックやポップスの方が中心にある。ここまでいろいろ聴いてしまうと、新しいものはもう結構という気分になることもあるが、それでも生来の何でも屋なので気になってしまう。この期に及んでロンドンやベルリンのボイラールームもチェックしている。そしてそれを楽しんでいる自分に呆れてもいる。

昨年のクリスマス時期に若いスタッフからボカロ系などを聴かされ、これはさすがに「自分には縁がないな」と思った。またJ-WaveのTOKIO HOT100の上位にくる曲は、概ねどうでもよくなった。100曲のうち2~3曲、気になるものがあってチェックする程度にまで落ち着いた。若い世代に媚びるような音楽との接し方をする気もなければ、そんなヒマもない。不思議なほどに、次から次へと気になる盤はリリースされるし、…そもそも盤と言っている時点で、過去の遺物なのかもしれない。定額配信サービスなど眼中にないから若い人とは話が食い違うことが多いが、曲単位の聴き方以外にも、コンセプト・アルバムのようなものに代表されるアルバム単位の聴き方がやはり好きだったりする。

ただご理解いただけると思うが、自分は7インチ盤の専門店をやっており、同世代の人間と比べればシングル志向が強い人間なのである。グルッと一周して戻ってきたようなもので、曲単位で配信サービスを利用している感覚に近かったりするのだ。また、お客様からよく「このアーティストならどのアルバムがオススメですか?」ということを訊かれるが、これが自分にとっては意外に難しい質問なのである。普段店でアナログをかけているときも、可能なら片面で別の盤に移るようにしている。忙しいときは裏返してしまうが、自分のアナログの聴き方は基本的に片面約20分が一つの単位なのである。

そもそもキャロル・キングの「つづれおり」、マイルスの「カインド・オブ・ブルー」、ストーンズの「スティッキー・フィンガーズ」といったアルバムのSideBはほとんど聴いたことがない。キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」もSideAしか聴いてないに近い。CDに切り替わった時期に、どうしてもSideB部分を続けて再生してしまって、違和感を覚えたクチなのである。アナログのCD再発に際して、SideAとSideBを連続して再生できてもいいが、4秒ほどでいいから、無音部分を少し長くしておいて欲しかった。それだけでも随分印象は違うと思うが、如何なものか。

まったくもってどうでもいい話だが、こんなことをお客さんと話していると、意外に好みの違いなどが見えてくるのである。同じようなアーティストが好きでも、違う曲が好きだったりする。同じアルバムが好きでも、別サイドが推しだったりするのである。以前に中央エフエムの深夜の番組で相方をやらせていただいた小松氏は、とりわけその傾向が強かった。同じテーマで同じアーティストを持ち込んでも、違う曲だったことが多かったので、非常に楽しめたのである。こういうのが、音楽好きの会話で意外に楽しい部分だったりするのだ。最近はそういう会話にも飢えているというわけだ。

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