続・下町音楽夜話 0306「コズミック・カウボーイ」
店の壁面に新着盤として面出ししてあったニッティ・グリッティ・ダート・バンド「コズミック・カウボーイ」の7インチ・シングルは、特別好きな曲というわけでもなく、そもそもいつ頃入手した盤かもよく憶えていない。ヒマな時に品出ししようと思ってストック箱に入れっ放しになっていたものを、最近見つけて出したものである。特別に思い入れがあるわけでもないが、タイトルがどうにも引っかかってしまい、とりあえず入手しておこうと思ったものなのだ。
そして、思いの外突然、文字通りいきなり降ってきた。「マイケル・マーフィのあれだ!」と、メロディを思い出したでもなく、ただ突然繋がった。この曲、オリジナルはマイケル・マーフィというカントリー系のシンガー・ソングライターのアルバム冒頭に収録されていた曲で、そのアルバムの別の曲が好きで時々聴いていたものだ。アルバム・タイトルは「コズミック・カウボーイ・スーベニア」、ナッシュヴィルで録音され1973年にリリースされた彼のセカンド・アルバムで、カントリー・ミュージックと言ってもカウボーイ系である。趣味の範疇のエッジ上とでも言うべき、買ったはいいが余程気分が乗ったときでないと聴かない程度のアルバムである。
ただここに収録されている「サウス・カナディアン・リヴァー・ソング」と「ブレシング・イン・ディスガイズ」という2曲の繋がりや曲の流れが好きで、その部分しか聴いていないようなアルバムだったのだ。マイケル・マーフィは1975年に4枚目のアルバム「ブルー・スカイ、ナイト・サンダー」からシングル・カットされた「ワイルドファイヤー」が大ヒットして有名だが、他のアルバムはついぞ目にすることがない。しかも後年、マイケル・マーティン・マーフィとアーティスト名の表記を変えており、カントリー好きや彼のファンでもなければ判りにくいことになってしまっている。「マイケル・マーフィ」とググってみると、別人の俳優か同名の戦艦の情報しか出てこない。なかなか辛いものがある。
久々にニッティ・グリッティ・ダート・バンドのカヴァーと作者版両方の「コズミック・カウボーイ」(原題にはPt.1が付く)を聴いてみたが、やはりさほど売れそうには思えない。どうもカントリーは売れ線がよく分からない。嫌いではないのだが、好きな曲は売れないので、恐らく自分がカントリー耳ではないのだろう。ポップ耳で聴いて好きなフレーズがあるというだけではなかろうか。とにかくマイケル・マーフィの「コズミック・カウボーイ・スーベニア」は今でも好きなアルバムであることは再度確認した。
自分と同世代の人間なら、カントリーはかなり身近な音楽だった。1960年代後半から70年代にかけて、バーズやらイーグルスやらのカントリー・ロックは非常にポピュラーだったし、ウィリー・ネルソンあたりのアウトロウ・カントリーあたりまでは随分ポピュラーな存在だった。大好きなレオン・ラッセルのようにロックとカントリー両方の世界を行き来するアーティストもいた。映画「コンボイ」や「アーバン・カウボーイ」なども、カントリー・ミュージックの人気に多大な影響を与えたのではなかろうか。1980年代はトラッカーズ・カントリーなどというものも一ジャンルとして存在し得た。ドリー・パートンなどが人気だったように記憶している。
1980年代中盤からは、カウ・パンクやオルタナ・カントリーのような新しい音楽も生まれた。自分の場合、アンクル・テュペロなどにハマった時期もあったが、そこから派生したサン・ヴォルトやウィルコは今でも好きな音楽の中心付近に位置する。一方で、1990年代以降はガース・ブルックスやシャナイア・トゥエインなど、ロック並みに派手なカントリー・ミュージックというものが定着し、自分が好きだったカントリーとは全く別物になって行くことで縁遠いものになってしまった。
さらに近年はYouTubeで見る限り、ルックスのいい若手が多く、昔ながらのものはあまり元気がないように思われる。加えてロックの世界と同様にジャンルの細分化が進んでいるようで、正統派以外にもブルーグラスや安酒場で演奏されているようなカントリー・ホンクなどの派生形は旧来派、最新のカントリー・ミュージック事情はテレビや映像配信などと連動しており、自分が全く知らない巨大な音楽世界が存在するようだ。
中古盤漁りもコロナのせいでしばらくできていない現状ではあるが、自分の記憶を元にした感覚で言うと、1980年代前半頃までは中古盤店にある廉価盤ボックスは、オールディーズや1960年代のサイケな怪しい盤が溢れていた。その後、80年代から90年代頃はカントリー・ミュージックが多く場所を占めていた時期があった。カントリーも少しは聴く自分が楽しめたのはその頃までで、その後ダンス系やHipHop系が多くなってきてからは、廉価盤を漁ることもしなくなってしまった。
件のマイケル・マーフィ、ずっと活動を続けており、今でも現役でいらっしゃる。結果として膨大なディスコグラフィを誇るとはいえ、日本国内では限られたアルバムしか目にすることがない。今さらながらに、ちゃんと買い揃えておけばよかったと思うがもう手遅れだろう。牧場経営も先端的なIOTの現場だという2021年に、カウボーイ系カントリー・ミュージックがどう響くのか、気にならないではない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?