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続・下町音楽夜話 0283「音楽の聴き方はいろいろ」

相変わらず「何でも屋」の道を突き進んでいる。「浅く広く」を信条としているわけではないが、結果的にそうなってしまう。ちょっとでもいいなと思う瞬間があれば、そのアーティストを掘り下げてしまうので仕方がない。最近ではインド人女性ベーシストMohini Deyをカフェの常連さんにオススメしまくっている。皆さんそれぞれにお好きなジャンルや得意分野があるのだろうが、お構いなしに何でも押し付けてくるカフェ店主に辟易しているのではなかろうか。

インドのフュージョン・シーンは相当盛り上がっているようだ。度を越した高速パッセージの応酬に、最初は目や耳を奪われるが直ぐに慣れてくる。テクニックに集中することになり意外に疲れることも事実で、長いこと続けて聴くことは避けたい。毎度リラックスできるアヌーシュカ・シャンカールあたりに逃げることになる。ノラ・ジョーンズのお姉さんが弾くシタールは絶品である。

最近はアフガニスタンの弦楽器ラバブ(rabab、rubab)も面白い。御存じなければ、ぜひYouTubeなどで演奏しているところを観ていただきたい。意外なほど幅広く多彩な音を聞かせる。YouTubeなどで観られる演奏者が上手いのかもしれないが、アラブの奥深さに呆れることになる。様々な民族楽器のアンサンブルが絶妙でもあり、西洋の音階だけでは説明がつかない深淵なる世界を形成している。リズミカルなノリとも違い、見入ってしまうしかない高速スキャットや高速打楽器の応酬は…やはり疲れる。

自分の場合、クラシック(特に古楽)にはまった時期もあり、またブルースにはまった時期も何度かあるので、ロックやジャズ、ポップス以外の音源も少しは手元にある。YouTubeなどで面白いものに出会い、掘り下げていったときに「あれ、聴いたことあるぞ」となって、さらに調べていくと関連音源やそのものズバリの音源を持っていたりする。こういったシチュエーションは、曲中で不協和音から心地よい和音に戻った瞬間のようなソリューションを感じて面白い。…ただの物忘れが酷いジジイともいう。

一つ残念に思ったのが、先日ブルースのイベントをやった際に、ブルースの周辺領域について全く触れることができなかったのだ。時間の制約もあるが、この領域に関してはインターネットでも情報がほとんどないし、もちろん文献もない。それでも一時期いろいろ調べてはマイナーな音源を集めていたので、せっかくのアウトプットの機会を逃してしまったようなのだ。そもそも誰が聴きたがるのかということも考えずに、アウトプットしまくる迷惑者には、時間がいくらあっても足りないのである。

ロックン・ロールの黎明期、R&Bやブルースの垣根を越えて行き来していた柔軟な連中がいたのだ。アイク・ターナーやチャック・ベリーあたりは世の中に数多あるコンピレーションにも収録されていないような面白い音源もあるはずなのだが、本人たちがカネに拘り過ぎて埋もれてしまった貴重なものがいっぱいあるようだ。その周辺、つまりそういったブルースともロックン・ロールともR&Bとも言えるような周辺領域の音楽をやっていた時期のバンド・メンバーのソロなどは完全に埋もれているのだ。自分が知る限り、ライ・クーダーあたりが研究しているようなので、何とかその研究成果を世に出して欲しいと願っている。

ライ・クーダーのレコードは学校のようなものだということは以前にも書いているが、彼が取り上げる古い曲が実に渋いのだ。そのオリジナルや作者を手繰っていくだけで、恐ろしく世界が広がることになる。意図してやっているのかどうかは分からないが、結局は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」みたいなことを、いろいろな国の様々なジャンルの音楽でやっているようなのだ。普通ならたどり着けないような音源を、独自の解釈という名のもとに、琉球音階やレゲエ、西アフリカあたりの民族音楽、さらにはテックス・メックスあたりを混ぜ込んでカヴァーしてくれるのだから、研究し甲斐もある。

理由あって自動車関連の音源にあたっており、ライ・クーダーが1980年のアルバム「ボーダーライン」に収録した「Crazy ‘Bout An Automobile」にたどり着いてしまった。これは「レッド・ホット」で有名なビリー・ザ・キッド・エマーソンの「Every Woman I Know」である。「ほ~ら出た…」と独り言が飛び出してしまったが、難しいあたりなのだ。ジュニア・ウェルズやバディ・ガイにも楽曲提供しているし、チェスで録音しているし、サニー・ボーイ・ウィリアムソンやロバート・ナイトホーク、ウィリー・ディクスンとも一緒にやっているのでブルースだと思いたいが、彼はブルースマンとは括られない。彼は説教師でありR&Bシンガー・ソングライターなのである。エルヴィス・プレスリーで有名なSun Recordsのコンピレーションで知った人間だが、数年前は唯一リリースされたベスト盤CDがすぐに売り切れ、Amazonで1万円以上していたのである。…誰が買うねん?ライ・クーダーくらいしか聴かんぞ、こんなん。


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