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続・下町音楽夜話 0280「モナ・リザ・アンド・マッド・ハッター」

「モナ・リザ・アンド・マッド・ハッター Mona Lisas And Mad Hatters」はエルトン・ジョンとバーニー・トーピンによって書かれた名曲である。1972年のアルバム「ホンキー・シャトー」に収録されているが、このアルバムからは「ホンキー・キャット」と「ロケット・マン」がシングル・カットされており、この曲はシングルではない。それでもたびたびライヴでも歌われているし、カヴァーもされるので評価は高いのだろう。

エルトン・ジョンのトリビュート盤と言えば、1991年リリースの「トゥー・ルームス Two Rooms」が定番だ。エリック・クラプトン、ホール&オーツ、スティング、ロッド・スチュワート、ザ・フー、フィル・コリンズ、ジョン・ボン・ジョヴィ、ジョージ・マイケル、ティナ・ターナーなど、錚々たる顔ぶれでエルトン・ナンバーをカヴァーしている。ただ残念ながら自分は選曲に不満があった。「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」や「モナ・リザ・アンド・マッド・ハッター」がそこになかったからである。

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この時期、ジミ・ヘンドリックスやカーティス・メイフィールド、ジェネシスなどのトリビュート盤が豪華なアーティストにより作られたが、いずれもよくできていたと思う。ビートルズの曲集は数えきれないほどリリースされている。「ブッチャーリング・ザ・ビートルズ」というハードロック系のミュージシャンが集まって作ったものが異様によくできていたが、ハードに演奏しやすい曲ばかりでベストの選曲とは言い難いものだった。それでも愛聴盤ではある。むしろポール・マッカートニーの曲集「アート・オブ・マッカートニー」という極めつけの名盤が出てしまってからは、他の盤の影が薄い。

エルトン・ジョンに関しては、2018年に素晴らしいカヴァー集がリリースされた。活動50周年を祝してのものだったので、当然豪華なメンツだったが、この2018年ものは企画が素晴らしかった。「リイメージング・ザ・ソングス・オブ・エルトン・ジョン・アンド・バーニー・トーピン」という言葉が冠された2枚、「リヴァンプReVamp」と「レストレーション Restoration」が同時にリリースされたが、全くもって違った印象をもつ2枚だった。「リヴァンプ」はエルトン・ジョンの代表的なヒット・ソングを、レディ・ガガ、コールドプレイ、エド・シーラン、マムフォード&サンズ、サム・スミスといった現代を代表するアーティストがカヴァーしている。嬉しいことに「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」はクイーン・オブ・ザ・ストーン・エイジが、また「モナ・リザ・アンド・マッド・ハッター」はザ・キラーズがカヴァーしている。最高である。

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一方の「レストレーション」のジャケットには「ナッシュビル・エディション」の文字もあり、こちらはバーニー・トーピンが主導して、カントリー系のアーティストが一堂に会したものだった。ドリー・パートン、エミルー・ハリス、ドン・ヘンリー&ヴィンス・ギル、ウィリー・ネルソン&チャック・リーヴェルなどなど、なかなかのメンツだ。マイリー・サイラスは両方に顔を出している。いずれの音源も素晴らしい。そしてこちらにはマレン・モリスという女性シンガーの「モナ・リザ・アンド・マッド・ハッター」が収録されているのである。このマレン・モリスが歌う同曲、グラミーのベスト・カントリー・ソロ・パフォーマンス賞まで受賞している。メデタイ。

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ところが残念なことに、自分はこの「モナ・リザ~」が全然好きになれないのである。不思議に思ったこともあり、少し時間が経てば違うかと放っておいた。しかし2年が経過した今、やはりどうにも好きになれないのである。時代なのか?現代が求める音楽はこういうものなのか?これほどあっさりと歌ったカヴァーがグラミー賞を受賞するまで高く評価されるのが不思議でならないのだが、どうも世の中の評判は頗る良いので、自分が時代感覚からズレ始めているのかも知れないとすら考えている。

映画「あの頃ペニー・レインと」でとても胸が痛むシーンで使われたこの曲を聴いたときには、あらためて名曲だなと思ったが、ここではどういうわけか感動が薄い。そもそもニュー・ヨークという大都会での生き辛さを見事な言葉遣いで歌ったこの曲を、あえてナッシュビル・チームでトリビュートしたことに少々無理があったのではなかろうかと勘繰ったりもしているのだが、どうしたものやら。やはり好みでない。

いろいろ聴いてみたが、この曲に関しては、オリジナルがダントツに素晴らしい。また同時代のライヴ音源も感動的だがYouTubeで観られるものは随分サラッと歌っており、レコードの方が好きだ。ライヴに関しては近年の少し声が低くなってからの方が曲に合っているように思うのは自分だけだろうか。クイーンの「ボヘ~」に続いてエルトン・ジョンの映画「ロケット・マン」が公開されたことを受け、エルトン・ジョンのすべての盤をお店に置いている。「モナ・リザ・アンド・マッド・ハッター」もいろいろ聴き比べできるようにしてあるが、今のところ、この曲が好きというお客様に出会っていない。実に残念だ。


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