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続・下町音楽夜話 0307「レア盤で愛を語るラジオ」

月一回パーソナリティをやらされている中央エフエムの深夜放送生番組「東京音楽放送局~Tokyo Music Station~」の今月のお題は「ラブソング」だった。ヴァレンタイン・デイにちなんでということだが、相方の小松氏もSNSで「アラカン、アラフィフのオッサン二人が深夜に愛を語る不毛な2時間」と書き込むほどに、どうも打ち込めないテーマではあった。そもそも「ラブソング」という極めて緩い縛りなので、かけたい曲が絞り込めない。「ラブソング」というもののイメージだけで思いついた曲を書き出していくところから準備しなければならず、なかなかにシンドイものだった。やはりヴァレンタイン・デイに盛り上がるわけでもないオッサンには、相当に無理のあるテーマだったのかもしれない。

10日ほど前に送られてきた小松氏のセットリストを見てビックリしたが、アーティストが違うとはいえ、2曲も被っているのだ。思わず口から零れ出た言葉は「やっぱりねぇ」だったが、彼とは似たような音楽を聴いているのに、好みがかなり違うのだ。同じアーティストでも好きな曲が違っていたりすることは、むしろ語りやすいとも言える。その点のみが頼みの綱といった気分で迎えた本番だった。

普段は自分がかける曲のみアナログ盤で持ち込んでいる。今回自分がかけたい曲はすべて7インチで手元にあった。つまりLPは必要なかったが、小松氏がローラ・ニーロのカヴァーでかけることになった「La La Means I Love You」のオリジナル、フィリー・ソウルのザ・デルフォニックスのアルバムは超レアではないかと思い、持ち込んでみた。さすがに小松氏も、小松氏と繋がっていらしゃる方もその辺はお分かりのようで、本番前からSNSが賑やかなことになっていて面白かった。

今回は、そんな事情もあり、自分を納得させる意味もあって、極力レア盤で攻めてみた。自分がかけたジグソー「恋のあやまち Who Do You Think You Are?」、レオン・ラッセル「ソング・フォー・ユー A Song For You」、フェアグラウンド・アトラクション「ウォーキング・アフター・ミッドナイト」、マイク・アンド・ザ・メカニクス「テイクン・イン」あたりは、恐らく相当レアなのではなかろうか。

レオン・ラッセル「ソング・フォー・ユー」は1970年にファースト・アルバムがリリースされた時点で話題にはなったものの、シングル・カットはされなかった。一年半後に「ファン待望の…」というかたちでカットはされたがロクにチャートインもしなかったので、結果的に永遠の名曲であれ、意外なほどのレア盤となってしまったのである。ただし、後にCMなどで使われて別スリーブで再発されたものはさほどレアではない。1970年代80年代という時代は、60年代と違い、戦後日本という状況から脱して豊かになっていく時代であり、アルバム志向が強かったので、大ヒット曲でも7インチ・シングルがレア盤扱いとなっているものは多いのである。

時代が変わって、1982年にCDが発売になり、主要メディアがアナログからデジタルに切り替わったのが1986年、国内の7インチ盤シングルは1988年でほぼ一旦終了してしまう。最近でこそ新曲をアナログでリリースするアーティストは増えてきたが、1990年代2000年代の7インチ盤シングルは、存在したところでやはりレアなことは間違いない。ほとんどの曲の7インチ・シングルが存在しないのだから、時期的に選択肢から漏れることはしょうがないのだが、それでも好きな曲がないわけではない。手に入るものは手に入れている。1989年頃に短期間だけ活動したフェアグラウンド・アトラクションなどは、全てのシングルを持っているが、さすがにこれらは超レアで、店舗には置いていない。

面白い理由でレアなのはビリー・ジョエルだろう。大名盤「イノセント・マン」からは7曲もシングル・ヒットが生まれており、自分がかけた「ロンゲスト・タイム」は4曲目のシングル・カットである。さすがに大ヒットを連発すればアルバムが売れてしまう。シングル・カットされたとしても、同じアルバムからの4曲目、5曲目、6曲目となると、7インチ盤のシングルでも持っておきたいという目的でもない限り、普通のリスナーは買わないのである。大ファンが発売日を待って買うとか、注文しておくというようなことでもしない限り、普通には手に入らないのである。

同様の理由で、マイケル・ジャクソンの大ヒット曲「スリラー」ですら、7インチ盤は結構レアなのである。「スリラー」は同名アルバムからの第7弾シングルであり、ヴィデオでは大人気になったが、7インチのシングル盤をわざわざ買って聴きたいという人間はあまり多くなかったであろうことは想像に難くない。同じくブルース・スプリングスティーンの大ヒット・アルバム「ボーン・イン・ザ・USA」からも7曲のシングル・ヒットが生まれているが、彼の場合はシングル盤のB面がアルバム未収録曲なので、7インチ盤もさほどレアではないのである。コレクターの世界は、なかなかに面白いのである。



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