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続・下町音楽夜話 0314「輸入盤7インチの価値」

またまたオークションで面白い箱を落札してしまった。普段は国内盤の7インチにしか興味を示さないのだが、今回は輸入盤のみの箱である。オリジナル志向の方は輸入盤の方を好まれるのかもしれないが、自分の場合は懐かしいと思えるかどうかという視点が大きな部分を占めるので、音の問題だけでなく、スリーブの有無に拘りがあるようだ。自分のことなのに曖昧な書き方をするのは例外があるからで、国内盤でもリアルタイムで見たことがなければスリーブの有難みが薄い。一方で国内盤では猛烈な高額盤になっている曲だったり、ウルトラ・レアな曲のものは興味を殺がれてしまうのである。そういう場合は輸入盤でもいいのではという、結構安易なスタンスでこれまで楽しんできているのである。

そして今回思い至ったわけでもないが、この箱は貴重だと思わせる盤がいくつも商品紹介の写真に掲載されていたので入札したのだが、要は国内盤のプレスが1988年頃にほぼ終了してしまった後にリリースされたものなのだ。つまり1989年頃からは国内盤はほぼ目にすることができない。1988年でもほぼ中古盤市場には出回っておらず、あったとしても見本盤なのである。見本盤でも問題はないが、思うに1988年頃の中古レコード店に7インチ盤のコーナーはほぼなかったのだ。CDがどんどん売り場を占領し始め、片隅にLPが追いやられていくような状況だったのだ。つまり、懐かしさを持ちように持ち得ない代物なのである。

結果として、個人的には7インチ盤では見たことがない曲ばかりになっていくが、好きな曲がなくなってしまうわけではない。当時の自分は、目新しい曲に関してはCDで妥協し、叩き売りされている古い曲のアナログ盤を買い集めていたわけだ。その頃の目新しい曲は、アナログで聴きたいとなると輸入盤が頼りとなるが、それすら簡単には入手できなかった。1992年頃までは、自分の周辺でも「アメリカはまだアナログで聴いているらしい」などということが語られていたことを思い出す。

自分は1991年にカナダにある姉妹都市に派遣研修という名目で送り込まれたのだが、そのときの週末、ヴァンクーヴァーのダウンタウンにあるレコ屋で目にしたものは、大量のアナログ盤(ただしLPしかなかった)と、出始めたばかりのリマスタリングCDだった。80年代のCDは音がよくないということを店のスタッフと話したことが忘れられない。そして記念に購入してきたのが、1990年9月にリリースされ、音質が各段に向上したと騒がれたレッド・ツェッペリンの4枚組ボックス・セットだった。

そして今回気になった盤というのが、まずはビリー・ジョエル「ハートにファイア We Didn’t Start The Fire」だ。1989年の夏に大ヒットした曲である。そもそも「ハートにファイア」という邦題に全く馴染みがない。ほぼミュージック・クリップでのみ聴き親しんだ曲である。この曲が7インチ・シングルで聴けるとは期待もしていなかった。店のスピーカーからそれなりのボリュームで鳴らすと、やはりかなり違った印象であることが面白い。何かしらの別バージョンのように思えるほどヴォーカル・バランスも違っている。

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そしてビリー・ジョエルに関してはもう一曲ノー・チェックだったものが手に入ってしまった。「モダン・ウーマン」という1986年の曲で、アルバム「ザ・ブリッジ」収録曲ということになるが、今回入手した2枚組ゲートフォールドのスリーブを持つシングルは、映画「Ruthless People」のサントラからのシングル・カットとなっている。アルバム「ザ・ブリッジ」には、「マター・オブ・トラスト」ともう一つ、レイ・チャールズとのコラボ曲「ベイビー・グランド」が収録されており、大好きな盤なのである。それでも「モダン・ウーマン」がシングル・カットされていたことは忘れていた。意外な収穫といったところである。

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フィル・コリンズの「アナザー・デイ・イン・パラダイス」も気になった一曲だ。やはり1989年の特大ヒットだ。発売と同時にCDを購入し、秋ごろから年明けまで嫌というほど聴いた曲である。しかし、アナログで聴いたことがない。これがどんな鳴りなのか、さすがに気になって仕方がなかった。今回の箱の中身は非常に盤質の良いものが多く、この「アナザー・デイ・イン・パラダイス」もほぼ新品のような状態だ。ポチポチも皆無である。そして期待していた通り、CDよりも深みを増した鳴りが嬉しい。かなりエフェクト処理をしたヴォーカルは違いようもないが、深いリヴァーブなどによる空間的な広がりのある音質が予想以上に素晴らしい。有り難い。

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今回の箱、その他にも多くの嬉しい盤が詰まっていた。順次クリーニングをしながらデータにあたるなどしてからご紹介することにするが、とにかくアナログ氷河期とも言える1990年代のシングルがいくつか、それも好きな曲のものが手に入ったことが嬉しい。1993年のダリル・ホール「I’m In A Philly Mood」や、1998年のジミー・ペイジ&ロバート・プラント「Most High」などは、値札を付けずに保存ボックス行きとなるだろう。さあ、またしばらくはクリーニングに時間を割かれることになりそうだ。

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