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7インチ盤専門店雑記080「天国への階段」

程度の差こそあれ、相変わらずジンジャーはランチ屋です。昼はそこそこ混んで、夜は寂しいものです。それでも金曜日はラジオのオンエアもあって、少しは音楽好きのお客様がいらっしゃいます。混むというほどではないんですけどね。

昨晩も最近ご贔屓にしてくださっている音楽好き母と本好き娘のお二人がいらっしゃいました。お母さんにラジオが始まる前「何かリクエストはありますか?」と尋ねたところ、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」と返ってきました。さすがに「そろそろいいかな」と思い、針を通してみました。実は「天国への階段」、ジンジャーでは禁避曲だったんです。でも、もう、いいでしょう。

コロナ禍前は、月に2〜3回のペースで、音楽好きが集まるイヴェントを開催しておりました。こんなヤツがやっているイヴェントですから、参加者も猛烈な音楽好きばかりです。そのイヴェントを一番楽しんでいたのではという常連さんにベンさんと呼ばれていたオジサンがおりました。農業従事者で靴は泥がついているような方です。つまり相当遠くから通っていらしたわけです。

このイヴェント、普段は高山選曲でテーマに沿った30数曲をお聴かせするものです。それが12月に開催されるジンジャー・パーティと呼ばれる回だけは、皆んなで持ち寄って、オススメ曲を聴かせ合う内容でした。要は忘年会兼クリスマス・パーティみたいなものです。ベンさんも大盛り上がりで何曲か披露してくれました。

2年目のジンジャー・パーティで、オススメ曲が2〜3巡したところで、ベンさんから「ネット、繋がるか?」とお声がかかり、「カーネギーホールのイヴェントでハートがやった『天国への階段』がさ、スゲーいいんだよ」ということで、YouTubeで検索して、皆んなで観ましたよ。実に素晴らしいカヴァーです。ロバート・プラントが涙を浮かべるほど感動するものです。YouTube動画であれ、大きなスピーカーからの大音量で聴くと、さらに感動も大きかったようで、皆んなで凄い凄いと大騒ぎしたものです。

その日からベンさんは姿を見せなくなってしまいました。皆んなずっと心配していたんです。その真相は意外なところから知らされました。ご近所のフカダソウ・カフェのオーナーさんとベンさんは昔からのお知り合いだったようで、ウチのイヴェントに参加されるときも、必ずフカダソウに立ち寄り、「じゃあジンジャーに行ってきます」と出かけて行ったんだということでした。そのオーナーさんから知らされた事実は、何とジンジャー・パーティの2週間ほど後、お正月に大動脈解離で倒れ、集中治療室に入っているということでした。結局半年後に治療のかいなく、亡くなってしまいました。

いつも楽しそうにしている姿しか見ていなかったので、正直なところ、知らされても理解できないとでも申しましょうか、やっぱりという思いも少しはあったものの、悲しいような、寂しいような、自分もまだ体調があまりよくない時期でしたから、「なんで先に行っちゃうのさ」と愚痴るくらいしかできませんでした。そう、「天国への階段」を紹介しておいて、自分で天国への階段を上っていっちゃったんです。だから、ジンジャーでは、カヴァーも含め、「天国への階段」をかけることは禁止だったんです。

もう5年近く経ちますからね。もう、いいでしょう。

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