続・下町音楽夜話 0275「7インチ盤的世界観」
TOTOのイベントが無事終了した。満席告知はしてあったが、随分席数を減らしての打ち止めだし、当日いらっしゃらない方もいて、そこそこ密だが何とかイベントの体裁は保てている状況だった。他にも思うようにビールが入手できなかったこともあり、やたらと本来のイベント以外の部分に時間を割かれることになり、何だか疲れ切ってしまった。それでも参加された皆さんの楽し気な様子を見ていれば、やっぱりイベントはいいなとなってしまう。他所にはない特徴という意味で我が店のアイデンティティはこの辺にあるのだろうから、やはり大事にしていかなければいけないだろう。
TOTOに関しては、今更書くべきこともない。お好きな方が多いカリフォルニア・サウンドの80s形は、メリハリもきいた派手なサウンドを楽しむことに尽きる。初期は典型的なレス・ポール使いだったスティーヴ・ルカサーのギターは、時代とともに随分スタイルが変わっているものの、聴けばやはりスティーヴ・ルカサーだとわかるのだから大したものだ。いずれにせよ、上手い連中の演奏だし、売れたものに拘らなくとも楽しめる。シングル・ヒットだけをピックアップしてプレイリストを作ることも簡単にできそうだが、今回はオススメを持ち寄るかたちにした。思い入れの強い曲もありそうだし、自分が捕捉している曲だけでも数百曲はあり、収拾がつかないという面もあったからだ。結局のところ、アルバムのクレジットをチェックしながら「なるほど、ヤツの音だ」的な作業を繰り返すイベントなど、ありそうでなかろう。
持ち込みのオススメ盤もある程度聴いたところで、後半はリクエストと相成ったがオーソドックスなものが中心で、意外性を追求したようなものはほとんどなかった。普段でもときどきやることになる「急遽7インチ盤を探し出してかける」という行動はほとんどしないで済んだ。オリヴィア・ニュートン・ジョンの「フィジカル」をかけたときだけは、さすがに7インチ盤の販売ボックスに駆け寄って対応した。
どのみちシングル盤が活躍した時代の音楽ではない。最近はまた一曲ずつのダウンロード販売ができる時代になったので、アルバム志向が以前ほど強くないのかも知れないが、TOTOあたりはアルバムで聴くことが当たり前の連中である。よほどのマニアでもない限り、TOTOの7インチ盤は「見たことすらない」などと言われる。しかもファースト・アルバムがヒットしているだけに、余計にアルバム志向が強いようだ。TOTOの7インチ盤は「アフリカ」や「ロザーナ」のようなメジャー曲ですら、結構レアなのである。
1980年代という時代は、実に面白い。1982年にCDが登場したことにより、途中でアナログ盤の衰退を迎える。1986年を境に主要メディアの座をCDに明け渡した後のアナログ盤の扱われ方は酷いもので、新曲の7インチ盤シングルなど店舗で売られているものではなかった。マニアが集う店では扱っていただろうが、それ以外には発売日に入手したいファンがファンクラブを通して予約したりなどといった方法でしか入手できなかったのだ。中古盤として出回っている7インチ盤も、発売された時代で背景に持っている事情が異なる。何等かの事情で販売ルートが判る場合、例えばレコード屋さんの銘が入った外袋がついている場合などは、また別の面白さがあるのである。
1986年87年の7インチ盤シングルは、別の興味もある。アナログ技術が頂点に達していた時期でもあり、非常に高音質なのである。実は昨日もTOTOの6枚目のアルバム「ファーレンハイト」からのシングル「アイル・ビー・オーヴァー・ユー」の国内盤と米国盤の2枚を同じ方が購入されたのである。オーディオ興味という点では全くもって正しい行動であり、非常に面白い聴き比べができる素材なのである。しかも恐ろしくレアなミント・コンディション盤なので、この2枚を同時に購入できるのはウチくらいのものだろう。オーディオ趣味の方が時々おっしゃるのだが、好きな曲は7インチ盤でも持っていたいのである。最近は売ってしまっているので言えた立場ではないが、ウチの商品は「好きな盤は7インチ盤でも持っていたかった」ものが溜まりに溜まったものなのである。
昨今のシングル購入の傾向がアナログ盤ブームと合わさったとき、7インチ盤ブームがくるかもと思うのは私だけだろうか。どのみちマニアックな話題であり、一部の音楽にしか通用しない話である。さて、次回のイベントはブルース特集だ。これまた7インチ盤にはご縁のないジャンルだが致し方ない。本来なら7インチ盤専門店のプロモーションも兼ねたイベントだったものが独り歩きして、どこかへ行ってしまったのだ。あとは思い切り楽しむしかない。そもそも、ブルースなどという音楽の7インチ盤なんぞ見たこともないが、一方でアルバム志向が強いとも思えない。ジューク・ジョイントなどで即興演奏されていたライヴにこそ真骨頂があるのだろうから、あまりメディアに拘る必要もない。気楽に好きなオススメ曲を探し出す作業に取り掛かるとしよう。
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