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続・下町音楽夜話 0273「ラジオはお好き?」

何度も書いていることだろうが、自分が子どもの頃の情報源はラジオだった。昨今のインターネットに情報が溢れている時代とは違い、月刊誌やラジオが貴重な情報源だったのである。子どもの頃はまだFMも充実していなかった。NHK-FMが1969年3月、FM東京が1970年4月に放送開始しているはずで、まだまだ子どもが持っているラジオでは聴けるものではなかった。親が持っていた家具調のステレオにチューナーがついていて、初めてFMの音質に触れたのはもう少し後だった。針金を被膜しただけのアンテナをカーテンレールに引っかけると、意外なほどいい音で聴こえることに驚いたものだ。

中学生の頃はまだAM中心だった。文化放送の入りがよく、よく聴いていたが、徐々に洋楽の知識を増やし始めると物足りなくなってしまい、FENに興味が移ってしまった。ウルフマン・ジャック、メアリー・ターナー、ケイシー・ケーサムから教えられた曲が、自分という人間のかなりの部分を形成しているように思う。結構ハードな曲をかけるわりにいつも冷静で落ち着いた声のメアリー・ターナーに憧れていた。さほどテレビも観ないで音楽に夢中になっていたヤツは友達も少なかったが、音楽を語る人間がクラスに数人はいて皆それぞれ趣味は違ったが、お互いリスペクトに近い感情をもって情報交換していた。

一方でFMは短期間に進化を遂げ、魅力的な番組が増えていった。1980年代は映像の時代とも言うが、FMブームの時代でもあり、エア・チェックしたカセットテープの山が自分の元にもあった。カセット・インデックスを作ることに多くの時間を割いた同年代は多いだろう。FM雑誌についていた切り取って使うインデックスの用紙のデザインも魅力的だった。鈴木英人デザインの絵柄のカセットテープは山ほどあったし、クルマの中で聴く順番に拘って専用のキャリーケースを常備していたものだ。

コロナの自粛期間中にnoteを始め、自己紹介的な文章も多く書いていたこともあってか、新しく繋がった人間がいる。「一度きてみたかった」と入ってくるなり笑顔で話しかけてくるお客様も随分いらっしゃる。コロナのせいで経営面はガタガタだが、少しは嬉しこともあるというわけだ。やはり飲食だけの繋がりよりは、音楽や読書など趣味的な繋がりもある関係は強固と言えよう。自粛明けは音楽好きのお客様が次々いらっしゃって、売上は大したことがないわりに忙しい日々を送っている。心配は多いが、意外に楽しい日々でもある。

さてそんな中、中央エフエムという中央区京橋にあるコミュニティFMの社長さんが訪ねてきた。少し前からSNSで繋がり、こちらのことはある程度情報入手済みという様子だった。先日のイベントにもご参加いただいたのだが、その終了後にいきなり「夜中の番組をやりませんか」ときた。スタッフが辞めてしまったこともあって、店にずっと居る昨今の状況を鑑みると、2つ返事でオーケーとは言い難いが、還暦過ぎの人間に新しい楽しい話など通常は来るはずもない。「やらないという選択肢はないんじゃない」というスタッフの意見も聞き、「一度スタジオ見学にいらっしゃい」というお誘いを真に受けて行ってみた。結果来月から月一回程度、夜中に2時間の番組をやることになった。コロナがもたらした新しい動きの中でも、かなり面白いものではなかろうか。

昨今のメディアの状況はいかがなものか。騒がしいバラエティ番組が多いテレビには概ね魅力を感じないが、優れたドキュメンタリーや紀行ものなどの貴重な番組を否定する気はない。音楽番組は以前ほどなくなってしまったが、洋楽の番組は増えているようだ。それでも1980年代のベストヒットUSAやMTVのように魅力を感じることはない。インターネットの普及とともに、双方向性などを精力的に取り入れいろいろ活路を見出しているようだが、ブログ・ブームを経由してSNSの普及が実現した一億総発信者側という状況の中で、魅力を維持しながら生き残っていくのは大変なことなのだろう。笑えない芸人のスキャンダルなどどうでもいい人間にとって、魅力あるマスメディアというものは何なのか考えさせられる。むしろ、垂れ流し的なYouTubeの方がよほど魅力的なのだから、オンデマンドの検索機能だけで十分などと乱暴なことを考えてしまう。

ラジオも運営に苦労が伴うのは同じだろう。ユーザーの時間を奪い合う競争相手はテレビのみならず、スマホのソーシャルゲームやインターネットの配信サービスまで多岐にわたるわけで、一方向の古いマスメディアの役割は考え始めると暗くなりそうだ。それでも面白いもので、昔のラジオの魅力を否定する人間に会ったことはない。コミュニティFMの地域貢献の側面などは考えなくてよいという。それなら昔のラジオのどこがどう魅力的だったのか、じっくり考えて再現してみたいと思う。とにかく初回のテーマは「ラジオ映えする曲」ということで、10曲から20曲ほど用意せよという。お安い御用だ。…しかし、ラジオ映えとは如何に?要は好きな曲をかけろということか?


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