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清澄白河カフェのキッチンから見る風景 : フリートウッド・マックの憂鬱

フリートウッド・マックという、扱いが難しいバンドがあります。とりわけ7インチ盤専門店としては、どうしようもなく扱いが難しいバンドです。超有名バンドですから、あまり細かく書いても詮無いわけですが、そういうことからして困ったちゃんなんです。そもそもリーダーはドラムスのミック・フリートウッドです。不動のメンバーとして、ベースのジョン・マクヴィーがいて、バンド名も2人の名前をくっつけただけというのが知れます。このバンド、フロントマンがどんどん代わるのですが、それに合わせて音楽性まで変えてしまうことも、扱いが難しい理由の一つです。

スティーヴィー・ニックスとリンジー・バッキンガムの2人をフロントに据えた時期が全盛期ということにはなるでしょう。このメンバー最初のアルバムは「ファンタスティック・マック」ですが、ナンバー・ワンになるまで58週もかかるという、珍しい記録を持っています。ロングラン・ヒットと言えば聞こえはいいですが、認知されるまでに時間がかかったとも言えます。スタートがバリバリのブルース・バンドだったのに、ギタリスト3人がいなくなって、ボブ・ウェルチとボブ・ウェストンの2人が加入して思い切りポップになってしまい、そこそこ売れるものの、この体制は長続きせず、軌道修正するかと思いきや、新体制ではもっとポップになっていたわけですからね。

この体制での2枚目「噂」は、グラミー賞最優秀アルバム賞を受賞して、4000万枚以上売り上げているモンスター盤ですからね。このメンバー・チェンジを失敗と言う人間はいませんやね。続く「タスク」も大名盤でした。そして、ぶっ壊れた人間関係を引きずっていることでも有名になってしまい、いいアルバムを作り続けるも、評判はあまりよくないという時代が続くわけですな。その後は、大好きなギタリストのデイヴ・メイスンが加入したり、出入りが激しくなってしまいますが、リリースされるアルバムがいずれも素晴らしい出来なので侮れません。スティーヴィー・ニックスはエロカワ・キャラでソロでもヒットを連発し、なんとも難しい立ち位置で現在に至るわけです。各人のソロ作も一定以上のクオリティですし、私的にはミック・フリートウッドのソロはどれも絶賛しております。

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さて、扱いが難しいという点に戻りますが、7インチ盤専門店としては、これほど有名なバンドにもかかわらず、恐ろしく流通量が少ないバンドと捉えています。とにかく大ヒット曲がごろごろあるのに、全然手に入らないんです。アルバムのクオリティが高いためにみんなアルバムを買ったということなのでしょうか。最大のヒットと思われる「オウン・ウェイ Go Your Own Way」ですら、自分が持っている盤以外、中古盤店で見かけたことはありません。…一度あるかな?レンタル落ちの、テープ跡がベッタリの盤が、もの凄い値段で売られておりました。まあ、中古盤店の7インチ盤のコーナーにフリートウッド・マックのインデックスがあることはないわけです。「タスク」からのシングル「タスク」や「セーラ」は時々見かけますけどね…。

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さて、好き者は「初期のフリートウッド・マックの国内盤シングルはないか?」などと言ってくるわけです。…ありません!って。実は輸入盤のスリーヴなしなら少しは持っています。まずは、最初の英国内でのナンバー・ワン・ヒット「アルバトロス(あほうどり)」ですが、これは、大ヒットした後にリリースされた「豪華カップリング盤」的なブツでして、直前のシングル「Need Your Love So Bad」がB面に収録されております。ラベルの曲名の上に「HALL OF FAME HITS」という文字が見えます。初期フリートウッド・マックでも最も影が薄いダニー・カーワンがいなければこの曲は生まれなかったということですが、これインストルメンタルなんですよね。…なんでヒットしたんだかという曲のようにも読める記述すらある曲です。

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もういっちょ、大人気曲「オー・ウェル」もありますが、これは途中でぶった切ってPart 1とPart2にして両面に無理やり収めたシングルです。この盤の面白いところは、その音のよさでしょうか。もうゾクゾクするくらいにいい音で鳴ります。こんなにいい録音だったかと呆れるほどです。アコギの響きが異様に深みがあって、これは手放す気がない値札が付けられております。試聴もできますから、ご興味がおありという場合はご連絡を。この曲の国内盤はスリーヴが何種類かあって、どれも希少盤扱いですが、果たしてどんな鳴りやら…。状態のよくない盤は流通しているようですが、試してみたいものです。まあいずれも50年ほど昔のブツですから、状態がいいものがある方が凄いわけですけどね。

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さて、笑えるのが「フォー・ユア・ラヴ」でしょうか?何故かStereoヴァージョンとMonoヴァージョンをカップリングしたプロモ盤を入手してしまいました。これは音が恐ろしくチープで、「オー・ウェル」の鳴りを知る身としては、余計にビックリです。しかも区別がつかないようなテイクですが、随分長さが違っていたりして、何なんですかね…?この曲、作者は10ccのグレアム・グールドマンです。1965年にヤードバーズへ提供されたポップな曲でして、これが嫌いでエリック・クラプトンはヤードバーズを脱退したという、曰く付きの曲です。それをブルース・バンドから脱皮してボブ・ウェルチを擁した時期のアルバム「ミステリー・トゥ・ミー」でカヴァーしているわけです。ピーター・グリーンをはじめ、ブルースマンが一目置くようなギタリスト連中が脱退したところでこの曲をやりますか…。ブルースに対する決別みたいな選曲というわけですかね。

まあ、斯様に語り始めたらキリがないバンドなのに、流通量が少なくて手元にないわけでして、「何とかならんかい」という悔しさのような、ジレッたさのような、複雑な気分にさせられるわけです。扱いが難しいということがご理解いただけますでしょうか?。まあ気長に探したいとは思いますが、コロナの影響で仕入れに行けるわけでなし、ウェブでいろいろ調べてはジリジリしているというところです。



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