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続・下町音楽夜話 0284「夏の終わりは不機嫌に」

ようやく朝晩の気温が下がってきた。これほど有り難いと感じる秋の気配もこれまでに経験がないほどだ。先週あたりから夏バテ気味で、少し体を休め休め動き回っている。結局自分が動かなければいけないことが多すぎるようで、働き方を見直すべきだとは常々思っている。そんな中でドタキャン的なことをされると非常に腹も立つわけで、体調不良と相俟って機嫌の悪い日々になってしまった。周囲に迷惑をかけたかもしれないと反省はするが、一層時間を大事にする感覚が強まってしまった。残り少ない時間をどう有効活用するか、真剣に考える日々でもある。読みたい本がどんどん積み上がっていくのも加勢しているのだろう、買わなければいいと言われるかもしれないが、いざ読みたいと思った瞬間に手元にないのが嫌で悪循環に陥っている。まったくもって困ったものだ。

さて気温が下がってきたことで、レコード整理を再開した。意味が分からないかもしれないが、自宅と店に分散して置いてあるため、頻繁に運ぶことになる。特にイベントで使いたい盤を持ち込むときは待ったなしなので仕方がないと諦めるが、持ち帰りのタイミングはいろいろな事情に左右される。イベントで評判がよく、「また聴きたい」という気配を察知すれば店に置き留める。結果として段ボールが溢れかえっているカフェという、嬉しくない現状を作り出している。加えて夏場は高温を避けて運ぶことになる。クルマに置きっぱなしにすると歪む可能性もあり、持ち帰るタイミングでかなり無理を強いられることもある。今年の夏は、オンボードの温度計で45℃まで確認した。天気予報などで言われている最高気温はあくまでも日陰の百葉箱の中の話、アスファルトの照り返しが厳しい路上の温度はもっともっと高いのだ。まったくもって昼間に散歩させられている犬が心配だ。

さて、コロナ禍で、RSDレコード・ストア・デイが3月に分散されて開催されている。有り難いような、どうでもいいような、お客様に話題を振られることも考えて、レコード関連の情報は一応チェックしているが、その一環でしかない。ここ数年は興味をそそられる盤が減ってしまったのだ。以前は好きなミュージシャンの10インチ盤などは全て買い揃えていたが、最近は貴重な音源か否かをしっかり見極めているし、そもそも自分が好きな古いアーティストのものは少ない。したがって、もう興味がないということにしてしまえばいいのだが、そうはいかないところがレコード趣味人の性、つい情報を見てしまう。

今回はその興味がなくなっていく状況を後押しするような盤を入手してしまった。2019年秋公開の映画「マザーレス・ブルックリン」のサントラからカットされたシングル盤を買ったのだ。主演のエドワート・ノートンが監督も務める作品で、あえて原作とは違う時代設定を選んだことに興味をひかれ、チェックしていたのだ。ジョナサン・レセムが書いた原作では1999年という発刊当時の現在の物語なのだが、それをあえて1957年に持っていったのだ。私立探偵の主人公、ジャズクラブ、レイシズムといった要素を考えれば納得のいく変更だ。小道具として当時のクルマが多数登場し、魅力的な街中や路上の風景が見事に再現されている。加えて、ブルース・ウィリス、ウィレム・デフォー、アレック・ボールドウィンといった魅力的なオジサンたちをはじめ、惹きつけられる俳優陣が揃っている。

そして問題のサントラはウィントン・マルサリスが総指揮を務め、タイトル・チューンはレイディオヘッドのトム・ヨーク作、しかも演奏のクレジットはThom Yorke & Fleaときた。今般のRSDではA面トム・ヨーク、B面ウィントン・マルサリスの7インチ盤が枚数限定でリリースされたのである。喜び勇んで買ったはいいが、いざ音を聴く段になって愕然とした。通常の7インチ盤シングルでは5mmほどの幅があるはずのアタマの無音部分がないのである。普通に針を下すともう曲が始まっているのである。1mmほどの外周目いっぱいのあたりに下すことを試み、3回目でやっと最初から聞くことができた。ようはレコード盤のことを知らない連中がプレスしていることが明らかな、ミスプレスに近い盤なのである。いや完全にミスプレス盤だ。B面はノイズまみれで聴けた音ではない。

懐古趣味に走っているつもりはなかったが、最近リリースされるアナログ盤に愛着が持てなくていけない。リリースされるのはほぼ全てが重量盤で、ジャケットは昔なら特別仕様とでも言いたくなる分厚いもので、やたらと幅がありレコードラックに並べると妙に目立ってしまう。昔のレコードほど収納できる枚数が多くないこともあって、少々腹立たしい。一つの面に収録されているのは3曲程度と少なく、一枚で収まりそうな時間のものでも2枚組だったりする。結果として頻繁にひっくり返していることになり、店で調理などしながら聴いていると疲れることになる。一曲単位のダウンロード販売が可能という時代のせいか、アルバムを通して聴くことは想定していないのではなかろうか。昔は両面の1曲目にウリの曲を持ってくるなど、いろいろ工夫されていたと思うが、そこまでの緻密さが感じられない代物ばかりなのだ。この残念な感覚をご理解いただけるだろうか。やはり懐古趣味のジジイの戯言なのだろうか。…なんかなぁ。


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