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7インチ盤専門店雑記081「オーネット・コールマン」

カフェの中でやっている7インチ盤専門店という立ち位置で最も遠い存在、オーネット・コールマン。決して嫌いではありません。カフェをやるにあたって、ジャズ喫茶にはしたくなかったので、BGMは古いロック中心で行くという決め事がありました。でもジャズを全くかけないわけではなくて、時々はかけているわけですけどね。とりわけHDDプレーヤーのデータの3分の1程度はジャズですから。ランチタイムなどの忙しいときに、レコードをひっくり返す余裕はありませんから、HDDプレーヤーのお世話になるわけです。混んでいる時にジャズが流れていることは時々あります。

お店を始めたころ、大好きなパット・メセニーやブレッカー・ブラザーズあたりを中心に聴いていた時期がありました。カフェのBGMとして最適なあたりかもしれません。でも時々「アカン!」となることがありました。「SONG X」です。ご存知、オーネット・コールマンを迎えての、彼らしいフリーです。前衛すぎて、ちょいとカフェには厳しいかという気持ちもありましたから、少々憚られる気もしていました。でもチャーリー・ヘイデンも大好きですから、HDDプレーヤーから落とすことはしませんでしたけどね。

オープンして1年2年と日が経ち、徐々にご贔屓にしてくれるお客さんが増えていった頃、文字通り毎日通ってくる方たちに、BGMのことをどう思うか伺ったところ、「分からない、多分聞こえてない」というリアクションが多く、こちらも解放されたような気がして、気兼ねなく好きなものをかけるようになりました。今では、「SONG X」が意外にポップだと思っていたりします。

とりわけ、その当時好んで聴いていた盤がありました。1987年のライヴです。もちろんチャーリー・ヘイデンも参加しています。「ドン・チェリー、うるさ~」と思いつつ、ハマっておりました。如何せんジャケ買いだったと思います。ユニオンあたりで見つけたとき、メンバーはチラ見したものの、ジャケット写真だけで、「これは買いでしょ」と即決でした。絶不調だった頃、随分元気をもらった盤なんです。

これがついつい聴きたくなり、ランチタイム後、お客さんが減ってきた時間帯に時々かけておりました。…それなりのボリュームで。そんな時、お一人でお茶と読書を楽しんでいらした女性がおりまして、一直線に私のところまできて、「オーネットですか?」とおっしゃいます。「ウルサイ」とでも言われるかと思っていたので、のけぞりました。「80年代のライヴです」とかいった返答をしたところ、わかっているといった表情で「いいですね。清澄白河でこれが聴けるとは…」といったようなことを言われ、笑いながらお席に戻られ、最後まで聴いてからお会計となりました。「またきます」とおっしゃられたと思いますが、その後お会いしてはいないかと思います。

時々こういったお客さんがいらっしゃるんです。音楽には興味がなさそうな顔をしておきながら、帰り際にボソッと「自宅で聴くのと低音が違って聞こえますね」とか、「マイケル・ブレッカーは意外に個性がありますね」みたいな言葉を残していかれます。そうやって驚かされたことはもう数えきれないほどあるわけですが、オーネット・コールマンがお好きそうなあの女性の嬉しそうな笑顔は何だか忘れられません。

リベレーション・ミュージック・オーケストラなどのフリーな盤を一通り聴きまくり、あらためてオーネット・コールマンが意外にポップだなどと思うようになってからは、ただの懐かしい思い出ですが、やはりフリー・ジャズは極力流さないようにしています。業後の仕込み中などには、時々爆音で聴いたりしますけどね。

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