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枯れかけた花柚が復活するまで

引越しのときに花柚とレモンの木を一緒に連れてきた。
地植えから鉢植えにすることになったのでストレスがかかるかも、と覚悟はしていたものの、引越し直後に花柚もレモンもみるみるうちに葉が落ちてびっくりした。

地植えのときは水やりもだいたい雨まかせという感じだったので、水が足りていないのだろうと一生懸命水をやった。でも適量が分からないし、やりすぎると根腐れするらしいし、どうしていいかわからなかった。園芸店を何軒か回ったけど、「常緑樹なのに葉っぱがほとんど落ちてしまうのは…」「新芽が出ていないなら…」という言われどこに行っても手の施しようがないという感じだった。

右が花柚、左がレモン。花柚はまだ葉がついていたが、反り返って潤いもなく元気がなかった。

季節は春で、桜のつぼみがふくらんで咲いて散って葉桜になった。一緒に育てていたオダマキもエキナセアもどんどん緑の葉っぱをつけて咲いた。なのに花柚とレモンだけ時が止まったように姿が変わらなかった。

おーいと声をかけても返答なんてない。葉っぱはどんどん落ちるけれど、木だから花のように萎れるわけでもなく、幹はそのままぶすっと土に刺さっている。それがまた痛々しい。明らかに不調なのにどうすればよいのかまったく分からなくて本当に悩んだ。以前は害虫に悩んだのに、虫すら来ない。

日当たりも風通しも問題ないはずだし、水やりしかできることがないのでとにかく水やりを続けた。特にひどかったのがレモンのほうだった。花柚よりも若い樹齢の苗木だったが地植えにするとぐんぐん伸びて大きくなっていた。大きすぎたので、引っ越しのために鉢植えにする際に枝を大きく切り落とし、根のほうはうまく引っこ抜けずに先端が少し切れてしまった。なので「あのとき大手術しすぎたか…」と悔やんだ。引っ越した直後から葉っぱがどんどん落ち、ほぼ枝だけになった。

夫は水やりもせず(←愚痴)、「レモンでよかったね」とひとこと言った。というのも、花柚は娘の名前にちなんで植えたものだがレモンはそのときついでに一緒に買ったものだったので、私たちはどちらかというと花柚のほうを大切にしていたからだ。とはいえ、死にかけているのは花柚もレモンも同じ。「レモンでよかったね」なんてよく言えるな。

そうこうしている間も水をやりつづけた。
そうしたら。
6月10日に新芽が出た!涙がでるほど嬉しかった。新芽が出ると、そのあとは早かった。ぐんぐん葉が大きくなって、柔らかくて黄緑色の若い葉っぱになった。そうこうしているうちにアゲハの卵を見つけた。これを判断基準にしていいのか分からないけど、ここで卵を生んだということは、この木を生きたとして判断してくれたということなのではないかな?と思った。

6月にようやく出た花柚の新芽

アゲハは去年も何度か育てた。幼虫を見つけては枝ごと切り落としてケースに入れて、家の中で毎日眺めた。一番最初に育てた個体は無事さなぎになったもののうまく羽化できず、広げきれなかった羽を苦しそうに動かしながら絶命したのが若干トラウマになったけれど、飛び立つところが見てみたいと思って結局4回くらい挑戦したかな。けれどもどういうわけか一匹も羽化しなかった。最後のはさなぎになったのに1か月以上出てこず、そのうち褐色になってそのままポトンと落ちてしまった。幼虫のときに何かの病気になってしまったとか、寄生虫がついて蝶ではないものが殻を破ってでてくるとか、いろいろあるみたいだけれど、成虫になるのはこんなにも大変なことなのかと圧倒された。最初は子どもに見せてやりたいと思って育て始めたけれど、最終的に私がひとりで育てながら喜んだり打ちのめされたりしていた。

夫婦みたいに見えるけれど、どっちも赤ちゃんだ
こんなところでさなぎになりかけた個体を見つけて‥
数十分後の姿。神秘。

なんとか生き返った花柚の木で育ったアゲハがさなぎになった。8月初旬のほぼ同時期に二匹、そこから少ししてもう一匹、そのあともう一匹。最後の一匹はベランダの柵でさなぎになった。鉢を抜け出してベランダの上を歩いて排水の溝を渡って柵に登った。距離にして2.5メートルほどある。そもそもその小さな目でどうやってその場所を見つけたのか。それでどうやって「あそこまで行こう」って思いついたのか。

さなぎを見て「ねんねしてるの」と教えてくれた次女2歳1か月

ここでもいろいろあった。同じように排水の溝を渡ろうとしたけれど失敗して水没した個体もあったし(多分ちょうど水が流れてきたのだと思う)、知らない間にベランダの壁の端っこでさなぎになったけれど羽化できなくて曲がった羽のまま蜘蛛の巣に引っかかった無残な姿で見つかった個体もあった。飛び立つまでの道のりは本当に長い。ベランダの壁の外側(マンションの外から見上げて見つけた)でいつのまにかさなぎになってすでに飛び立っていたものもあった。

羽化を見届けることができた個体はいずれも早朝から羽を伸ばし始めた。最初の一匹はちょうど8月11日の山の日で休日だったので、子どももじっくり見ることができた。私が指を伸ばすとそこにぎゅっとつかまって羽を動かしてくれた。蝶が指に止まってくれるなんて、羽化の時しか無いと思う。なんだか生まれたての赤ちゃんを抱っこしているような気持ちだった。

アゲハの脚の圧を感じた
ベランダでさなぎになった個体も無事羽化した

花柚は生き返って、葉をつけて、その葉でアゲハを育てた。
いやあ、感無量だった。

もともと植物にそんなに興味が無かった。花屋で花を買うことはあっても、それはもう綺麗に咲いた「静物」だった。でも育て始めると全然見え方が変わった。これは生き物だなあと思うようになった。新芽が出るのにも、木の中でいろいろな準備があったに違いない。表面的には葉が落ちて時が止まったように見えていたけれど、中では新しい準備をしていたんだな。以前マリーゴールドを育てたことがあって、「種自体に何かを施すことはできない。土、水、光の環境を整えて、あとは種に任せるしかない」と痛感したことがあったのだけど、今回もまさにそんな感じ。私は水やりしかできなかった。

本当に子育てと一緒だなあ。環境を整えてやるとあとになってぐんと生長する。子どもに対しても、もうちょっと見守ってやればいいのに、ついつい先に口出ししてしまうな(苦笑)

アゲハがみな飛び立つと急に寂しくなった。ベランダの花柚を見ても残されたのはさなぎの殻だけ。子どもが巣立つってこんな感じ?今まで子どもだと思って育てていた花柚が急に子育て仲間になった。木のためには本来はアゲハを駆逐しないといけないらしい。実際アゲハの幼虫に食い荒らされた花柚は再び丸坊主になった。せっかく葉を付けたのにたくさん食べられてしまったので、このあとは養生してゆっくり大きくなってもらおうと思う。

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