見出し画像

江戸料理「豆腐百珍」「玉子百珍」から 一汁七菜

古伊万里好き。
ヨーロッパのアンティークももちろん大好き。
それらをただ眺めるのではなく日頃の食事シーンで使いたい、使いこなしたい。
そう決めて半世紀近く経つけれど、まだまだ思うように使いこなせているとは言えないなあ。
道は遠い。

江戸時代後期の古伊万里染付に魅せられて買い求めたのは、1970年代の終わりごろで、ほとんどは奈良の骨董屋で買った。
テーブルに並べ、手に取り、ふと考えたものだ。

この器に江戸時代の人々はどんな料理を盛りつけていたのだろう?

六年前だったか江戸料理の「浦里」について調べたくて、図書館HPで「江戸料理」と入力検索して、出てきた本で興味深いものを次々と借りた。
俄然作ってみたくなった。
それがマイブームのきっかけ。


何も江戸料理のレシピを限りなく忠実に再現したいのではない。それは私には出来ぬことでもある。
江戸料理のエッセンスみたいなものを感じ取れればそれでいいわけだ。
気楽にいくべし。


江戸時代最初の刊本といわれる「料理物語」が出現したのが寛永二十年(1643年)、
それまでの古い殻を破り新しい時代の料理を目指し、その後元禄時代前後に様々な料理本が出て来る。
詳しい江戸時代の料理史はさておき、私が何度も読んでいるのが天明二年(1782年)に発刊された「豆腐百珍」で、大人気となり、翌年には「豆腐百珍続編」刊行、この百珍シリーズは「玉子百珍(萬宝まんぽう料理秘密箱)」が天明五年(1785年)に、「牛蒡百珍」「甘藷百珍」「蒟蒻百珍」などが次々と刊行、人気を博したようだ。


こんな楽しい趣味はないでしょと、某日、江戸の人々の多彩なる豆腐、卵料理のアイデアレシピの献立で、お昼ごはんを楽しむことにした。

和室で二月堂机にしようか迷ったけれど
テーブルに讃岐彫四方盆をセットして食卓を整えました
松の木をくり抜いた讃岐四方盆があるだけで渋くなります


お花は道端に群生して咲いていた黄色の小花と 蒲公英たんぽぽ


江戸料理 献立 一汁七菜
玉子なます
小松菜お浸し
青海せいがい豆腐
利休卵
えび豆腐
飛龍頭ひりょうず
糠漬け〜大根、人参、胡瓜
若竹味噌汁
雑穀入り五分搗き米


手間がかかるといえばかかるような、いえいえ、 飛龍頭ひりょうず以外はぱぱっとできる優れレシピです。
だって豆腐と卵のレシピですから。

玉子なます

この組み合わせのアイデアがすごい!
とろ~りまったりゆで卵と錦糸卵に大根おろし!
江戸のタルタルソース和え!

玉子なます
古伊万里染付牡丹唐草向付 江戸後期

卵1個は固ゆで卵に、もう1個は塩少々を加えて薄く焼き錦糸卵にする
ボウルにゆで卵黄身と塩麴、煮切り酒、梅肉ほんの少々を加えてとろりとさせ、大根おろしを味を見ながら入れて和え衣を作る
錦糸卵とゆで卵白身の千切りをこの和え衣でふんわりと和えて、わさびを天盛りにする

*私は煎り酒の代わりに塩麴と煮切り酒、梅肉ほんの少々に替えています
甘麹や煮切り梅酒を使ってもいいと思います


青海せいがい豆腐

料理名に風情のあること!
薄い葛湯で絹豆腐をさっと湯がくというのがひと手間、喉越しがつるりと心地よし。

青海せいがい豆腐
絹豆腐をウツクシク掬って盛り付けるのが難しいのですよ
青海苔で 青海せいがいを表現

薄い葛湯で絹豆腐を湯がくのですが、本葛粉は高いので、私はわらび餅粉(本わらび粉ではなくて甘藷粉)で湯がく
お椀に湯がいた絹豆腐を掬ってよそい、葛湯も注ぎ、醤油をほんの少し垂らす
青海苔粉を振って青海せいがいの景色とする


利休卵

胡麻を使った料理名に利休の名がつけられたものが多いのは、利休が胡麻料理を好んだというのではなく(おそらく)、胡麻を使った料理の見かけが利休好みの信楽しがらきの茶器の肌の景色を思わせるからというのが最もな説だと私も思います。

こんなに胡麻を入れるの?というくらいたくさん使った胡麻がむっちり濃厚な卵料理。

利休卵
びっくりするほどカチカチの仕上がり!
だけど食べてみるとそこは玉子です
固めの具なし胡麻フリッタータ?
中々イケます

白胡麻をねっとりするまで擂るのですが、今回は練り胡麻ペーストとすり胡麻(炒り胡麻を擂る)を合わせて使いました
卵2個をよく溶き、別のボウルなどで練り胡麻ペースト大匙1とすり胡麻大匙1、煮切り酒大匙1、塩麴、醤油少々をよく混ぜて、溶き卵に加えて卵液を作る
鉢などに卵液を入れて、蒸し器でゆっくりと蒸しあげる

*次回は煮切り酒をもう少し増やしてみりんも加えて、玉子焼き器で利休玉子焼きにしようと思っています
ぜったい美味しいはず!


えび豆腐

想像するだけで味がわかる現代にもある豆腐料理のルーツ?
ごはんにのっけても美味しいはず。えび炒り豆腐ですね、これは。

えび豆腐
薬味には大根おろし
青葱の小口切りか姫葱を飾ると彩りもよかったのですが・・・


木綿豆腐は1ℓのペットボトルを上に載せて重しとして、一時間水切りをしてから使う
好きな海老を下処理をしてから細かく切る
フライパンに植物油(私は圧搾菜種油使用)を敷き、水切りして手でつぶした木綿豆腐を入れて炒める
細かくなって火が通ったら、海老と日本酒少々を加えてさらに炒める
最後に塩と醤油で好みの味付けに仕上げる
器に盛り付けて大根おろしを天盛りにする
あれば青葱小口切りか姫葱を飾る
 
*これは我が家のケのお惣菜にしようと思いました
玉ねぎのみじん切りをレンチンしてから炒めて、そこに豆腐と海老を加えれば、玉ねぎの甘さで旨みも増すはず


飛龍頭ひりょうず

現代も精進料理のスターである 飛龍頭ひりょうず、がんもどき。
江戸料理本では具を混ぜ込まずに豆腐で真ん中に包んで揚げてある。
豆腐生地に混ぜ込んで蒸してから、切り分けて揚げる角 飛龍頭ひりょうずもあるのです。

飛龍頭ひりょうず
フライパンで焼きました
トッピングは姫葱
古伊万里染付蛸唐草なます皿 江戸後期

具は干し椎茸、木耳、午房、人参、筍、ゆでそら豆にして、そら豆以外は2㎝長さの千切りにし、胡麻油少々を敷いたフライパンで炒め、干し椎茸戻し汁、酒、醤油少々で炒り煮にする
木綿豆腐は水切りしてからすり鉢で擂ってなめらかにし、塩とわらび餅粉を入れてさらに擂る
木綿豆腐で具を包み、丸め、まわりに小麦粉をまぶしてから、170~180度の油でカラッと揚げる

*揚げ油に胡麻油を混ぜたほうがコクがでます
画像を見るとわかると思いますが、一個目を揚げていて揚げ油が頬に飛び、中断して流水で冷やし、保冷剤で冷やすというハプニング、残りは急遽フライパンで焼くことにしました
あらあら、でした・・・
(すぐにダイソーで油はね防止ネットを買ったのは言うまでもありません)
豆腐生地には大和芋も少し加えたほうがまとまりやすいと思います


左が具
すり鉢って日本の優れた日常雑器だと思います
用の美


豆腐懐石っぽい献立になったけれど、汁物を旬の筍と木の芽の若竹味噌汁にしたことで、まとまりが出た気がする。

糠漬け〜大根、人参、胡瓜 
器は1851年製菊花豆皿
若竹味噌汁


漆器以外は江戸後期の古伊万里の器


菊花の箸置きは萩ガラス工房の製品
幕末・維新の頃に硝子制作を始め、時代の混乱の中頓挫した萩硝子を、
平成になって復刻した工房の箸置きです


青海せいがい豆腐以外はどれも少し多めに作り、翌日の肴にして盃を傾けながら、江戸料理の本を刊行した人々とそれらを私たちの時代につなぎ伝え残してくれる人々へのオマージュとしたのだった。


もう二品紹介。

豆腐百珍で一番よく作るのが 辣料からみ豆腐

蕎麦打ちとそば湯粥ブランチの献立の一品にしていますが
日本酒の肴にもぴったり!


辣料からみ豆腐 作り方
醤油、酒を加えた鰹出汁にすりおろした生姜をたっぷり加えた煮汁で、好みの大きさに切った木綿豆腐を、コトコトと長時間煮る

*私のコツとしては木綿豆腐は切ってから水切りをして煮ることと、
朝から晩まで煮る代わりに一時間煮たら火を止めて味を馴染ませる作業をニ、三回することでしょうか


江戸時代の玉子料理でよく知られているのが玉子ふわふわ

玉子ふわふわ
江戸時代に胡椒?と思うかも知れませんが
薬味としてとても人気があったそうです

料理本の記載もいろいろでこれぞ玉子ふわふわ!というのはわかっていないらしいけれど、幕末の偉人たちの大好物であったり、東海道中膝栗毛にも記述されていたり、近年では静岡県袋井市のご当地グルメとしても人気があるそうだ。

私が目指すのはあくまでも吸い物であるという点
濃いめの鰹出汁にしっかり醤油で味をつけた清まし汁に、砂糖をほんのひとつまみ加えて泡立てた玉子を1個入れて蓋をして蒸らし、吸い物椀についで、つぶした黒胡椒を振る
内径15㎝のSTAUB鍋使用


こんな具合に
江戸料理と戯れる
新緑の清々しい頃


江戸料理本の現代語訳本ならすらすら楽しく読めます。
お薦めの江戸料理本を三冊紹介しておきます。
ぜひ一読を。



この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?