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作戦会議

「作戦を確認しよう」
 川田の背中に声をかけた。
「いつも通りだろ?」
 周囲を警戒してか、川田が振り向かずに答える。受け答えに真剣さが足りないような気がして、僕は少し苛立った。

「今日は大久保の救出が最優先なんだ。ただ逃げれば良いってわけじゃない」
「わかってるって。お前がおとりになってる間に俺が助ければ良いんだろ?」
「そりゃあ簡単に言えばそうだけど」
「大久保には作戦伝えてあるのか?」
「正面はおとりってことはね」
「なら大丈夫だろ。心配ない」

 余裕があるだけならいいが、どこか気の抜けたような川田の態度に不安を覚える。さすがに警察を舐めすぎじゃないのか、とか、もっと細かく話し合っておかないと簡単に捕まるぞ、とか、言いたいことがいくらでも頭に浮かぶ。しかしこの場で声を荒らげるわけにもいかず、僕は渋々それらを喉の奥に飲み込んだ。

「とにかく、一人も捕まらないことだ」と僕が言えば、
「捕まってもまた助けりゃいいけどな」と川田が言う。
「そんな、簡単なことみたいに」と僕が嘆くと、
「俺は誰よりも足が速いからな」と川田が笑う。

「あんまり余裕ぶってるとそのうち本当に捕まるぞ」と僕が釘を刺したとき、川田が後ろに腕を伸ばしてきて人差し指でちょんちょんと床をつついた。はっとして口を閉じ、前方を確認する。

 壇上の校長先生が、笑顔にも険しい表情にも見える、不思議な顔をしていた。
「皆さんが静かになるまでに、3分もかかりました」


「ああそういえば今日しょっぱなから算数かよ」と僕の前で体操座りをする川田が小さく呟いた。
「昼休み即運動場集合だからな。急いで来いよ」僕はその背中に小声で言う。

「最近泥棒ばっかだから、久々に警察もやりてえなあ」
 校長先生の話を退屈そうに聞きながら、川田がのんびりと言った。

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