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海外渡航して分かる、日本医療のPotentialとして大事にしたいものとは



日本医療のPotentialを考える

カンボジアに出張してきました。私の属するTICOというNPOで、JICA草の根技術協力という事業をやっています。約3日の滞在で初期救急対応のトレーニングをカンボジア現地の医療者と一緒にやらせてもらいました。

その中で、カンボジアの医療者と意見交換をしたり、現地の病院を視察させてもらったりしました。

そうすると、カンボジアの医療事情について知ることができると同時に、
日本の医療の特徴についても見えてくるものがありました。

日本でいると当たり前になっていて気づかない、日本の医療の特徴について改めて考える機会でもありました。
今回、その時に考えた日本医療のPotentialとして、あまり他の人が言ったり書いたりしていないと思われる点について、2点ほどお話したいと思います。
1つは医療機関皆保険制度、もう1つは医学教育コンテンツの充実です。

Potential(1)医療機関皆保険制度

まず、挙げたいのが「医療機関皆保険制度」です。
医療機関皆保険制度というのは、耳慣れない言葉です。というより、今私が勝手に作った言葉です。
 「国民皆保険制度」という言葉があります。これは、全国民が公的な医療保険(公的なというところが大事ですが)に入っているという制度で、日本政府がずっと「世界に冠たる」とかいう修飾語もつけて誇りにしてきた制度です。
その重要性はもちろん私も十分理解しているのですが、発想としては日本だけでなく各国にもあります。
財源等の仕組みを保険に限らなければ、公的に医療サービス費用を一部あるいは全部負担する仕組みはほとんどの国で何らかの形で導入されており、これを全国民に行き渡らせようという考えもあります。
 それよりも、私が日本独特だと強く感じるのは、全医療機関が1つの”公的な”医療保険の枠組みの中で医療行為を行っていることです。これは日本に居ると当たり前のことのようになっていますが、外国で医療現場に行くと、いかにこれが特有なものかということが分かります。
 例を挙げれば、私のような民間の私的に造った診療所に、受診する患者さんが公的な医療保険の保険証を出してきて、それを確認してから医療行為を行い、診療後には1−3割の自己負担を払って帰るというような仕組みは諸外国ではあり得ない発想だということです。

諸外国では、公的医療システムと私的医療システムは分かれている。

まず、諸外国では、公的な医療提供システムと、私的な医療提供システムっていうのが分かれている。

公的な医療システムの中では、公的な病院、国立や公立等の病院が医療を提供している。
私的な医療システムの中では、私的な病院、民間の診療所が医療を提供している。

つまり、公的な医療機関は、その公的医療保険あるいは医療扶助の仕組みの中で医療を行っている。患者さんからみると、公的な病院・診療所に行くと、公的に医療費用を負担してくれる制度のおかげで、比較的安く医療を受けられる。

一方で、民間の医療システムの中では、患者さんは自由に民間の、私立の病院や診療所を受診できるけれども、公的な医療保険を使うことはできないので、民間の医療保険(日本でもかんぽ生命とかアフラックとかいろんなところが出していますが)を使ったり、あるいは自費で払ったりして、比較的 高くつく医療を受けるという構造があります。

日本は、国立病院も県立病院も日赤も農協の病院も、私立病院も私どものような民間の診療所も皆同じ医療保険制度、医療提供システムの中で仕事をしています。しかも同じ診療報酬体系です。日本の皆保険制度は診療報酬点数が1つの体系に統一されていて、その中でほぼ全ての医療機関が医療を提供している仕組みですが、これは諸外国から見ると驚くべき仕組みなわけです。
しかしながら、日本で医療の仕事をしていたり、患者として受診する時は当たり前になってしまっています。
なので、海外から日本に視察に来る医療者にも十分で説明できておらず、この日本医療の大きな特徴が理解できないまま帰国されていることが多いのではないかと思います。

医療機関皆保険制度が私たちにもたらすプラスの影響


医療機関皆保険制度が私たちにもたらす影響についてですが、今回はプラス面だけを言います。
1番大きなプラス面は、やはり診療内容に一定の担保がされることだと思います。
つまり、ほぼ全ての医療機関が公的な医療保険の枠組みで仕事をしてますので、ちゃんとしたルールに沿って医療は提供されます。公的な医療保険のルールの下(結構細かいルールが診療報酬算定にはあります)、無茶苦茶なことはできない。あまり外れたことをやると診療報酬が請求できないので、 医療行為に対して一定の担保がなされるということが大きいと思います。
このため、医療のレベルが確保される。ある程度全ての病院・診療所で一定の医療レベルが確保されるという点は大きなプラスだと考えます。
そしてこのことによって、国民、患者さんからの、医療機関への信用、信頼が得られていると私は考えます。

国外に出てみると、特に東南アジアに行くとよく感じるのですが、やっぱり国民、患者さんは、民間の病院というと、どこかうさんくさい目で見ています。ひょっとすると、この病院は医療費をふんだくる病院かもしれない、病状は大したことがなかったり、技術的な未熟な医療しか受けていないにも関わらず、高額な医療費を請求する病院かもしれないっていう、警戒感が患者さん側にそもそもあるわけです。公的な病院に対する信用も日本ほどはありません。
そういう目で見られているから、例えば病院で心肺停止になった人がいると蘇生をしないこともあると聞きます。下手に蘇生などしていて結果が悪いと、病院側の責任を追求される。だから何もしない。
実際、カンボジアではそういうことが、特に交通事故の後民間病院に運ばれた際などに多く起こっていると聞きました。それが私たちの今の初期救急対応トレーニングという活動の出発点でもありました。


生かしきれていない日本医療のPotential

日本において、全医療機関が1つの公的な保険制度の傘の下にいる制度・システムが定着していることが、日本の医療の標準化に相当寄与していると思いますし、また、国民の医療機関に対する信頼にも大きな役割を果たしていると言えます。
これは日本の医療にとって、大きなポテンシャルだと考えます。
ところが、この医療機関皆保険制度が十分に活かしされているかといえば、活かされていないのが現状かと思いますし、活かされていない1つの典型がコロナ禍で現れていたと考えています。
そのことについて、項を改めて論じることができればと思います。












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