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"護る"

prologue

あの時はどうか戦争よおこらないでおくれ 、と願っていた頃だった。 こんな時に TRENCH COATについて触れるのは正直、気が乗らなかっ た。でも きっと表現することに意味があるんだと思う。


服作りを始めて約14年。
”TRENCH” COAT"は2010-12年頃に制作した2着以来、制作していない アイテムだ。正直に話すと 避けてきたアイテムでもある。
Homedict のナオさんから”TRENCH” COAT”という言葉を耳にしたと き、不思議なことに挑戦したいと思う自分がいた。 感覚で今、改めて向き合うべきアイテムだと思ったのだ。
"TRENCH COAT"とは一体何なんだろうか。 まずは自分の頭の中でひとつひとつ読み解くことにした。

※2022年1月22日 打ち合わせで次回作のkey wordsに”TRENCH” COAT “があがった。
2022年1月22日





 EP01
”TRENCH COAT” の歴史を辿った。 塹壕を意味する”TRENCH” 。
トレンチ・コートは塹壕戦が繰り広げられた第一次世界大戦時に作られたア イテムとされている。 第一次世界大戦は急速な新兵器の開発により、死傷者が激増し、塹壕下で戦 うことを余儀なくされた。 英国政府が厳しい環境下にある兵士を守るため、バーバリーに作らせたもの が”TRENCH” COAT”なのだ。
ここでWW1やトレンチ・コートの歴史について語るのは専門家に任せて本 題に戻ろう。


 簡単に言うならば
TRENCH COAT =過酷な状況下で戦う兵士のために作られたもの。
色々と書物を読み漁っている内に兵士たちが”TRENCH” COAT”について書き 記した手紙に出会った。
そこにはこの一着に対する感謝の言葉が記されていた。
そして 想像した。
"TRENCH” COAT”というものは兵士にとってどんな存在だったのだろうか、 と。此処にAKI’s ”TRENCH” COAT” を作るヒントがあるようにも感じた。
伝統的な”TRENCH” COAT”を頭に思い浮かべてみると... 兵士が機関銃を打つ際の衝撃をやわらげるためのガン・フラップ。
肩から荷が落ちないよう留めるために添えられたエポレット。 エポレットは戦時中、負傷した兵士を引っ張り上げるための持ち手としても 使われたそうだ。
雨の浸透を防ぐアンブレラヨーク...etc... 身体への負担を軽減する工夫が凝らされたディテールたちで満たされている ことがわかる。

 そうか... 頭の中で想像と妄想を繰り返す中でひとつの考えへと辿りついた。

決して心が休まる瞬間がなかったあの時代。
”TRENCH” COAT は雨風を凌ぐ機能性のあるものだけではなく、戦場へと 赴く兵士にとって心強い味方のような役割を担っていたのではないかと。 ...”TRENCH” COAT” は心を護る存在だった。そう想像したのだ。

 Ep02
戦争のない世界を願う今。自分が描く"TRENCH” COAT”の形が見え た。“護る”というキーワードを引き継ぎ、Man Madeの香りを纏わせ た一着だ。
人間のパワーは他者を傷つけることに使われるのではなく、
ポジティブな人間力を感じる一着に仕上げたいと思った。
まず 戦時中、機能的であったとされるディテールを全て取り払うこと にした。草むらに隠れる必要もなく、自由に堂々と歩ける現代に着る 一着だからこそ 敢えてミリタリーカラーとされるカーキ2色を使い、 どの角度から見ても目立つ切り替えデザインを入れた。
前身頃には歩く度にぴらぴらと揺れる葉っぱを。 そして、全てにおいて左右非対称にし、自由さを表現した。
平和な時代だからこそ 着れるものを。 袖を通した時に何か心強い鎧のようなものを纏った気持ちになるもの を。
本来の"TRENCH” COAT”が持つ意味が必要とされない世界が来ること を切に願って ここにAKI’S TRENCH COATを。

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